研究課題/領域番号 |
23K04891
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分36010:無機物質および無機材料化学関連
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
藤代 史 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 准教授 (90546269)
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研究分担者 |
大石 昌嗣 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (30593587)
上田 忠治 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (50294822)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 酸素貯蔵材料 / ペロブスカイト型構造 / 熱重量測定 / 遷移金属イオンのredox反応 / 熱重量-示差熱分析 / X線吸収分光 |
研究開始時の研究の概要 |
酸素貯蔵材料は、遷移金属イオン酸化還元(redox)反応を利用して酸素の吸収放出を行う機能性セラミックスである。多種の元素置換が可能で組成の選択の幅を広くとれるペロブスカイト構造およびその関連構造を有する酸化物固溶体をターゲットとして、化学組成を高度に制御した試料を網羅的に合成し、酸素吸収放出特性、redox反応に係る局所的な電子状態・原子構造変化、反応速度解析、化学的安定性に関して物性を評価し、遷移金属イオンのredox反応特性の学理を体系化し、酸素貯蔵能の反応メカニズムを解明する。
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研究実績の概要 |
雰囲気ガス中の酸素分圧の変化や温度変化により酸素を出し入れできる酸素貯蔵材料(OSMs)について,その酸素貯蔵能を決定する因子の解明,新たな設計指針能構築を目指し,様々な物性と酸素吸収放出挙動との相関関係を調査している。OSMsは酸素放出時に結晶中に電子を残すため,材料の電子伝導性(キャリアの移動度)と酸素放出速度に相関が見いだせれば,移動度を材料設計の一つの指針として扱うことができるようになる。そこで,令和5年度は,移動度の違いが酸素放出速度に与える影響を調査した。ブラウンミラライト型Sr2Fe2O5は,低酸素分圧下で昇温すると約750℃で立方晶ペロブスカイト型SrFeO3-δに相転移する。この際、導電率が1桁程度増加するが試料重量の変化は観測されない。即ち,結晶構造変化に伴い伝導キャリア(電子・ホール)の移動度は変化するが,その数密度の変化は無いと考えられる。そこで、この相転移温度の上下における酸素放出速度を等温型熱重量測定により調査した。その結果、温度上昇とともに酸素放出速度の値は増加したが、相転移温度を挟んでの急激な“とび“は観測されなかった。次に,幅広い温度・酸素分圧領域のもので立方晶ペロブスカイト型構造をとることができるSrFe0.5Mn0.5O3-δ(SFM)とBaFe0.5In0.5O3-δ(BFI)を対象とし、同様の評価を試みた。SFMの導電率はBFIの値の2桁以上であり,これら材料間でのキャリア数密度は大きく違わないことが予想されるため、この大きな導電率の違いは材料間での移動度の違いに起因している。等温型熱重量測定による酸素放出速度の比較を行ったところ、わずかにSFMの方がその値が大きかったが,導電率でみられた2桁以上の違いと比べると小さい差であった。これらのことから、酸素放出速度と伝導キャリアの移動度は相関関係が無いことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、酸素貯蔵材料の候補物質、特にSrFeO3-δをベースとした固溶体が示す様々な物性のうち、酸素貯蔵能を決定する因子を見出し、その反応メカニズムを解明することを目的としている。そこで、結晶構造や導電率など物質全体で決まる特性や、価数・電気陰性度といった材料を構成する元素(イオン)そのものの性質などをパラメータとした固溶体試料の合成、および酸素吸収放出挙動の調査を行っている。本年度の研究により、導電率(主に移動度)の違いは酸素放出速度に影響しないことが示唆された。これは酸素放出時に電気的中性条件により結晶格子中に残される電子の拡散と材料そのものの伝導キャリアの拡散とに関係性が無いことを示す結果である。このことは、OSMsの候補物質は、そのほとんどが混合導電体であり電子(ホール)伝導を有するが、酸素放出速度を考慮する材料設計においては、導電率を検討因子とする必要が無いことを示したという点で重要な情報であると考えられる。上記のように、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、酸素貯蔵能を決定しうる因子として、より酸素放出と関係性が強いと考えられる酸素欠損エネルギーや、材料中の酸化還元種である遷移元素の局所的な電子状態や原子構造の違いが酸素放出挙動に与える影響を調査する。これら特性の評価は、等温型熱重量測定による部分モルエンタルピーの見積り、メスバウアー分光測定及びX線吸収分光測定によるFeの化学状態、特に磁気的特性の理解や遷移元素-酸素多面体の局所構造・対称性に関する情報の収集、を行う。得られたこれらの知見から、酸素貯蔵能を決定する因子の見出しに挑戦する。
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