研究課題/領域番号 |
23K04786
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
遠田 浩司 富山大学, 学術研究部工学系, 教授 (60212065)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | バイオマーカーセンサ / アップコンバージョンナノ粒子 / 近赤外発光センサ / 分子インプリント樹脂 / 金ナノ粒子 / 共鳴エネルギー移動 / 分子インプリンティング / 慢性疾患バイオマーカー / ウェアラブルセンサー |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,様々な慢性疾患におけるバイオマーカーの連続モニタリングを可能とする新規近赤外(NIR)発光センシングプラットホームの開発を目的とする。これは, NIR光を放出するランタノイドアップコンバージョンナノ粒子(UCNPs)に基づくもので,バイオマーカーの分子認識は UCNPs表面の分子インプリント樹脂層で,情報変換はNIR吸収色素/UCNPs間の共鳴エネルギー移動で行う。種々の疾患のバイオマーカーをターゲットとしたセンサを構築し,本研究で提案したセンサが様々な種類のバイオマーカーの連続モニタリングに利用が可能な皮下埋め込み型NIR発光センシングプラットホームとなりうることを検証する。
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研究実績の概要 |
慢性疾患におけるバイオマーカーの連続モニタリングを可能とする近赤外(NIR)発光センシングプラットホームの開発を行った。まず,980 nmのレーザー光照射により,波長800 nmのセンシングシグナル光とナノ粒子表面のみに分子インプラントポリマー(MIP)層を光重合により構築するための520 nmの可視光を同時に放出するランタノイドアップコンバージョンナノ粒子(UCNPs)の組成検討を行い,Ybを18wt%,Tmを1wt%含むナノ粒子が最適な発光特性を示すことを見出した。次に,ナノ粒子表面にグルコース認識MIP層を構築するために,UCNPsを4-ビニルフェニルボロン酸,グルコース,エチレングリコールジメタクリレート,可視光重合開始剤であるエオシン,トリエチルアミンを含む溶液に分散させ,脱気しながら4時間980 nmレーザー光を照射した後,遠心分離/洗浄を3回繰り返した。調製したMIP修飾UCNPsの透過顕微鏡像を撮影した結果,粒径約30 nmのナノ粒子表面に厚さ約10 nmのMIP層が構築されていることが確認できた。更に,アリザリン及びフェニルボロン酸感受性azaBODIPY色素を用いたMIP修飾UCNPsの比色アッセイを行い,UCNPs表面に修飾したMIP層はグルコースに対する認識能を有することを確認した。 本研究で開発するバイオマーカーに対するセンシングプラットホームでは,その情報変換としてUCNPsの共鳴エネルギー移動(RET)を利用する。そこで,UCNPsのアクセプターとしての金ナノ粒子の有用性について検討した。UCNPsの表面をチオールで修飾し,ここに平均粒径90 nmの金ナノ粒子を添加すると,800 nmの発光強度が大きく減少し,520 nmの発光強度が増大することを見出した。この結果は,金ナノ粒子による発光強度制御が可能であることを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書では,令和5年度の研究計画として(1)サルコシン及びグルコース認識分子インプラントポリマー(MIP)表面を有するUCNPsの構築,(2)バイオマーカータグを有するNIR吸収機能性色素の合成を挙げている。 (1)のUCNPs表面のMIP層の構築に関しては, 980 nmレーザー光照射に伴うUCNPsからの520 nm可視光発光を利用した光重合により,糖尿病のバイオマーカーであるグルコースを認識する厚さ約10 nmのMIP層をUCNPs表面に構築することに成功した。これにより,様々な種類のバイオマーカーに対するMIP修飾UCNPs構築の基本的な手法の確立は達成できた。 (2)のNIR吸収機能性色素の合成に関しては,バイオマーカーであるグルコースタグとしてのカテコール部位を有し,重合性官能基を導入した近赤外吸収azaBODIPY色素の合成に成功している。また,NIR吸収機能性色素以外の共鳴エネルギー移動(RET)の可能性を探り種々の検討を行った結果,UCNPs表面への金ナノ粒子の固定化により,800 nmのNIR発光強度が制御できることを見出した。金ナノ粒子表面へバイオマーカータグを導入すれば,バイオマーカーに対するセンシングプラットホームの新たな情報変換機構として利用できる可能性が高い。 以上の理由により,本研究の現在までの進捗状況は予定通りであると言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度以降は,UCNPs表面へMIP層の構築が種々のバイオマーカー認識表面をもたらすことを検証するために,がん疾患の低分子量バイオマーカーであるサルコシン及び心臓疾患のタンパク質バイオマーカーであるミオグロビンをターゲットとしたMIPをUCNPs表面に構築する。また,サルコシンあるいはミオグロビンタグを導入した近赤外吸収NIR色素及び金ナノ粒子を合成し,UCNPs表面への吸着により近赤外発光強度が制御できるか詳細に検討すると共に,UCNPs表面に構築したMIPの各バイオマーカーに対するインプリンティングファクター(IF)の評価を行う。最終的には,重合性官能基を導入したバイオマーカータグ付きNIR色素あるいは金ナノ粒子吸着UCNPsを単官能モノマー,架橋剤及び熱重合開始剤を含む溶液に分散させ,これを二枚のスライドガラスをスペーサーで挟み込んだ鋳型に流し込み,加熱することによってバイオマーカーに対するセンシングフィルムを構築する。このセンシングフィルムを自作のフローセルに組み込み,種々の濃度のバイオマーカー溶液を送液しながら800 nmにおけるUC発光強度を測定する。センシングフィルムのバイオマーカーに対するNIR発光応答の可逆性・再現性はセンシングフィルム構築に用いる単官能モノマーと架橋剤の種類と組成に依存するので系統的な検討を行い,様々な種類のバイオマーカーの連続モニタリングが可能なNIR発光センシングプラットホームを構築し,研究を取りまとめる。
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