研究課題/領域番号 |
23K04795
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分34020:分析化学関連
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
宮部 寛志 立教大学, 理学部, 特別専任教授 (10281015)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | モーメント解析理論 / 高速液体クロマトグラフィー / 分子間相互作用 / 化学反応速度 / 分子集合体 / 界面透過現象 / リポソーム / 界面活性剤ミセル / 界面透過 / 部分操作法 |
研究開始時の研究の概要 |
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やキャピラリー電気泳動(CE)とモーメント理論の組み合わせにより、分子や分子集合体の固定化や蛍光標識化を必要とせず、また人工的なモデル系ではなく分子集合体そのもの使用する本来の条件での化学現象(分子間相互作用や分子集合体への物質移動現象)解析法を開発する。 その際、化学現象に関わる分子や分子集合体を分離系に必要量だけ供給する「部分供給HPLC法」や「部分充填CE法」を開発し、試薬使用量の低減や実験作業の効率化等を図る。「部分操作法」の優位性を明らかにすると共に、それを利用する化学現象解析法の有用性を実証する。
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研究実績の概要 |
先ず「部分供給HPLC法」による実測溶出ピークを解析して化学現象(分子間相互作用や分子集合体界面における物質透過現象)に関する平衡定数と速度定数を解析的に求めるために必要なモーメント式を、拡散に関するEinstein式とランダムウォークモデルを組み合せて開発し、モーメント解析の理論基盤を構築した。 次に「部分供給HPLC法」による化学現象解析の実験的検討を開始した。その実施状況は次の通りである。 (1)「部分供給HPLC法」はこれまでに存在しない新規な実験手法であるため、その基本的情報が明らかになっていない。そこで、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)系を利用し、移動相中のメタノール組成を変化させて模擬的な部分供給実験を行った。今後HPLC挙動の予測値(計算値)を実験結果と比較し、部分供給HPLC法の特徴を明らかにする。 (2) 分子間相互作用の解析:RPLC系を利用し、包接反応系(シクロデキストリン-不飽和脂肪酸)の分子間相互作用の解析に関する予備的検討を行った。 (3) 分子集合体の界面透過現象の解析:部分供給RPLC系を利用し、ドデシル硫酸ナトリウムミセルへのベンゼン置換異性体(ヒドロキノン、レゾルシノールとカテコール)の物質移動現象を解析した。通常の実験操作(連続供給HPLC法)による解析結果とほぼ同様の解析結果が得られることを示し、部分供給法の有用性を実証した。 (4) 分子集合体の界面透過現象の解析:部分供給RPLC系を利用し、リポソームへのクマリンの界面透過現象の解析に関する予備的検討を行った。リポソームとクマリン双方の吸収波長が280 nm付近であるため、溶出ピークが重なって検出された。この場合には正確な解析が困難であるため、クマリン以外の試料物質を探索した。その結果、フルオレセイン(極大吸収波長:500 nm付近)を試料物質として今後の検討を行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度には部分供給HPLC実験により測定した溶出曲線の解析に必要なモーメント式を全て開発した。さらに、分子間相互作用および分子集合体界面における物質透過現象のいくつかの具体的実験系に部分供給HPLC法+モーメント解析法を適用した。一部の実験系では関連する平衡定数および速度定数を求めて、その有用性を実証した。 (1)モーメント式の開発:部分供給HPLC実験により分子間相互作用および界面物質透過現象を解析するために必要なモーメント式を、拡散に関するEinstein式とランダムウォークモデルの組み合せにより開発した。 (2)分子間相互作用解析の実証実験:RPLC系を利用し、シクロデキストリン-不飽和脂肪酸間の包接反応を解析するための予備検討を行った。 (3)分子集合体の界面透過現象解析の実証実験:ドデシル硫酸ナトリウムミセルへのベンゼン置換異性体(ヒドロキノン、レゾルシノールとカテコール)の物質移動現象を部分供給RPLC法により解析し、分配平衡定数(Kp)、外部バルク相から分子集合体内部への界面透過速度定数(kin)や分子集合体内部から外部バルク相への界面透過速度定数(kout)を求めた。連続供給HPLC法による解析結果とほぼ同様の解析結果が得られることを確認し、部分供給HPLC法の有用性を実証した。 (4)分子集合体の界面透過現象解析の実証実験:RPLC系を利用し、リポソームへのクマリンの界面透過現象を解析するための予備検討を行った。しかし、リポソームとクマリンの溶出ピークが重なって検出されるため、正確な解析が困難であると推察された。そこで、クマリンに代わる試料物質を探索し、候補物質としてフルオレセインを選定した。リポソームとフルオレセインは吸収波長が大幅に異なることから、リポソームの影響を受けることなくフルオレセインの溶出ピークを観測・解析することができるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に既に開始した実験的検討については以下のように研究を進める。 (1)部分供給HPLC法に関する基礎的研究:RPLC系を利用し、移動相中のメタノール組成を様々なパターンで変化させて模擬的な部分供給実験を行う。HPLC挙動の予測値(計算値)を実験結果と比較し、部分供給HPLC法の特徴を明らかにする。特に、拡散による部分供給液界面の広がりのHPLC挙動に対する影響を確認する。 (2)分子間相互作用の解析:シクロデキストリン-不飽和脂肪酸間の相互作用については予備的検討の結果に基づき、部分供給HPLC法により会合平衡定数(KA)、会合速度定数(ka)や解離速度定数 (kd)を求める。これらの値を連続供給HPLC法によっても求め、両者の結果を比較する。また、別の実験系としてクラウンエーテル-金属イオン間の相互作用を取り上げ、これについても同様の検討を行う。 (3)分子集合体の界面透過現象の解析:リポソーム界面における物質透過現象の解析については、試料物質としてフルオレセインを使用して検討を行う。この場合には測定波長を500 nm付近に設定できるため、リポソームピークの影響を受けることなくフルオレセインピークを測定・解析することが可能になる。例えば、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-フォスファチジルコリン(POPC)とフォスファチジルセリン(PS)を使用し、膜を用いる押し出し法により両者から成るPOPC/PS(80/20 mol%)リポソーム(粒子径:約100 nm)を調製する。溶質としてフルオレセインを使用するモデル系で実験的検討を行い、界面透過の速度定数(kinとkout)の測定が可能であることを示してモーメント解析法の有用性を実証する。
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