研究課題/領域番号 |
23K05093
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38050:食品科学関連
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研究機関 | 酪農学園大学 |
研究代表者 |
川端 庸平 酪農学園大学, 農食環境学群, 准教授 (50347267)
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研究分担者 |
阿久津 和宏 一般財団法人総合科学研究機構, 中性子科学センター, 副主任技師 (60637297)
山田 悟史 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (90425603)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2025年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | メレンゲ泡 / 気液界面 / たんぱく質吸着 / 中性子反射率計 / 小角X線散乱 / オボアルブミン / 表面張力 |
研究開始時の研究の概要 |
卵白は起泡性に富んだ食品材料であり、洋菓子製造には必須のものである。これは、卵白に含まれる起泡性たんぱく質オボアルブミンが気液界面に吸着状態して泡を安定化していることが要因である、と言われているが、その吸着構造の実態は解明されておらず機能や物性も不明な点が多く残されている。本研究では、オボアルブミンの気液界面への吸着量、吸着構造厚みを物理的手法によって定量化・可視化して界面安定効果を調べ、食品材料として用いる際の使用法や食感改質の指針を確立することを目的としている。
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研究実績の概要 |
卵白たんぱく質の一つであるオボアルブミンは水の表面張力を25%程度低下させ、起泡性性に寄与していることがわかっている。本研究では、気液界面に吸着すると予想されている卵白たんぱく質の構造を量子ビームを用いた手法によって明らかにし、卵白たんぱく質の界面安定効果の知見を確立することを目的として研究を行ってきた。本年度は界面構造を測定可能な(1)中性子反射率測定、(2)和周波発生分光法、(3)放射光X線小角散乱の3つの手法によって、加熱あるいは砂糖添加による吸着構造の変化を観察した。 (1)中性子反射率測定:中性子反射率測定では界面吸着量を見積ることに成功した。具体的には、オボアルブミン水溶液の水において重水素:軽水素を8.5:91.5とすることで空気との屈折率差をなくし(Null Reflection Water)、表面偏析層からの反射をノイズ0で測定した。得られた反射率プロファイルは両対数で線形で減衰したことからParrattの式で解析すると表面余剰量0.092 umol/m2、1分子の専有面積に換算すると66 nm2となることがわかった。オボアルミンの溶液中での慣性半径から見積られる断面積が18 nm2であることを考えると、オボアルミンは界面において大きく広がった構造となっていることが予想できた。 (2)和周波発生分光法:オボアルブミン水溶液の気液界面構造を観察し、スクロース由来のOH振動のピークの増大や、加熱によるCH伸縮振動のピーク強度の増大を確認した。このことから、オボアルミンが砂糖とともに気液界面に偏析し、加熱によってこの偏析が加速されるものと考えている。 (3)放射光X線小角散乱:オボアルミン水溶液のバルク中での構造について、その温度依存性ならびにショ糖添加効果を測定し、変性温度に近づくにつれ溶存オボアルブミンの疎水性が増して凝集傾向にあることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)当初予定:たんぱく吸着界面の測定として「中性子反射率測定」「顕微ラマン測定」の2つを計画しており、1)卵白たんぱく質の気液界面構造とその温度依存性、2)界面構造の添加物(ショ糖、塩化カルシウム)による変化、について調べる予定であった。 (2)現在の状況:中性子反射率測定では室温において気液界面構造を観察し、たんぱく吸着構造が存在することを確認できた。また、その吸着の表面余剰量の見積もれ、たんぱく質が界面で大きく拡がった形態をとっていることがわかった。この初年度の測定によって、たんぱく吸着界面の構造を直接観察する手法が確立できたと考えており、これをもって次の段階の実験(吸着構造の温度依存性、添加物依存性)に進む下地が確立したと言える。温度依存性についての実験は、中性子反射率測定用の温調セルが稼働し、先日のテスト実験で加温によって界面偏析が進むことを示唆する結果が得られている。ショ糖添加については表面偏析層からの反射が実現できる溶媒水の重水:軽水比率の計算方法が確立し、また、重水素化ショ糖(スクロース)による実験で表面偏析構造に対するショ糖の影響評価が可能なこともテスト実験で証明できた。 顕微ラマンイメージングでは、表面偏析を実証できる卵白モデル泡沫系を作成することができた。一方同じ分光法でも界面吸着構造のみのスペクトル測定可能な「和周波発生分光法」も用い、上記2つの測定方法の補間を行った。この測定では加熱によって水のOH振動由来のピーク強度の減少や、ショ糖添加でショ糖由来のOH振動由来のピーク強度の増大が認められ、加熱で偏析するたんぱくの密度が増し、ショ糖添加でたんぱくとともに偏析層を形成することがわかった。 これらの状況から卵白たんぱく質の吸着構造の新たな事実が判明したと同時に、加熱や添加物の効果も明らかになりつつあることから、当初の計画以上に進呈していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記当初予定で記した通り、「中性子反射率測定」「顕微ラマン測定」に追加し、「和周波発生分光法」の3つの手法で卵白たんぱく質の偏析構造にういて、その温度依存性、添加物(スクロース、塩化カルシウム)効果を明らかにすることを今後の研究の主眼として進めていく。 (1)中性子反射率測定:新しく設置された温調セルを用い、たんぱくの熱変性温度(60~70℃)近傍までの各温度で界面偏析層の構造(表面余剰量)を調べて表面余剰量の温度依存性を得る。添加物添加実験では、軽水素ならびに重水素化スクロースを加え偏析層の変化を調べる。塩化カルシウム添加でのメレンゲ泡硬化の現象についての知見も明らかにするため、同様の実験で塩化カルシウムによる偏析層の変化を検証する。 (2)顕微ラマン測定:(1)の実験結果を元に、温度、添加物の条件を最適化し、ラマンイメージング測定のための安定泡沫の卵白たんぱくモデル系を作成する。さらにこの泡沫の気液界面近傍にたんぱく由来のシグナル(フェニルアラニン等、ベンゼン環を有するたんぱく質)が偏析しているか、ラマンイメージングによって可視化することを目指す。 (3)和周波発生分光法:(1)と同様のサンプル条件において、卵白たんぱく水溶液の気液界面に吸着するたんぱく質、スクロースのスペクトル解析を温調下で行う。和周波発生分光法は産総研中国センターの装置を利用し、装置サンプル位置の下部に温度ヒーターを設置して温度を制御しながら測定する。CH伸縮振動ピーク、水あるいはスクロース由来のOH振動ピーク強度の温度依存性を明らかにする。 (4)研究発表:以上の結果を纏め、日本油化学会、コロイドおよび界面化学討論会にて発表する。また、論文発表の準備を行って年度内の学術誌への投稿を目指す。
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