研究課題/領域番号 |
23K04935
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37010:生体関連化学
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
中野 修一 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (70340908)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | オリゴヌクレオチド / 非標準構造 / 構造遷移 / クラウディング環境 / 弱い相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、細胞内の特徴的な環境要素をin vitroで再現した実験系を用い、細胞内に遍在する物質によって作り出される分子環境が核酸の構造遷移に与える影響を平衡論と速度論の両面から明らかにしていく。二重らせんから非標準構造への構造遷移、および非標準構造から別の非標準構造への構造遷移を主な研究対象とし、これらの構造遷移を促進する要因を見出す。さらに、非標準構造の一本鎖領域に結合する物質、並びに塩基対配列の交換を加速する物質の探索にも取り組む。溶媒の物性が与える影響についても調べ、様々な実験系を検討することによって核酸の非標準構造の形成に影響する環境要因を解明する。
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研究実績の概要 |
核酸が形成する非標準構造は遺伝子の発現制御に深く関与している。真核細胞の場合、ゲノムDNAの二重らせんの一部がほどけて生じた一本鎖領域において様々な非標準構造が形成される。一般的にDNAとRNAの二重らせん構造は熱力学的に安定な状態であるため、細胞において二重らせん構造から非標準構造への遷移を促進する要因を明らかにすることは重要である。細胞内部のクラウディング環境は核酸の構造形成エネルギーを大きく変化させることが知られているものの、非標準構造の形成プロセスに与える影響については未解明の点が多い。本研究は、細胞内部の特徴的な環境要素をin vitroで再現した実験系を構築し、細胞内に遍在する物質によって作り出される分子環境が核酸の構造遷移に与える影響を調べる。主に、二重らせん構造から非標準構造への遷移、および非標準構造から別の非標準構造への遷移を研究対象とし、細胞内部のクラウディング環境において生じる核酸の弱い相互作用の役割を平衡論と速度論の両面から明らかにする。この試みを円滑に進めるため、非標準構造の一本鎖領域と弱い相互作用で結合する物質の探索と、塩基対の交換を促進する物質の作用メカニズムの解明にも取り組む。また、クラウディング環境における溶媒物性の影響に関する検討も行う。こうした取り組みを通じて、核酸の構造遷移を促進する物質や溶媒環境を明らかにしながら、細胞内分子環境においてDNAやRNAが形成する非標準構造を理解し、制御する方法の開発を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
核酸の非標準構造によく見られる一本鎖領域に結合する物質の特徴を明らかにするために、RNA加水分解の抑制効果を指標にした評価系を構築し、一本鎖領域に弱い相互作用で結合する物質の探索を試みた。一本鎖RNAとヘアピンRNAのループ領域は二価イオンまたは血清タンパク質によって加水分解されるが、この加水分解は比較的大きなサイズの有機カチオンによって抑制されることをゲル電気泳動による速度解析によって明らかにした。この抑制効果には数百mMの有機カチオンが必要であり、アルキル基やベンジル基を有する有機カチオンがRNAの一本鎖領域に弱く結合することを見出した。さらに、金属イオンや比較的小さな有機カチオンとの比較によって、顕著な抑制効果を示すために必要なカチオンのサイズが明らかとなり、その構造柔軟性も抑制効果に影響することも示唆された。また、蛍光共鳴エネルギー移動測定を利用した速度解析によって、核酸の一本鎖領域への結合特性を有する有機カチオンはDNA鎖交換反応(相同組換え)を加速させることも示された。一方で、二重らせん構造からヘアピン構造への遷移を評価するためのin vitro実験系の構築を試みた。二重らせん構造およびヘアピン構造の両方をとることができる複数のDNAオリゴマーを設計し、この構造間の遷移の平衡と速度をゲル電気泳動および蛍光共鳴エネルギー移動測定によって評価した。様々な有機カチオンを検討した結果、金属イオンや小さなサイズの有機カチオンはヘアピン構造から二重らせん構造への遷移を促進させる一方で、嵩高い有機カチオンは逆に、二重らせん構造からヘアピン構造への遷移を可能にすることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では、核酸の一本鎖領域への結合特性を有する有機カチオンが存在する環境では、通常の条件では起こりにくいDNA鎖の交換反応が促進される可能性を明らかにした。今後は、DNA鎖交換反応を加速させる有機カチオンの作用メカニズムを明らかにする取り組みを進めるとともに、有機カチオンの効果を利用したモレキュラービーコン型DNAプローブによる一塩基多型の検出の有効性について評価を行う予定である。また、核酸の様々な非標準構造(ヘアピン構造、シトシン四重鎖など)の熱力学的安定性に関するデータを集め、嵩高い有機カチオンが核酸構造の平衡状態に与える影響を予測し、構造遷移データと照合を行う。さらに、嵩高い有機カチオンがもつ二重らせんからヘアピン構造への遷移を促進させる能力について、様々なクラウディング環境において評価を行い、細胞内分子環境におけるDNA構造遷移メカニズムを明らかにする取り組みを開始する。その一方で、核酸の一本鎖領域と有機カチオンの結合評価を引き続き実施し、核酸に対する嵩高い有機カチオンの結合特性についての理解を深める。
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