研究課題/領域番号 |
23K04999
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38020:応用微生物学関連
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
佐藤 勉 法政大学, 生命科学部, 教授 (70215812)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | ファージ / 枯草菌 / 溶原性ファージ / 部位特異的組換え / 胞子形成 / 遺伝子再編成 |
研究開始時の研究の概要 |
細菌に感染するウイルスをファージと呼ぶ。溶原性ファージは、自らのゲノムを宿主ゲノムに組み込み、宿主細胞の分裂とともにコピーを増やすサイクルを持つ。宿主ゲノムに組み込まれた状態の溶原性ファージ(プロファージ)により、宿主に新たな機能が付与される。本研究は、枯草菌ゲノム上の異なる部位に溶原化するファージを環境中から網羅的にスクリーニングし、これらのプロファージが宿主に与える遺伝子再編成などの高度機能を解明する。
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研究実績の概要 |
溶原性ファージは、自らのゲノムを宿主ゲノムに挿入し、宿主の分裂とともにコピーを増やす生活環を持つ。宿主ゲノムに組み込まれたファージをプロファージと呼ぶ。ファージ溶原菌には新たに機能が付与されることがある。ファージが認識するattBが遺伝子内にある場合、遺伝子が分断されるが、枯草菌はこれを発現調節に利用する。例えば、胞子形成遺伝子に組み込まれたプロファージは胞子形成期に自らのゲノムを欠失させ、当該遺伝子の発現調節を行う。つまり、プロファージは宿主の細胞分化プロセスの一端を担うことで宿主機能を高度化させている。ファージゲノムの挿入と欠失は部位特異的組換え酵素(Int)と切り出し因子(RDF)が担っている。本研究は、このような機能を宿主に付与する溶原性ファージを環境中より取得し、対象となる遺伝子とそのメカニズムの解明を目的としている。独自に開発した溶原性ファージのスクリーニング系を用いて、これまで枯草菌ゲノム上の8箇所のattBを認識するファージを得ている。今回、さらに鉄硫黄クラスター合成に関与するsufB内の配列をattBとして溶原化するファージA-bを取得した。本研究室で単離したφshrKはsigK内の配列をattBとして認識するファージであり、プロファージが胞子形成期に欠失することで胞子形成の進行を担う。一方、枯草菌168株ゲノム上のsigK遺伝子にはskin elementと呼ばれる欠陥プロファージが既に組み込まれている。φshrKはskin+株に溶原化するが、その際skinのattLあるいはattRを認識し、skinとタンデムに配置されることが確認された。また、その株を継代培養するとφshrK がskinを宿主ゲノム上から排除することが明らかになった。環境中からの溶原性ファージ取得により、attBをめぐるファージ間の競合と欠陥プロファージの排除プロセスの一端が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
環境中の枯草菌溶原性ファージ単離を継続させている。単離されたファージのほとんどがこれまで得られたファージが認識する配列をattBとして認識するファージであったが、今回sufB内の配列を認識するA-bファージを取得した。この遺伝子を加え、これまでgerE、kamA、pbuX、radC、sigK, spoVK、spsM、sufB、tRNAval遺伝子内のattBを標的に溶原化するファージを単離した。これらのattBのゲノム上の位置は複製終結点側に偏っているため、ファージゲノムの挿入位置とDNA複製との間に関係性があることが示唆された。また、gerE、kamA、sigK、spoVK、spsMは宿主の細胞分化に必要な胞子形成遺伝子である。これらの位置に挿入されたプロファージは当該遺伝子を分断するが、胞子形成期に欠失することにより遺伝子を再構築する。この仕組みは部位特異的DNA組換えを介した遺伝子発現機構であり、これらのファージは溶原化により宿主に高度な調節機構を提供する。今回、本研究室で得られたファージのうちφshrKが、宿主ゲノム上の欠陥ファージ(skin)を自らのゲノムに置き換える機構を持つことを明らかにした。これまで欠陥プロファージが新たなファージの感染による置換プロセスについての報告はない。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では誘導可能なプロモーターの下流に同定されたattBとその下流に致死遺伝子mazFを配置させた株を当該attBを認識するファージスクリーニング株としている。ファージゲノムがattBに挿入されるとプロモーターとmazFとファージゲノムに離れるため致死性が解除される。一方、誘導致死株はゲノム上の他の配列を認識するファージ溶原化株であり、この株より新たなattBを認識するファージが単離できる。今後は、プロモーターとmazF間に配置する標的attBを複数種並べて配置することで、スクリーニング効率を向上させる。また、得られた個々のファージそれぞれが持つ部位特異的組換え装置の発現調節機構および溶原性ファージ同士の競合メカニズムに焦点を当てた研究を推進させる。
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