研究課題/領域番号 |
23K05042
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38030:応用生物化学関連
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
渡邉 寛人 明治大学, 農学部, 専任教授 (20270895)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | コラーゲン / ピリジノリン / メイラード反応 / RAGE |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は糖尿病合併症発症に関与する糖化タンパク質(AGE)の受容体(RAGE)の新たな機能およびリガンドの解明を目的とする。第一に、研究代表者らが見出したRAGEリガンドであるピリジノリンの作用、とくに骨リモデリングに関与する破骨細胞や骨芽細胞に対する作用を明らかにし、骨代謝制御におけるRAGEの新たな機能の解明を目指す。加えてRAGE結合性をもつ新奇AGE構造を解明し、疾患発症におけるRAGEの意義を明確にすることを目指す。
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研究実績の概要 |
糖化タンパク質(AGE)は受容体RAGEへの結合を介して糖尿病合併症をひきおこすことから、RAGEのリガンド認識特性の解明は病理学的に重要な課題である。われわれはRAGEが3-ヒドロキシピリジニウム(3HP)構造を有するAGEを結合し、細胞に作用することを見出すとともに、3HP構造を含むコラーゲン架橋分子であるピリジノリンがRAGEの内在性リガンドとして機能しうることを明らかにしている。本研究は、ピリジノリンの作用を解析することによって、RAGEの新たな生理学的意義を解明すること、および3HP構造をもつ新奇AGEの構造と特性を解明することによってRAGEの病理学的意義をさらに明確にすることを目的としている。 本年度は新奇AGEの構造・作用の解析を重点的に行うとともに、ピリジノリンがコラーゲン分解にともなって遊離することをふまえ、コラーゲン分解をともなう骨吸収におけるピリジノリンの作用を解析した。 まず酸化ストレスにより形成されるAGE構造を明らかにするため、アスコルビン酸酸化物であるデヒドロアスコルビン酸(DHA)から生じるAGEを探索した。とくに本年度はDHAの分解により生じるスレオース由来のAGEを解析した。その結果、スレオースとリジン側鎖との反応により形成されるAGEとして、既知のGA-pyridineに加えて3HP構造をもつ新奇化合物(以下TDPと呼ぶ)を見出し、その構造を明らかにした。さらにTDPがRAGE結合性を有すること、TDPがDHAとタンパク質の反応によっても生成しうることを確認した。一方、骨吸収を担う破骨細胞に対するピリジノリンの作用解析においては、RAW264.7細胞株の分化系に加え、マウス骨髄由来の初代培養細胞を用いた解析に着手した。その結果、骨髄由来単球からの破骨細胞分化系を確立し、ピリジノリンの作用により破骨細胞分化が抑制されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糖尿病性白内障においてはレンズに豊富に含まれるアスコルビン酸から、あるいはその酸化物のDHAから形成されるAGE群が病態形成に重要であると考えられていたが、RAGEとの結合性に着目した構造化学的研究は少なく、アスコルビン酸・DHAに由来するAGEの構造-作用相関については不明の点が多く残されていた。本研究により、DHAの分解で生じるスレオースからRAGE結合性を有するGA-pyridineおよびTDPが形成されることが明らかとなった。スレオースから3HP構造をもつAGEが形成されることがはじめて明らかになったことから、これらが糖尿病白内障の発症・進展に寄与する可能性が示された。スレオースとタンパク質との反応に加えて、DHAとタンパク質との反応によってもTDPおよびGA-pyridineが生じることが示されたことから、酸化ストレスが亢進したレンズタンパク質においてもこれら「3HP含有AGE」が生じ、RAGEを介して水晶体上皮細胞などに作用しうることが示唆された。これらは酸化ストレスにともなって生じるRAGEリガンドの新たな病理学的意義を示すうえで、重要な成果であると考えられる。 一方、RAGEの生理学的機能の解析、すなわち内在性リガンドとして見出したピリジノリンの作用解析においては、初代培養細胞を用いた破骨細胞分化への作用解析に注力した。RAGEを介したピリジノリンの作用を明確にするには、ノックアウトマウスを用いた解析が重要であると考えたためである。本年度はマウス骨髄由来単球・マクロファージの単離・培養と、破骨細胞への分化を既報にしたがって試みた。解析系の確立にやや時間を要したが、株化細胞と同様に初代細胞においても安定して破骨細胞への分化が観察できるようになり、ピリジノリンの破骨細胞分化抑制作用を確認できた。これにより次年度以降にノックアウトマウスを用いた解析が可能になった。
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今後の研究の推進方策 |
RAGEの病理学的意義に関わるAGEについては、本年度見出したTDPの細胞への作用の解析に加え、新たなRAGE結合性AGEの探索を行う。具体的にはまずヒト水晶体上皮細胞株(SRA01/04)に対するTDPの毒性を評価する。細胞毒性が確認された場合、毒性発現におけるRAGEの関与について、抗RAGE抗体などを用いて解析する。これにより、白内障発症におけるTDPの意義が明らかになると考えられる。新奇AGEの探索については、スレオース-リジン側鎖由来の未同定化合物に加え、糖尿病において増大するリボースなどのカルボニル化合物から形成されるAGE構造の単離を行う。とくにRAGEとの結合性に重要な3HP構造の単離を目指し、3HP構造特有のUV吸収を指標として探索する。見出した化合物については質量分析・NMR解析により構造解析を行うとともに、RAGEとの結合性について表面プラズモン共鳴法により解析する。 RAGEの新たな生理学的意義については、引き続きピリジノリンの作用解析をとおしてその解明を図る。とくにピリジノリンの破骨細胞分化抑制作用および骨吸収抑制作用の詳細なメカニズムの解析を行う。具体的には本年度確立したマウス骨髄由来の初代培養系を用い、細胞分化初期および後期におけるピリジノリンの作用を解析し、その作用点を明らかにする。さらに細胞融合や骨吸収作用に関わる遺伝子の発現変化を解析する。またマウスRAW264.7細胞株を用いた破骨細胞分化系においても同様の解析を行う計画である。これら解析に加え、骨形成を担う骨芽細胞に対するピリジノリンの作用についても解析を行う。具体的にはマウスMC-3T3E1細胞株の骨芽細胞分化過程におけるピリジノリンの作用を、アルカリホスファターゼ活性染色や遺伝子発現解析などにより解析する。さらに骨基質形成機能に対する作用を、アリザリンレッド染色法により検討する。
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