研究課題/領域番号 |
23K05380
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
工藤 秀明 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40289575)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | サケ属魚類 / 母川回帰 / 嗅覚刷込 / 行動 / 神経興奮 / cfos / カラフトマス / ヒメマス / サケ / 嗅覚応答 / 脳 |
研究開始時の研究の概要 |
サケ類は、降海時に母川特有のニオイ情報を記憶(母川刷込)し、回帰時にはその記憶を想起して母川を識別することから、その特性を利用してふ化放流による増殖事業も行われている。しかし、母川刷込の能力やその状況の詳細に基づいた放流は実施されていない。本研究では、サケ類の従来から刷込期とされる幼稚魚期と最近注目されている仔魚期に人工ニオイ分子に対して人為的に嗅覚刷込を形成させ、親魚まで育成した個体を用いて、同ニオイ分子に対する選択性を指標に刷込状況を確認し、興奮する脳活動状況を神経科学的に解析する。これにより、仔魚期での刷込能力の実態と実際に嗅覚刷込した特定のニオイ分子に対する興奮脳領域を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、人為的に嗅覚刷込を形成させた実験魚を用いて、行動学的および分子生物学的側面を統合した神経科学的にサケ類の母川刷込を解析することにより、①仔魚期の刷込能の評価、②刷込ニオイ分子を嗅ぎ、想起することで興奮する脳領域の特定、③非刷込・非想起時における刷込ニオイ分子への反応の3点を明らかにすることを目的とする。本研究で得られる知見から、母川刷込機構の解明が前進し、ふ化放流事業における「仔魚期刷込」を考慮する必要性の有無および母川刷込に関わる脳領域が機能領域の解析が進んでいる哺乳類脳のどこに相当するかの知見から、脳内情報処理の詳細を明らかにすることができる。 初年度については、事前に作製していた仔魚期と稚魚期に10^-7Mβ-フェニルエチルアルコール (PEA)を人為的にそれぞれ刷り込ませた淡水飼育カラフトマスおよび仔魚期と幼魚期に同様にPEAを刷り込ませた淡水飼育ヒメマスを用いた。成熟前の非想起個体および成熟後の想起個体を用いて、PEAに対する選好性の行動学的試験およびPEA曝露した際の嗅神経系の神経興奮を最初期遺伝子の1つ cfos 遺伝子の発現をリアルタイム定量PCRで分析するための組織採集を行った。行動実験は、本学北方生物圏フィールド科学センター洞爺臨湖実験所に設置されているY字水路を用いて行った。片側のアームからPEAを含む水を流した際の行動を完全暗条件下で赤外線ビデオ撮影を上面から行い、動画データを入手した。動画データが多いことから、一部しか分析は終了していないが、分析した項目(行動の評価指標)では、個体差が大きく、PEAへの有意な選好性を示す統計学的結果が得られていない状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述のように、仔魚期と稚魚期に10^-7Mβ-フェニルエチルアルコール (PEA)を人為的にそれぞれ刷り込ませた淡水飼育カラフトマスおよび仔魚期と幼魚期に同様にPEAを刷り込ませた淡水飼育ヒメマスの成熟前の非想起個体および成熟後の想起個体を用いて、PEAに対する選好性の行動学的試験およびPEA曝露した際の嗅神経系の神経興奮をcfos 遺伝子の発現をリアルタイム定量PCRで分析するための組織採集を行ったが、行動実験は動画データの解析が途中である。分析を終えた、左右のアームでの「総滞在時間」については、個体差が激しく、当初予想していた明瞭なPEAへの選好性を示す行動が観察されていない。また、こちらは想定内の進捗状況だがcfos 遺伝子の発現解析は、各嗅神経系組織(嗅房、嗅球、終脳)をRNA保護保存液中で冷凍保存している状態である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に得られた行動試験の動画データ解析では、「総滞在時間」以外の未分析の行動評価指標項目について解析を進めていくと共に、冷凍保管中のRNA分析用標本を用いて、cfos 遺伝子発現を指標とした神経興奮の解析を進めていく予定である。さらに、今年度秋季には洞爺湖において放流前の仔魚期にPEA、稚魚期に飼育水に含まれないアミノ酸、プロリンを人為的に刷り込ませた成熟親魚が実験所の魚道に回帰し始める予定である。その個体を用いて、初年度と同様の解析と神経興奮については細胞レベルでの解析が可能なin situ ハイブリダイゼーションによるcfos発現解析にも着手する予定である。
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