研究課題/領域番号 |
23K05241
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39040:植物保護科学関連
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
児玉 基一朗 鳥取大学, 農学部, 教授 (00183343)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 植物病原菌 / 腐生菌 / 共生菌 / 二次代謝産物 / ゲノミクス / 遺伝子クラスター |
研究開始時の研究の概要 |
植物病原糸状菌は植物との共進化の結果として、多種多様な二次代謝産物(SM)生産能を発達させてきた。SMは、菌における生存・発病ストラテジーのひとつとして、腐生菌、共生菌および病原菌を分かつ要因となり、さらに病原菌においてはエフェクター分子として、病原性の分化に大きく寄与している。Alternaria菌群は腐生、寄生および共生系統を有し、菌の多様なライフスタイルを決定する分子機構解明のモデルとなる。本研究では、Alternaria菌群が保有する多彩なSM生合成系に焦点を当て、菌のライフスタイルの変遷・進化と多様性形成の仕組みを、糸状菌ゲノミクスを基盤として解明する。
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研究実績の概要 |
植物病原糸状菌は植物との共進化の結果として、多種多様な二次代謝産物生産能(=生理活性物質多様性創出システム)を発達させてきた。それら化合物は、菌における生存・発病ストラテジーのひとつとして、腐生菌(非病原菌)、共生菌および病原菌を分かつ要因となり、さらに病原菌においてはエフェクター分子として、病原性の分化に大きく寄与している。とりわけ、代表的なネクロトロフ(necrotroph)菌であるAlternaria菌群は、同属中に腐生、寄生および共生系統を有し、菌の多様なライフスタイルを決定する分子機構解明のモデルとなる。本研究では、ネクロトロフ病原菌が保有する極めて多彩な二次代謝産物生合成系に焦点を当て、菌のライフスタイルの変遷・進化と多様性形成の仕組みを、糸状菌ゲノミクスを基盤として解明することを目指した。比較検討のため、Alternaria菌群に加え、他のネクロトロフ病原菌(毒素生産菌)として、Corynespora属、Fusarium属およびCochliobolus属病原菌を使用した。また、典型的なエンドファイト菌として、Epichloe属エンドファイトも対象に加えた。 上記の寄生、腐生など生活様式の異なる糸状菌を用いた比較・系統ゲノミクス等の解析手法により、ネクロトロフ病原菌、腐生菌および共生菌の生存・発病戦略および多様性形成と進化の過程に、二次代謝産物およびその生合成遺伝子クラスターが重要な役割を果たすことを証明した。さらに、これら菌類の進化の過程において、遺伝子クラスターおよび病原性染色体の水平移動が関与する可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、腐生性系統および寄生性系統を含むAlternaria属菌において、複数株のドラフトゲノム解析データを取得した。本計画では、さらに宿主を異にするCorynespora属病原菌のドラフトゲノム解析を進めるとともに、研究協力者によって取得されたCochliobolus属病原菌およびEpichloe属エンドファイトのゲノムデータを活用して、比較ゲノミクスにより、腐生菌、共生菌、寄生菌、また異なる寄生性の分化を示す菌系間における類似点、相違点をゲノムレベルで比較解析した。従来、解析対象となる機会の少ない腐生性(非病原性)系統についても十分な解析を行う点が、本計画の強調すべきポイントのひとつである。 これら比較対象菌株における、二次代謝産物生合成遺伝子クラスターの同定とカタログ化を進めた。各種遺伝子クラスターにおいて、より多数のデータをカタログ化し、比較することにより、オーファンクラスターを含む、腐生菌・病原菌・共生菌に特徴的なクラスターをピックアップすることが可能となった。クラスターの数、種類、構成および構造を腐生菌-病原菌-共生菌間、また、病原性系統および種間で比較解析し、類似点と相違点を調査した。その結果、腐生菌あるいは共生菌も多様な二次代謝産物生合成遺伝子クラスターを保有しているが、特定の病原性系統は、それぞれの宿主植物を加害するための毒素生合成遺伝子クラスターを進化・保持している可能性が示された。これら多種多様な二次代謝産物生産能が、菌における生存・発病ストラテジーのひとつとして、腐生菌、共生菌および病原菌を分かつ要因となり、さらに病原菌においてはエフェクター分子として、病原性の分化に大きく寄与している可能性が示唆された。 これらの結果から、本研究計画は、おおむね予定通りに進行していると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、対象菌株における、二次代謝産物生合成遺伝子クラスターの同定とカタログ化をさらに進めるとともに、生合成遺伝子群の網羅的機能解析、代謝産物の同定を通して、進化・多様性形成過程の推定を行う。対象とする病原菌、腐生菌および共生菌の保有する各種遺伝子クラスターにおいて、より多数のデータをカタログ化し、比較することにより、オーファンクラスターを含む、腐生菌・病原菌・共生菌に特徴的なクラスターをピックアップすることが可能となる。その後、個々のクラスターをターゲットにした機能解析に基づく、菌の生存・発病戦略を決定する実行因子同定のステップに移行する。その具体的手順は以下である。 異なるライフスタイルの菌株間(寄生vs.腐生、寄生A vs.寄生Bなど)の比較により、候補遺伝子をピックアップし、順次、ターゲットクラスターのKO・異種発現を行う。まず、クラスターの中心となるPKS、あるいはNRPS遺伝子等のKOを遂行し、各クラスターの特異的欠失系統シリーズの作成を完了する。また、ターゲットクラスターの人為的な移入と発現を試みる。次に、生合成遺伝子クラスター欠失・移入系統の腐生・寄生・共生生活能力の検定を接種実験等により行う。さらに、クラスター欠失・移入系統における代謝産物の化学的同定と進化・多様性形成過程の推定を試みる。機能が推定可能なクラスターに加え、オーファンクラスターに関して、クラスター構造からの産物予測やLC-MS解析などを通して、二次代謝産物の同定を目指す。これにより、遺伝子クラスターから最終産物までの対応が明確となる。 以上の研究結果により、菌の二次代謝産物多様性創出システムの進化を基盤とした、腐生・寄生・共生生活を決定づける生存・感染戦略、また、腐生菌から寄生菌(あるいは逆)への進化過程、さらに寄生性の分化・多様性形成メカニズムの一端が明らかになることが期待される。
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