研究課題/領域番号 |
23K05112
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分38050:食品科学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井倉 則之 九州大学, 農学研究院, 教授 (30260722)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | エマルション / ゲル / フレーバー / 物性 / アロマ |
研究開始時の研究の概要 |
多層エマルションとは、水中油滴型エマルションの油滴中にさらに水滴を分散させたエマルションを指し、油量の減少による低カロリー化を達成可能な系あるいは親水性及び親油性機能性成分の両者を保持可能な系として注目されている。本申請では、フレーバー成分などの内在成分がこの多層エマルションの各層をどの様に移動するかを明らかにすること、独特な物性を付与することで、多層エマルションの利用可能性を拡大させることを目的としている。このような多層エマルションを利用した食品は従来に無い風味・食感を与えるだけでなく、機能性成分を高度に維持可能な特定用途食品あるいは特定保健用食品の開発に繋がると考えられる。
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研究実績の概要 |
多層エマルションの一つであるW/O/Wエマルションとは水中油滴型(O/W)エマルションの油滴内にさらに水を分散させた系であり、生理活性物質の封入や低脂肪化など食品への応用が期待される。一方、W/O/Wエマルションの流動特性は製造工程や食感に寄与するため、その制御が重要である。本申請ではエマルションの各層をゲル化させることによる、エマルションの物性やそのフレーバーリリースへの影響を明らかにすることにより、その有用性を示すことにある。 2023年度はW/O/Wエマルションの作製条件の検討を行い、その物性測定を主に行なった。特に内水相をゲル化させることによる物性への影響を検討した。内水相のゲル化にはκ-カラギーナン(0-2.50%)を用いた。いずれのκ-カラギーナン濃度においても、せん断速度の増加に伴い粘度が低下するエマルションに特徴的な挙動を示した。κ-カラギーナンを添加すると無添加のものと比較しW/O/Wエマルションの粘度は高値を示し、κ-カラギーナン濃度の増加に伴い粘度は上昇することが明らかとなった。このことから、内水相のゲル化はW/O/Wエマルションの粘度制御に効果的であることが示唆された。 さらに、封入成分存在下での内水相ゲル化の効果を検討するため、内水相に硫酸第一鉄を封入したW/O/Wエマルションを調製し、封入成分存在下での内水相ゲル化の効果を検討した。内水相のゲル化により鉄のカプセル化効率は有意に向上した。特に、κ-カラギーナン濃度が1.00 wt%を超えると鉄のカプセル化効率は90%以上となった。また、鉄封入時においてもκ-カラギーナンによる内水相のゲル化はW/O/Wエマルション粘度の制御に効果的であることが分かった。 以上、多層エマルションの内水相をゲル化することにより単純なO/Wエマルションとは異なる物性を示し、機能性成分の封入にも有効であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多層エマルションの作製にあたり、乳化剤の種類および濃度の影響を検討し、最適なエマルションの作製条件の検討を行った。今回は特に分散相含有率の高い、濃厚エマルションの作製を行い、親水性乳化剤にはTween系の乳化剤が適していたことを明らかにした。 今回の検討の大きな目的である、内水相の物性が多層エマルションに及ぼす影響及び、その内在成分のリリース挙動について検討を進めることができた。具体的には、内水相の物性を変えるのに、κ-カラギーナンを用いて、その添加濃度を変えることにより内水相の粘度増加あるいはゲル化を生じさせ、その時の多層エマルションの物性変化を明らかにすることができた。多層エマルション中の分散相の粘度は内水相の物性を変えても大きく変化しなかったのに対し、多層エマルションの粘度は内水相の物性に影響を受け、κ-カラギーナンの添加濃度の増加に伴い、エマルション粘度の増加が認められた。 内水相に鉄(硫酸第一鉄)を添加したところ、κ-カラギーナンゲルの弾性率は増加し、その結果、多層エマルション自身の粘度も増加することが明らかになった。またこれらより、多層エマルションの粘度は内水相の弾性率からシミュレーションが可能となることが示唆された。また内水相をゲル化させることにより鉄の封入効率が増加したことから、内在成分の保持率増加にも有用であることを明らかにした。現在外水相にタンパク質を添加してゲル化させる系について検討を行っており、ゲル化可能な条件を明らかにしている。以上の観点から、おおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、2023年度に得られた多層エマルションの作製条件をもとに、フレーバーリリース挙動についても検討を行う。2023年度には内水相をκ-カラギーナンによってゲル化させた結果、水溶性成分の保持能の向上は認められたが、脂溶性成分の挙動については明らかになっていない。そこで、内水相をゲル化させたときの多層エマルションからの香気成分放散挙動について、香気成分の分配係数を基準に評価を行い、物性の変化とリリース挙動との関係を明らかにする。さらに、多層エマルションの他のゲル化剤による影響についても検討を行う。 2023年度には外水相を大豆たんぱく質によりゲル化させる条件について検討を行ったが、この条件についてより詳細に検討を行うとともに、物性と内在成分のリリース挙動の関係について検討を行う。外水相をゲル化させることにより、エマルション自体をゲル化させたゲル状食品の状態とし、その物性と香気成分あるいは機能性成分の放出挙動との関係を明らかにする。 また、内水相と外水相のいずれをもゲル化剤等により物性を変えたときのエマルション自体の物性や内在成分の放散挙動についても検討を行うためのエマルション作製条件の検討を行っていく
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