研究課題/領域番号 |
23K05171
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39010:遺伝育種科学関連
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
村井 耕二 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (70261097)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 細胞質ゲノム利用育種 / ミトコンドリアゲノム / 細胞質置換系統 / 花成 / 温暖化適応 / ストレス耐性 / 細胞質ゲノム / コムギ / レトログレード・シグナル |
研究開始時の研究の概要 |
申請者が作出した近縁野生種 Aegilops mutica および Ae. geniculate 細胞質を持つ20品種の日本コムギの細胞質置換系統を用いる。Ae. mutica 細胞質ゲノムを持つ細胞質置換系統における花成(栄養成長から生殖成長への移行)時期の改変、および近縁野生種 Ae. geniculate 細胞質ゲノムを持つ細胞質置換系統におけるバイオマス(植物生体重)の改変に着目し、「細胞質ゲノム利用育種法」を実践する。花成時期の改変は収穫時期の制御による気候変動に対応した新品種の確立に、また、バイオマスの改変は自然エネルギーであるバイオエタノール用の新品種の確立に直結する。
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研究実績の概要 |
これまでの農作物の育種では、核ゲノムの変異と改良のみに注力されてきた。本研究では、コムギをモデルケースとし、細胞質ゲノムの変異を利用して核遺伝子の発現パターンを変更することにより形質を改変する、全く新たな育種法「細胞質ゲノム利用育種法」を実践する。本年度はまず、近縁野生種 Aegilops mutica 細胞質ゲノムによる花成(栄養成長から生殖成長への移行)時期の改変に着目した。Ae. mutica細胞質による花成遅延は、圃場条件下では特に冬期の節間伸長の抑制に顕著に現れ、温暖化による暖冬時に、節間伸長の早期化に伴う分けつの減少を抑制する「温暖化適応品種」の育種に有用かもしれない。 圃場における農業形質調査:これまでの研究で、Ae. mutica細胞質の一穂粒数の減少などの悪影響が現れない「ふくさやか」の細胞質置換系統((mut)-ふくさやか)を用い、圃場における農業形質調査を行った。その結果、正常細胞質「ふくさやか」に比べて有意に暖冬期(2024年2月)の分けつ数の減少を抑制することが明らかとなった。 人工気象器における生育調査:第1葉期に春化処理を実施した後、20℃長日条件下(16時間日長)の人工気象器において、生育調査を行った。その結果、細胞質置換系統では、葉間期(Plastochron)が有意に遅くなっていた。 VRN1遺伝子発現調査:人工気象器の植物体を用いて、花成促進遺伝子であるVRN1の発現パターンを解析した。その結果、細胞質置換系統ではVRN1遺伝子の発現レベルが減少することが明らかとなった。 RNA-seq解析:人工気象器で栽培した第7葉期のseedlingを用いて、網羅的なRNA-seq解析を行い、発現量の異なる遺伝子を同定した。その結果、細胞質置換系統ではストレス耐性機構に関与するgermin-like protein遺伝子が高発現していることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞質ゲノムの影響を受ける遺伝子として花成促進遺伝子VRN1を明らかにした。また、RNA-seq解析により、細胞質置換系統で特的に発現上昇する遺伝子として、ストレス耐性に関係するgermin-like protein遺伝子を同定できた。さらに、「細胞質ゲノム利用育種法」の実践では、Ae. mutica細胞質を持つ実用的品種の育種として、(mut)-ふくさやか//ふくこむぎ/春よ恋の後代系統の選抜に入っている。これらの成果を考慮すると、研究はおおむね(それ以上に)進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
<細胞質ゲノム利用育種法の原理の解明> 細胞質ゲノムに影響を受ける花成およびバイオマスを制御する核遺伝子の同定:Ae. geniculata細胞質のバイオマスに関する効果を圃場調査により明らかにする。バイオマス増加の効果が認められたら、Ae. mutica細胞質の場合と同様に、まず、RNA-seq解析を進め、発現変動する遺伝子の同定を行う。Ae. mutica細胞質置換系統に関しては、冬期の節間伸長抑制について、圃場調査により詳細に解析し、VRN1遺伝子発現パターンとの関連を明らかにする。さらに、RNA-seq解析によって見出したgermin-like protein遺伝子について、発現変動の差異を明らかにしていく。また、germin-like protein遺伝子が、細胞質置換系統の温暖化適応性にどのように関与するのかを検討したい。 原因細胞質ゲノム(ミトコンドリアゲノム)因子の同定:Ae. mutica細胞質置換系統に関しては、RNA-seq解析において、核遺伝子EST配列との相同性でフィルターをかけることにより、細胞質置換系統で特異的に発現する細胞質ゲノム(ミトコンドリアゲノム)転写産物を特定する。さらに、それらの遺伝子の発現変動パターンと生育の解析により、原因遺伝子を特定したい。 <細胞質ゲノム利用育種法の実践> 「(mut)-ふくさやか//ふくこむぎ/春よ恋」交雑由来の系統について、農業形質の詳細な調査を行い、温暖化適応品種として品種登録を行う。「ふくこむぎ」は福井県の優良奨励品種であり、福井県の気候に適している。「春よ恋」は北海道の春播き品種であり、製パン性に優れた硬質コムギである。「(mut)-ふくさやか//ふくこむぎ/春よ恋」交雑後代から、農業形質と硬質性で選抜をかけ、福井県を含む北陸地方において温暖化に適応した優良な品種を開発したい。
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