研究課題/領域番号 |
23K04783
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34010:無機・錯体化学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉田 純 日本大学, 文理学部, 准教授 (60585800)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | キラリティー / 金属錯体 / 置換活性 / アップコンバージョン / 粘土鉱物 |
研究開始時の研究の概要 |
不安定化学種がホストへの包接によって安定化する現象は古くから知られており,ホストとして配位高分子や分子カプセル等が活発に調査されてきた。しかし,これらのホストに内包可能なキラル分子の種類やサイズには限界がある。現時点において,光学活性な錯体を包接し,安定化できる一般的なホストは存在しない。対して,粘土鉱物はゲストに応じてその層間を自在に伸縮可能である。一般性が高い反面,完全に密な充填構造は取りにくい。本研究ではキラル錯体間の相互作用を利用して,光学活性な錯体を規則的に包接して安定化するホストへと発展させる。
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研究実績の概要 |
本研究では,キラル光学特性を示す金属錯体を粘土層間に固定化し,キラル無機材料としての開拓を目指すことを最終目標としている。本年度は,C2軸方向に伸長したdppz(dppz = dipyrido[3,2-a:2’,3’-c]phenazine)を配位子に持つ,[Ru(dppz)3]Cl2の合成・光学分割を行い,それぞれについて,粘土鉱物の1つであるモンモリロナイト(以下,Na-Mt)に対する吸着挙動を調査した。また,溶液中における[Ru(dppz)3]Cl2の光学特性評価もあわせて行った。 その結果,吸着挙動においてはラセミ体と光学活性体では,大きな違いは示さないことが確認できた。この結果を踏まえ,今後は置換活性な錯体との混合系評価を行う予定である。一方,[Ru(dppz)3]Cl2の光学特性評価においては,溶液中において比較的高い発光特性を示すことがわかった。そこで,[Ru(dppz)3]Cl2をドナー,9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)をアクセプターと用い,溶液中において,三重項-三重項消滅(TTA)に基づくフォトンアップコンバージョン(以下UC)が発現するかを検討した。その結果,確かにUCが進行することを確認した。今後は,粘土層間中でのフォトンアップコンバージョンについても評価を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1,10-phenanthroline(以下phen)を原料としてdppzを二段階,収率65%で調製したのち,dppzと塩化ルテニウムを反応させ[Ru(dppz)3]Cl2錯体を収率11%で合成した。その後,Δ体とΛ体への光学分割をキラルカラムを用いたHPLCによって行い,その絶対立体配置を円二色性(CD)測定より確認した。次に,[Ru(dppz)3]Cl2錯体の光学活性体とラセミ体を,それぞれ濃度を変えながらNa-Mt分散液に滴下し,各濃度での吸着量を調査した。吸着等温線を作成したところ,光学活性体では最大吸着量がCECに留まることが確認できた。一方ラセミ体においてもCECの約120%で吸着量が飽和した。そこで約120%の吸着量のサンプルに対してXRD測定を行ったところ,層間において錯体の単分子層の形成が示唆された。以上の結果より吸着挙動においてはラセミ体と光学活性体では,大きな違いは示さないことが確認できた。 次に,発光性が確認できた[Ru(dppz)3]Cl2錯体をドナーとして用いて,UCの検討を行った。UCは,長波長光(低エネルギー)を短波長光(高エネルギー)に変換する技術であり,近年三重項-三重項消滅(TTA)を利用したTTA-UCが活発に研究されている。TTA-UCではドナーが光を吸収した後, アクセプターへのエネルギー移動が起こり, 励起三重項状態にある2つのアクセプターがTTAを起こすことで, 元の励起光より高い励起状態への遷移が起こる。本研究では,[Ru(dppz)3]Cl2をドナー,9,10-ジフェニルアントラセン(DPA)をアクセプターと用いて,溶液中におけるTTA-UCを検討した。その結果,TTA-UCは発現し,その相対的な発光量子収率は約2.0%と見積もられた。
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今後の研究の推進方策 |
キラル錯体の吸着挙動としては,ラセミ体と光学活性体では大きな差は見られないことが分かったことから,今後は,置換活性な錯体との混合系評価を行い,ラセミ化の進行が粘土層間で遅延するかどうかを詳細に検証する予定である。一方,当初は想定しなかった,TTA-UCにおけるドナーとしての可能性が[Ru(dppz)3]Cl2に見出された。今後は,粘土層間中でのフォトンアップコンバージョンについて評価を進めるとともに,比較的簡便に合成可能な類似錯体についても,同様のアップコンバージョン評価を進めていく予定である。粘土鉱物の層間において,ドナーとアクセプターを規則配列させることで,UC効率の向上が期待できると考えている。さらに,粘土鉱物の酸素バリア性を利用して,酸素存在下でのUC発現にも挑戦予定である。
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