研究課題/領域番号 |
23K05275
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39060:生物資源保全学関連
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
斉藤 知己 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 教授 (80632603)
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研究分担者 |
河津 勲 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 上席研究員 (50721750)
笹井 隆秀 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 研究員(専門) (80896803)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 絶滅危惧種 / 保全学 / 動物生態学 / フレンジー / 孵卵温度 / 日内変動 / 生残率 / ウミガメ / 保全 / 表現型 |
研究開始時の研究の概要 |
我が国は、国際的に保護が叫ばれる絶滅危惧種のタイマイ、アカウミガメ、アオウミガメの3種が産卵を行う為、その資源回復の重責を担っている。しかし、一般に実施されている卵管理の方法は改善の余地が多い。これらは異なる産卵深度を選好するが、上層ほど平均温度は高く、日内変動の振幅は大きく、各種で孵卵温度への感受性が異なる可能性がある。本研究の目的は、各種で孵卵温度に伴う表現型の違いを調べ、これに関わる生理学的機構の一端を解明し、各種に最適な孵卵条件を究明する事である。その結果に基づき、従来の保護活動を見直して新しい指針を作り、日本産ウミガメ3種の資源回復に貢献する。
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研究実績の概要 |
我が国は、国際的に保護が叫ばれる絶滅危惧種のタイマイ、アカウミガメ、アオウミガメの3種が産卵を行う砂浜海岸を有し、その資源回復の重責を担っている。この3種は同一砂浜内でも異なる産卵深度を選好するが、上層ほど平均温度は高く、日内変動の振幅は大きく、各種で孵卵温度への感受性が異なる可能性がある。 孵化直後のウミガメは,フレンジーと呼ばれる著しく運動活性の高い状態を呈する。孵化幼体が脱出直後から泳ぎ続けるフレンジーは,沿岸域から速やかに離れ,海流に到達するのに役立つが、この性質は孵卵温度で変化することが分かっている。一部の卵生爬虫類で知られる、孵卵温度により誘発される孵化幼体の表現型の違い(体サイズ・形、性、運動能力等)は、適応度の違いをもたらし、個体群存続に重要な役割を果たすと考えられる。 近年、ウミガメの産卵地では環境劣化が著しく、地域の保護団体が卵を孵化場に移植して管理を行うケースが多い。自然回復が見込めない現状では自然下での孵卵の成功が危ぶまれる為、人工環境下での卵管理も有効な手段の一つとして技術の発展・向上をはかる必要がある。しかし、一般に実施されている卵管理の方法は改善の余地が多いと思われる。例えば、環境省が提示する「ウミガメ保護ハンドブック」の現場実践ガイド欄では、孵卵温度は26~32℃と大まかな記述にとどまり、また、3種に関する種ごとの詳細な指針も無い。各種の初期生態には不明な点が多く、各地域では卵管理等の活動が行われているものの、事例が少ないことから調査研究の機会は限られ、それぞれに最適な孵卵・管理条件の確立には至っていない。 本研究の目的は、各種で孵卵温度に伴う表現型の違いを調べ、これに関わる生理学的機構の一端を解明し、各種に最適な孵卵条件を究明する事である。その結果に基づき、従来の保護活動を見直して新しい指針を作り、日本産ウミガメ3種の資源回復に貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度に、高知海岸での調査によってアカウミガメの産卵巣4巣を得た。また、沖縄美ら海水族館からは、アオウミガメの産卵巣6巣、タイマイの産卵巣2巣の卵の提供を受けた。これらをいずれも24時間以内に高知大学の実験施設へ輸送し、孵卵温度の設定を低温(≦ 28.5℃)、中温(28.5℃ <…≦ 30.5℃)、高温(30.5℃ <)に区分し、各巣の卵をそれぞれ一定温に設定した孵卵器に分けて孵卵した。孵化を確認した日の5日後に、体サイズの測定、平均泳力、血中成分(グルコース、乳酸、コルチコステロン)濃度の測定を行った。 その結果、各種の孵化率はアカウミガメでは高温孵卵の時に最も高い値を記録し、アオウミガメとタイマイでは中温孵卵の時が最も高くなった。直甲長はアカウミガメでは中・高温孵卵、アオウミガメとタイマイでは低温孵卵の時に大きい傾向がみられた。平均泳力は、アカウミガメで低温孵卵より中温・高温孵卵が有意に大きくなった。アオウミガメで中温・高温孵卵が大きい傾向がみられた。タイマイでは高温孵卵が低温・中温孵卵より有意に大きい結果となった。血中成分の動態は各種で異なる傾向がみられたが、それを解釈するにはサンプル数が十分でない。 以上の結果から、各種で高い孵化率を示した孵卵温度は、種による産卵場所の選好性の違いと関係し、すなわちアカウミガメが砂浜の開けた場所に産卵するのに対し、アオウミガメは砂浜奥部の植生帯際の深部、タイマイは植生帯内に産卵するという傾向と一致するように考えられる。 また、それら温度帯での泳力およびエネルギーは、アカウミガメとアオウミガメでは高く、タイマイでは比較的低いものの、前者2種の幼体がそれぞれ北太平洋中東部や外洋に広域分散し、後者の幼体が近海に滞留するという、現在想定されている幼体の分散の知見と対応しているように考えられるが、これを結論づけるには観察事例が十分ではない。
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今後の研究の推進方策 |
タイマイの生息数は大変少なく、例年、国内では沖縄本島以南の島嶼の海岸で年間10回程度しか産卵が確認されていないため、自然卵からの試料となる卵の十分な確保は到底、見込めない。研究分担者の所属する沖縄美ら海水族館ではタイマイの人工環境下での繁殖に成功している。そこで、本研究では、人工環境下で繁殖に成功した本種の卵を研究に利用する事に合意を得た。しかし、令和5年度の研究ではタイマイの人工繁殖卵を2巣確保できたものの、いずれの産卵巣も孵化率が低く、実験に供試できた孵化幼体が少なかった。実験から得られた結果は、期待された内容であったが、それを普遍的な知見として一般化するには依然として標本数が十分とは言えない。令和6年度以降もこれまでと同様の実験を行ってタイマイはもちろんのこと、各種の研究事例数を集積していく予定である。さらに、サンプル数に余裕が生じれば、条件を変えて平均孵卵温度に日内変動を施した場合等についてもウミガメ孵化幼体の生残に及ぼす影響を明らかにしていく予定である。 孵卵温度に誘発されるウミガメ孵化幼体の運動能力の違いは、筋内の様々な筋線維タイプの頻度と分布の違いによる可能性があるか、あるいは、肺から筋肉に酸素を輸送する能力の違いにもよると考えられる。肺から筋肉への酸素輸送は、主に血中ヘモグロビン濃度によって決定される血液の酸素運搬能力、および 1 回拍出量 (心臓の大きさによって決まる) と心拍数の積である心拍出量に依存する。その一部または全てが孵卵温度の影響を受ける可能性がある為、測定値を取り入れて調べたいと考えている。
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