研究課題/領域番号 |
23K05288
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分39070:ランドスケープ科学関連
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
加藤 真司 東京都市大学, 環境学部, 教授 (50523388)
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研究分担者 |
札埜 高志 兵庫県立大学, 緑環境景観マネジメント研究科, 准教授 (40314249)
平田 富士男 兵庫県立大学, 緑環境景観マネジメント研究科, 教授 (80316041)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 不耕起湛水栽培 / 稲作 / 棚田 / 市民参加 / 水田保全 / 省力化 / 水田 / 市民参画 |
研究開始時の研究の概要 |
神戸市内にある国営公園内の棚田をフィールドとして、不耕起湛水栽培の実施によって、粗放型の稲作のあり方を見出し、それにより、一般市民でも容易に参画が可能な稲作方法による市民農園的な水田の活用方策を見出すことを目的とする。その活用方策として、最も手がかからないとされる不耕起湛水栽培に着目し、一般市民の参画が容易な諸条件を明らかにする。想定される条件は、自宅から水田までの適正距離、年間適正農作業量、所要経費の水準、期待できる便益などである。このように、あいな里山公園愛の棚田をフィールドとして、市民参画が容易な水田の不耕起湛水栽培のあり方の検討を行う。
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研究実績の概要 |
不耕起湛水栽培による稲作の実験地として、神戸市にある国営明石海峡公園神戸地区(通称「あいな里山公園」)内の棚田を選定し、ここで、公園管理者の許可のもとに、不耕起湛水栽培による稲作の試行実験を行った。不耕起淡水栽培では、水田の水深の差がイネの生育に影響を及ぼす可能性があるという仮説のもとに、水深の異なる3実験区画を水田の中に設け(畔板で区切った)、最終的に収穫できたコメの量で水深の影響を評価した。また、本研究の初年度では、農業従事者ではない一般市民でも稲作が可能なのかの検証や、素人が実施した場合の所用の労働量の把握が主目的だったため、作業に当たっては、作業種ごとの労働に要した延べ作業量の把握に努めた。 以上の実験により、水深はイネの生育には影響していなかったこと、および、田植え(手植え)・雑草取り(手抜き、1回)・稲刈り(手刈り)・水管理の作業だけで、イネの収穫が可能であることが分かった。また、年間延べ15.7日の作業量で、大人一人が1年間に消費するコメが収穫できることが確認できた。ただし、この作業量には、機械で行った脱穀と籾摺りの作業量が含まれていないので、それらを考慮すると、大人一人がおおむね年間20日間の作業量で、自分が消費する1年間のコメを収穫できることになる。実験実施前での不耕起湛水栽培の実践者へのヒアリングでは、労働日数は年間およそ20日間という回答を得ていたので、それと符合する結果が得られた。不耕起湛水栽培は、無農薬・無施肥で、かつ粗放型の稲作作業であり、農業の素人である一般市民には適した農法であると言える。本実験結果は、2024年度からの市民参画による不耕起淡水栽培の稲作実験の企画・準備に活かしているところである。 なお、得られた成果は、2023年12月に、日本造園学会関東支部大会において口頭発表「不耕起湛水栽培による市民参加型の稲作試行実験」を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画は、初年度に不耕起湛水栽培の稲作の実施可能性の検証を行うことであった。2023年を通じて実施した実験水田における不耕起湛水栽培の試行実験により、特段特別な技術や知識がなくとも、年間およそ20日間の人力による作業のみで、自らが食す1年間のコメの栽培が可能であることが確認できた。この知見をベースに、2024年度は10組の一般市民の方にモニターとして、実際に実験水田(あいな里山公園内)において一通り不耕起湛水栽培の実践実験を行うこととしている。2023年度にモニターの選定作業を終えており、2024年5月には、モニター説明会と田植えを行うべく、その準備を進めているところであり、ここまでおおむね計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
都市内の貴重な環境インフラである水田が、担い手不足などの理由から、手放されて用途転用がなされたり、放棄地として荒れ果てる現状を鑑みて、水田を存続させるには、本来の用途である稲作の継続が必要であるという問題意識から始まったのが本研究だった。粗放管理型の農法である不耕起湛水栽培事例から、農業従事者ではない農業の素人でも稲作が容易にできる可能性が見いだせたため、一般市民でも実施可能な稲作手法を確立し、都市内の貴重な環境インフラである水田の保全につなげていくことを研究の主目的としている。 2023年度は、実験水田において、不耕起湛水栽培の試行を実践し、専門知識と経験に基づいた緻密な水位管理などの特段特別な技術や知識がなくとも、本田管理に費やす労力は年間およそ20日間の人力による作業のみでも、自らが食す1年間のコメの栽培が可能であることが確認できた。この知見をベースに、2024年度は10組の一般市民の方にモニターとして稲作を実践いただき、本実験を通じて、一般市民が不耕起湛水栽培を実施する場合の適正水田規模の把握や、具体の作業内容及び作業量を明らかにすることを予定している。こうした一般市民参画型の稲作農法が成立する諸条件が明らかになれば、貸農園としての水田の活用や、農家の水田の管理形態の幅が拡がることが期待できる。 今後の本研究の展開としては、いかに一般市民参加型の稲作農法が確立できるかという過程を経て、その手法を適用した場合の水田の保全への効果を検証するとともに、その結果として都市内環境の改善にどのようにつながって行くのかの考察を行っていく。 また、水田の保存にまつわる課題は我が国にとどまらず、東アジアの近隣諸国でも同様の課題を有し、台湾の学者からはその指摘も受けているので、今後、国際的な議論のテーマとしてもフォーカスしていきたい。
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