研究課題/領域番号 |
23K05247
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39040:植物保護科学関連
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
齋藤 宏昌 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (20414336)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | イネいもち病菌 / MoSVP遺伝子 / MoSVPタンパク質 / HsbA / Δmosvp / Δmosvp+MoSVP / Δmosvp+MoSVPns / 病原性因子 / 病原性分泌タンパク質 |
研究開始時の研究の概要 |
植物病原糸状菌による作物の病害を防除するためには病原菌由来の病原性遺伝子を同定し、その機能を調査することで、病原菌の宿主植物への感染機構を解明することが重要である。子嚢菌類に属するいもち病菌(Magnaporthe oryzae)によって引き起こされるイネいもち病は、世界中の米の減収をもたらすイネの最重要病害である。研究代表者らは、イネいもち病菌の感染初期段階で高発現する遺伝子群の中から病原性分泌タンパク質遺伝子MoSVP(M. oryzae Secreted Virulence Protein)を単離した。本研究では、イネいもち病菌の病原性におけるMoSVPとその遺伝子産物の機能解析を行う。
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研究実績の概要 |
イネいもち病菌において、宿主植物への感染初期段階で高発現するMoSVP遺伝子が単離されている。MoSVP遺伝子を破壊したイネいもち病菌(Δmosvp)の病原性は著しく低下し、ΔmosvpにMoSVPを再導入した相補株(Δmosvp+MoSVP)では病原性が復帰する。MoSVPホモログは他の植物病原糸状菌にも見出されている。MoSVPタンパク質のアミノ酸配列のN末端には分泌シグナルペプチド、中央には疎水性表面結合タンパク質A領域(HsbA)、C末端には機能未知の領域が存在する。麹菌Aspergillus oryzae由来のHsbAは、疎水性固体表面に溶解酵素を取り込み、疎水性物質の分解を促進する。本研究では、MoSVPタンパク質が菌体外に分泌されて機能するか調査するために、分泌シグナルペプチドを欠損したMoSVP(MoSVPns)をコードする遺伝子を、MoSVPプロモーターの制御下で発現させるプラスミドベクターpCB-MoSVPp-MoSVPnsを作製した。つぎに、pCB-MoSVPp-MoSVPnsでΔmosvpを形質転換し、Δmosvp+MoSVPnsを作出した。Δmosvp+MoSVPnsを宿主植物に接種した結果、病原性は復帰しなかった。つぎに、大腸菌で生産させた組換えMoSVPタンパク質を精製し、MoSVPの病原性機能を調査した。供試植物として、幼植物ではイネいもち病菌に感受性を示すオオムギ品種Nigrateを使用した。30 µMの精製MoSVPタンパク質をオオムギ子葉にスポットし、6時間後のスポット箇所にΔmosvpをスポット接種した結果、Δmosvpの感染が助長され、明瞭な病斑が観察された。以上の結果から、イネいもち病菌の感染初期に菌体内で生産されたMoSVPタンパク質は、菌体外に分泌された後、イネいもち病菌の病原性因子として機能することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「イネいもち病菌の感染初期に生産されるMoSVPタンパク質は、菌体外に分泌されてイネいもち病菌の病原性因子として機能する」 イネいもち病菌のMoSVP遺伝子は、宿主植物への感染初期段階でその発現が上昇することが明らかとなっている。MoSVP遺伝子を破壊したイネいもち病菌(Δmosvp)の病原性は著しく低下し、ΔmosvpにMoSVPを再導入して発現させた相補株(Δmosvp+MoSVP)では病原性が復帰したことから、MoSVPはイネいもち病菌の病原性遺伝子であることが証明されている。 MoSVPは180アミノ酸からなるタンパク質をコードしており、そのN末端には分泌シグナルペプチド、中央には疎水性表面結合タンパク質A領域(HsbA)、C末端には機能未知の領域が存在する。 本研究により、MoSVP遺伝子はイネいもち病菌の感染初期に高発現し、菌体内でMoSVPタンパク質が生産された後、①分泌シグナルペプチドの切断後に成熟型MoSVPが菌体外に分泌され、②成熟型MoSVPが宿主植物の表面に作用してイネいもち病菌の病原性因子として機能する、ことを示唆する結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
(i) イネいもち病菌の病原性におけるMoSVP遺伝子とその遺伝子産物MoSVPタンパク質の機能解析 本研究において、精製した組換え成熟型MoSVPタンパク質(MoSVPns)をオオムギ子葉にスポットし、6時間後のスポット箇所にΔmosvpの胞子懸濁液をスポット接種した結果、Δmosvpの病原性が助長された。 MoSVPnsのアミノ酸配列のN末端にはHsbA、C末端には機能未知の領域(MoSVP-C)が存在する。HsbAについては、疎水性表面に結合する機能が予想されている。今後は、組換えHsbAとMoSVP-Cをそれぞれ大腸菌で生産させ、精製したタンパク質をオオムギ子葉にスポットし、6時間後のスポット箇所へのΔmosvpのスポット接種試験を行い、HsbAとMoSVP-CのどちらがΔmosvpの病原性の助長に関与するか調査する。 (ii)ウリ類炭疽病菌のMoSVPホモログ遺伝子(CoSVP)の病原性機能解析 植物の炭疽病菌の中で、ウリ類炭疽病菌(Colletotrichum orbiculare)に関する研究が最も進んでおり、遺伝子破壊用プラスミドベクターを用いて容易に本菌の標的遺伝子破壊株作出を作出することが可能である。 本研究では、ウリ類炭疽病菌由来のMoSVPホモログ遺伝子をCoSVP(Colletotrichum orbiculare Secreted Virulence Protein)と名付け、CoSVPを破壊したウリ類炭疽病菌変異株(Δcosvp)を作出後、キュウリ本葉への胞子懸濁液のスポット接種試験を行った。その結果、野生株と比較してΔcosvpの病原性の低下が認められた。今後は、この実験の反復実験を行う。
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