研究課題/領域番号 |
23K04877
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分35030:有機機能材料関連
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡本 秀毅 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 准教授 (30204043)
|
研究分担者 |
山路 稔 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (20220361)
田中 有弥 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (90780065)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
|
キーワード | フェナセン / 有機電子材料 / 蛍光 / ホトルミネッセンス / 多環芳香族化合物 / 有機半導体 / 発光材料 / 光化学反応 |
研究開始時の研究の概要 |
安定で耐候性があり,高い電荷移動度と固体中での高い発光特性を合わせ持つ発光性有機半導体分子の創成を目的とする. 1.フェナセン類を活性層とする有機電界効果型トランジスタの電荷移動度を高めるための分子設計の指針を明らかにする. 2.フェナセン類を発光デバイスへ応用するために,発光特性と構造の相関を明確にして,高効率固体発光を実現するフェナセン分子を実現する. 3.新規フェナセン分子を用いてOFETデバイスおよび発光デバイスを作製し,動作特性を明らかにすすとともに,高性能デバイス構築の指針を得る.
|
研究実績の概要 |
(1)多環芳香族化合物は,分子構造や電子構造の柔軟な設計ができる化合物群であり,機能性材料構築のプラットフォームとして注目されて来た.フェナセンはベンゼン環がジグザグに連なる多環芳香族化合物である.我々は,フェナセンが化学的に極めて安定な化合物であって,有機物半導体,超伝導体として有望な化合物であることを見いだしてきた. (2)一般にフェナセンは,光の吸収強度が低くまた,蛍光効率が低いことが知られており,発光材料としては注目されていない.しかしながら,フェナセンの安定性と有機電子材料としての特性を考慮すると,高いホトルミネッセンス効率を有する誘導体を構築できれば発光特性と半導体特性を両立できる新しい電子材料を創出できると期待される. (3)本研究課題では,ホトルミネッセンス特性を有するフェナセン類を合成し,その発光特性を評価することを目的としている.R5年度はホトルミネッセンス特性を持つフェナセンの開拓を検討した. (4)フェナセンにホトルミネッセンス特性を付与するため,フェナセン骨格にイミドおよび電子供与性の官能基を導入して,その発光特性を評価した.これらの機能化分子は,無置換の母体フェナセンに比較して,蛍光効率が約2-3倍程度増加することを明らかにした.また,励起状態が分子内電荷移動性を有しており,顕著な蛍光色の溶媒応答性を示すことを明らかにした. (5)フェナセンのホトルミネッセンス特性をさらに向上させるため,種々の官能基化フェナセンの合成を行っている.フッ素置換はフェナセンの電子特性にほとんど影響を与えないが,固体の蛍光スペクトルを顕著にブロードニングさせ,また長波長シフトさせることを見いだした.この結果は,フェナセン骨格をフッ素置換することで電子構造はそのままに固体構造を操作できる可能性を示唆している.固体構造と蛍光特性の相関について引き続き検討する予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)フェナセンはその電子特性を操作することが困難なため,フェナセンのホトルミネッセンス効率を積極的に操作する検討はほとんど検討されてこなかった.2023年度には,フェナセンに電子求引部位と電子供与部位を導入し,励起状態に分子内電荷移動特性を持たせることによって蛍光効率を向上させることに成功した. (2)励起状態が分子内電荷移動特性を持つことで官能基化フェナセン類の蛍光が顕著に溶媒特性に応答するようになり,溶媒の極性に応じて青から赤橙色まで蛍光色を操作できることを明らかにした.また,クリセン([4]フェナセン)に電子供与基としてアミノ基を導入し,電子求引基としてイミドを導入すると,無極性溶媒中でも非常に大きなストークスシフトを示して,当初は意図していなかった,紫外光の吸収に対してして赤色の蛍光を示す新しい赤色発光色素として作動することを見いだした. (3)フッ素置原子の導入は芳香族化合物の電子特性と分子および固体構造に影響することが知られている.フェナセンの分子両末端にフッ素原子を導入すると母体化合物に比較して溶液中のUVおよびホトルミネッセンススペクトルはほとんど変化しない.一方で,固体での蛍光スペクトルは顕著にブロードニングするとともに長波長シフトした.この結果は,フッ素置換がフェナセンの電子構造には寄与しないが固体構造を変化させることを示唆している.この知見はフェナセンを用いた新しい固体発光体を創出できる可能性を示唆しており,固体構造とホトルミネッセンス特性の相関を引き続き検討する. (4)新しい発光性芳香族を創出し,電子材料として展開するためのビルディングブロックの構築を行うとともにπ拡張したフェナセンおよび関連化合物の合成を検討し,分子の適切な位置に官能基化する方法論を構築しつつある.これによって,従来合成が困難であった化学修飾フェナセンを構築する方法論を確立する.
|
今後の研究の推進方策 |
(1)π系を拡張した化学修飾フェナセン誘導体を合成し,そのホトルミネッセンス特性を評価する.特に,フェナセン電子骨格の最高被占軌道HOMOおよび最低空軌道LUMOへ共役できる位置にπ拡張置換基を導入し,ホトルミネッセンスの挙動を精査する.これにもとづいて分子構造と発光特性との相関を明らかにするとともに,新規分子の設計へフィードバックする. (2)上記のホトルミネッセンス性フェナセンの設計を,理論計算を用いて行う.これまでの検討で,理論計算は実際の励起分子の振る舞いを再現しない場合も多いことがわかってきた.実験によるスペクトルと計算される電子遷移の相関にもとづいて最適な手法を見いだし,分子設計に反映させる計画である. (3)ホトルミネッセンス特性を持つフェナセンを用いて発光デバイス構築の検討を行う.フェナセン類は主として青色の領域に発光バンドを示す.このような特性に適した発光デバイスの構造および作製について検討する計画である. (4)フェナセン類は分子内に連なるベンゼン環数が増えるに従って溶解性が極端に低下する特徴がある.低い溶解性が物性評価やデバイス作製の障害となる場合には,分子を可溶化させる化学修飾をほどこしてこの問題を回避する計画である.
|