研究課題/領域番号 |
23K05044
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38030:応用生物化学関連
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
吉村 徹 立命館大学, 生命科学部, 授業担当講師 (70182821)
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研究分担者 |
若山 守 立命館大学, 生命科学部, 教授 (70240455)
北浦 靖之 名古屋大学, 生命農学研究科, 講師 (90442954)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | D-アミノ酸 / D-セリン / D-セリンデヒドラターゼ / D-アミノ酸N-アセチルトランスフェラーゼ / セリンラセマーゼ |
研究開始時の研究の概要 |
D-アミノ酸は哺乳動物にも存在し、多様な生理機能を有する。例えばD-セリン(D-Ser)はN-メチルD-アスパラギン酸レセプター(NMDAR)のコアゴニストとして記憶や認知機能を高める一方、筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、脊髄での濃度が上昇し病態の進行を進める可能性がある。また血中、尿中での挙動は腎疾患のバイオマーカーとなることが示唆されている。本研究では、研究代表者らが見出したD-アミノ酸に特異的なD-セリンデヒドラターゼとD-アミノ酸N-アセチルトランスフェラーゼを用いて、D-アミノ酸の酵素定量法や生体内D-Serの低減化法などを開発し、D-アミノ酸のバイオマーカー機能を解析する。
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研究実績の概要 |
本研究では (A) D-セリンデヒドラターゼ(Dsd1p)によるD-Serの高感度酵素定量法の確立、(B) ポリエチレングリコール修飾によって免疫原性を低下させたDsd1pによる、マウス体内D-Ser量の制御、(C)セリンラセマーゼ(SR)の酵素自殺基質反応様修飾の解析、(D) D-アミノ酸 N-アセチルトランスフェラーゼ(DNAT)の構造機能相関の解明とD-アミノ酸定量への応用、の4つの課題を掲げている。(A)では、腎機能マーカーへの利用を計るため、Dsd1pによる血中D-Serの酵素定量法の確立を試みた。Dsd1pを用いたD-Serの定量では同酵素によってD-Serを分解して生成したピルビン酸をピルビン酸オキシダーゼによって酸化し、その際生成する過酸化水素を分光学的に測定する。この方法でウシ血清中のD-Serを測定したところ、試料中に夾雑するピルビン酸によってバックグラウンド高くなる傾向が認められた。また試料が血液や尿の場合にはオキシダーゼによる過酸化水素の測定が阻害される可能性が示唆された。(C)については、L-SerによるSRの自殺基質様修飾反応が、D-Serによっても同様にもたらされることを確認した。これによってこの反応がD-、L-Serとの反応に共通するα-アミノアクリル酸中間体によるものであることが支持された。(D)については、DNATの構造機能相関解明の基盤となるX線結晶構造解析に着手した。まずDNATの大量調整の行うために、トロンビン切断を含む精製法を確立した。続いて自動結晶化装置mosquitoを使用し結晶化の条件を検討し、3通りの結晶化条件を見出した。DNATについてはまたD-アミノ酸に対する基質特異性を再検討した他、猫やヒト尿中D-アミノ酸の定量おいてDNAT を用いた定量法がD-アミノ酸オキシダーゼによる酵素定量よりも有利であることを検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、本研究では(A)から(D)までの4課題を設定している。(A)はD-セリンデヒドラターゼ(Dsd1p)によってD-Serを酵素定量するものであるが、尿中と血中のD-Ser濃度比が、大きな問題となっている慢性腎疾患の早期発見のためのマーカーとなることが知られている。Dsd1pによる尿中のD-Ser定量はすでに成功しているため、本年度は血中D-Ser定量法の確立を目指した。結果として、血液をサンプルとした場合に、バックグラウンドが高くなること、また過酸化水素が消去される可能性があることなど、新たな課題が浮かび上がった。(C)についてはセリンラセマーゼのユニークな自殺基質様修飾反応の一応の解析が完了し、次年度中に論文を作成する目途が立った。(D)はDNATの構造機能相関を明らかにするとともに、本酵素を用いたD-アミノ酸の酵素定量法を確立しようとするものである。D-アミノ酸の酵素定量法はこれまでにD-アミノ酸オキシダーゼ(DAO)を用いた方法がキット化され上市されているが、今回の研究結果で、DNAT法がDAO法では測定が困難な尿サンプルについても適用可能であることが明らかになった。また本年はDNATの結晶構造解析に着手し、精製法の改良を行うとともに、3通りの結晶化条件を見出した。一方、(B)については本年度は準備に留まった。これを鑑み自己評価を「(2)おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては以下を想定している。(A)については引き続き血中D-Ser定量法の確立を目指す。上述のように血液をサンプルとした場合にバックグラウンドが高くなるが、これについてはイオン交換樹脂等による夾雑ピルビン酸の除去などの処理を検討する。また過酸化水素が消去される可能性については、血中に存在する還元物質である可能性が高いアスコルビン酸をアスコルビン酸オキシダーゼで除去するなどの方法を試みる。(B)についてはポリエチレングリコールで修飾したDsd1pを調整し、これをマウスに投与した際の血中と脊髄中でのD-Ser動態を検討し、まずは生体内D-Serの軽減に有効な修飾酵素の投与法を明らかにする。(C)については年度内を目標に論文を作成する。(D)については結晶構造解析を進めるとともに、様々な濃度比のD-アミノ酸を含む試料について正確な測定を可能とする条件を検討する。また腎疾患が重大な死因となっている猫について、尿中D-アミノ酸濃度が腎疾患検出のマーカーとならないかについて検討する。なお最近の研究からD-Ala、D-AspなどD-アミノ酸の経口投与が、COVID-19などのウイルス感染症の重篤化を防ぐ可能性や、認知機能の改善に働く可能性などが指摘されている。そこで食用として利用できるD-アミノ酸の調製を目的に、D-アミノ酸を生成する乳酸菌の検索について新たに研究を進める。
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