研究課題/領域番号 |
23K04964
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分37030:ケミカルバイオロジー関連
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
平 順一 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 准教授 (20549612)
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研究分担者 |
杉島 正一 久留米大学, 医学部, 准教授 (30379292)
坂本 寛 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (70309748)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | ヘムオキシゲナーゼ / ヘムシャペロン / リポソーム / チトクロムP450還元酵素 / バイオプローブ / ヘム代謝系 / 細胞内プロテアーゼ / 膜局在 |
研究開始時の研究の概要 |
ヘムは重要な生体内反応や細胞機能に関わる補欠分子属であるが、余剰の細胞内ヘムは毒性を示すため、小胞体膜上のヘムオキシゲナーゼ(HO)を中心としたヘム分解系ですみやかに処理される。しかし、ヘムの利用と分解を仕分けるメカニズム、すなわちHOが分解対象のヘムをどのようにして認識・捕捉しているのかは明らかでない。本研究課題では、“HOはなぜ膜上ではたらくのか?”という点に着目して研究を展開する。ヘムが分解系に毒として認識される閾値や認識機構の解明を目指すとともに、HOが本来機能する場所である小胞体膜から離れた際に、ヘムの捕捉や酵素機能に及ぼす影響についても併せて検討する。
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研究実績の概要 |
ヘムは体内の鉄の主要な存在様式であり、ヘムタンパク質の補欠分子族として知られる他、タンパク質と弱く相互作用をすることで様々な細胞機能に関わることも知られはじめている。ヘムは生体にとって不可欠な分子であるが、活性酸素種を触媒的に酸性する危険性も併せ持つ。したがってヘムの同化と異化は厳密に制御され、余剰のヘムは小胞体膜上のヘムオキシゲナーゼ(HO)を中心としたヘム分解系で処理される。HOはNADPHチトクロムP450還元酵素(CPR)による電子の供給を受けてヘムをビリベルジン、一酸化炭素、鉄に分解する。しかし、ヘムの利用と分解を仕分けるメカニズム、すなわちHOが分解対象の流動的ヘムをどのように認識・捕捉しているのかは明らかでない。HOと同様、CPRと共役する点や酸素添加酵素という共通点を持ち、異物の代謝と排出の機能を持つチトクロムP450が、水酸化により異物の極性を高めて解毒を行うことに鑑みると、ヘムの異物としての認識機構は、ヘム分解酵素であるHOが局在化する膜への移行が重要であると考えられる。また、小胞体膜からの遊離がHOの機能を大きく変えることが明らかとされつつある。 本年度、「ヘム代謝系がヘムを捕捉する環境を組み立てて考える」構成論的アプローチに基づき、脂質二重層へのヘムの選択的移行に伴う、HOとの共局在の可能性について検討した。また、HOの膜局在様式に変化をもたらす因子として、膜結合領域近傍の切断に関わるプロテアーゼの探索を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに平と坂本は、ヘムの結合に伴い蛍光が消光するHOベースのヘムセンサーを開発している。当初の研究計画では、このヘムセンサーを脂質膜上に配置してヘムの結合を評価する予定であった。しかし、ヘム代謝系が膜上のヘムを選択的に補足するという仮説をより強固にするため、まずは脂質二重膜に対するヘムの選択的な結合を評価した。リポソームを用いた実験を行った所、ヘムは脂質膜上に選択的に集積することが示唆された。これまでに得られた結果や文献と統合すると、ヘムシャペロンによるサイトゾルでの保持を受けていないヘムが膜へ移行してHOに補足されるという仮説を証明するピースが揃った。しかし論文としての発表のためにはこれを一つのモデル系として構築し実証する必要がある。 HOの膜結合領域の切断に関わるプロテアーゼの探索は、令和6年度以降に計画していたが、国外のグループとの競合が懸念されたため、この検討を前倒して進めている。酸化ストレスを負荷した線維芽細胞でHOのサイトゾルへの遊離が報告されているが、カルパインやカテプシンといった代表的細胞内プロテアーゼがHOの膜結合ドメインの切断に伴うサイトゾルへの遊離をメディエートする直接的な証拠は得られていない。今年度、ヘムオキシゲナーゼの膜結合ドメイン近傍のポリペプチド鎖が、過酸化水素で処理したマウス線維芽細胞由来のライセートの添加で切断されることを見出した。この切断がどのようなプロテアーゼによって引き起こされるのか、次年度移行検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
予備的な実験から、膜結合ドメインを持つHOはリポソーム存在下において、膜結合ドメインを欠くものと比較し、有意にヘムを補足することを見出している。しかし、この時に膜結合ドメインを持つHOがリポソーム上に局在化するエビデンスは未取得である。蛍光あるいは共焦点レーザー顕微鏡を利用してリポソーム上へのヘムセンサーの局在を確認する。リポソーム上に局在化するHOに対するヘム結合に関する定量的なデータを取得する。その後、代表的なヘムシャペロン分子として知られるグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼとの間でのヘムの結合の競合性を評価する。一連の検討により「ヘムシャペロンによるサイトゾルでの保持を受けていないヘムが膜へ移行してHOに補足される」という仮説を実証するモデル系が構築され、論文発表が可能なレベルになるものと期待できる。 上記の他、前述の通りHOの膜結合ドメイン近傍のポリペプチド鎖が、過酸化水素処理したマウス線維芽細胞由来のライセートの添加で切断されることを見出した。カルパインやカテプシンなどの代表的な細胞内プロテアーゼについては、選択的阻害剤が市販されていることから、これらを活用してHOのサイトゾルへの遊離に関わる新規細胞内プロテアーゼの探索を試みる。
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