研究課題/領域番号 |
23K04853
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35020:高分子材料関連
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
佐々木 隆 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (50242582)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | ガラス転移 / 動的不均一性 / シミュレーション / 高分子超薄膜 / 過冷却液体 |
研究開始時の研究の概要 |
高分子超薄膜が示す特異な動的性質の機構解明は未解決の課題の一つである。本研究では、高分子超薄膜中に存在する動的不均一性と協同運動クラスターのサイズ分布の膜厚依存特性が動的デカップリングを引き起こし、これが動的特異性の背後にあると予想し、動的相関ネットワークモデルに基づいた理論的および実験的アプローチによりこの仮説を検証する。超薄膜ダイナミックスはチップナノカロリメトリ、および誘電緩和により測定する。
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研究実績の概要 |
本研究は、高分子ナノ拘束系でみられる動的デカップリング現象の起源を理論的および実験的アプローチにより解明することを目的とする。これにより、最終的には根源的な課題である過冷却液体の非アレニウス性の機構を解明することを目指すものである。今年度は、まず理論的アプローチとしてこれまでに構築し発展させてきたネットワーク状動的相関モデル(DCNモデル)について、典型的なナノ拘束材料として多くの実験データが報告されている高分子支持膜への適用を行った。ここでは、片面に仮想的な表面、もう一方の面にはアンカリングセグメントを伴う仮想的な界面層を導入した。その結果、ガラス転移温度の膜厚依存性が時定数に大きく影響することを見出した。この結果は動的デカップリング現象の原因を解明する重要なてがかりとなる知見である。さらに、DCNモデルに基づいて動的不均一性の定量的評価をするため、4点感受率、および非ガウス性パラメータを計算するためのアルゴリズムを開発した。ここでは、Monte Carloシミュレーションで得られたDCNクラスターのサイズ分布から各セグメントの緩和速度を見積もり、それにもとづいたランダムウォークを実施し、4点感受率の予備的な計算を行った。 さらに、実験的アプローチとして誘電緩和を用いた高分子の支持薄膜のダイナミックスの測定を行った。得られた実験データは、DCNモデルからの理論的予想と比較するには、まだ十分な精度がなく、今後のさらなるデータ収集が必要である。その一方で、高分子薄膜の表面をテフロン膜に接触させると、厚さが数μm程度の膜でも易動度が明確に上昇するという予想外の現象を見出した。さらに、基板界面での相互作用の知見を得るため、さまざまなメタクリル酸エステル系高分子についての不可逆吸着過程のin-situ測定をチップナノカロリメトリにより行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
動的デカップリング現象のメカニズム解明に関して、DCNモデルに基づく高分子支持膜の計算結果から大きな手掛かりを得られた点で進捗があったといえる。これはDCNクラスターサイズの膜厚依存性の傾向が、ある温度(クロスオーバー温度)を境に逆転することに由来する。DCNモデルに基づく動的不均一性の評価については、4点感受率の時間依存性を評価できるようになった点で進捗があったといえる。実験的アプローチにおいては、チップナノカロリメトリ測定で多くの高分子について吸着過程に関する有益なデータを得ることができた。また、誘電緩和測定では実験技術の向上により着実な進展があった。とくにテフロン膜との接触実験で予想外の興味深い結果が得られた。以上を総合的に勘案すると、研究全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
まず動的不均一性の定量的評価法を確立することを目指す。具体的には4点感受率の極大値が実験結果とコンシステントになるような温度依存性を示すように、モデルの改良を検討する予定である。そのうえで、非ガウス性パラメータを評価するためのアルゴリズムを確立する。実験では、誘電緩和、およびチップナノカロリメトリによる高分子薄膜の動的データのさらなる収集を行う。さらに基板界面での相互作用を吸着過程や接着強度の測定により明らかにすることを目指す。とくにガラス転移温度以上での不可逆吸着過程については、必要に応じて新たなメカニズムの仮説を提案して検証し、高分子薄膜系の特異なダイナミックスへのかかわりを解明することを目指す。
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