研究課題/領域番号 |
23K05394
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 敬典 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (40728268)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 珪藻 / 葉緑体 / ピレノイド / 光合成 / RubisCO / 相分離 / CO2濃縮機構(CCM) / プロテオーム |
研究開始時の研究の概要 |
珪藻は、海洋光合成の約4割を担う主要生産者であり、その葉緑体は海洋物質循環を駆動する原動力となっている。また、珪藻は紅藻類を取り込む「二次共生」により葉緑体を獲得したため、葉緑体は四枚の包膜に囲まれており、葉緑体の中心部にはCO2固定酵素を集積した液滴状オルガネラ「ピレノイド」が存在する。このような構造は植物には見られず、珪藻が持つ葉緑体の独自構造がどのようにして高い生産性に寄与しているかは不明である。本研究では、新技術を用いることにより珪藻葉緑体におけるタンパク質の局在地図を作成し、その情報をもとに珪藻が効率良くCO2を固定するしくみを解明する。
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研究実績の概要 |
本年度は珪藻葉緑体の高解像度プロテオームマップ構築の標的として、葉緑体内の液滴状オルガネラであるピレノイドを選定し、新奇ピレノイドタンパク質の同定と局在決定を目指した。ピレノイドは、CO2固定酵素であるRubisCOと、RubisCO同士をつなげるリンカータンパク質の相互作用により相分離することで形成されると考えられている。珪藻のピレノイドは、海洋の一次生産を駆動するコアオルガネラと考えられるが、その基本構造やCO2固定を最適化するしくみは未だ解明されていない。また、ピレノイドは液状で膜を持たない構造物であり、生化学的にピレノイドを単離・解析することは難しく研究が遅れている。そこで、in vivo感光架橋によりピレノイドを安定化させることでピレノイドを精製し、プロテオーム解析を行った。本手法により、珪藻ピレノイドの分画が可能となり、複数の新奇ピレノイド構成因子候補を同定した。そのうちの一つである機能未知タンパク質について、GFP融合タンパク質の発現による局在解析を行ったところ、ピレノイドマトリックスを囲むように局在することが明らかになり、これをPyshell(Pyrenoid Shell)として同定した。共同研究者である松田祐介教授および嶋川銀河博士(いずれも関西学院大学)により、珪藻Thalassiosira pseudonanaのPyshell欠損変異体の単離と解析がなされ、Pyshellの破壊により光合成活性が著しく低下し、同時に生育速度も低下することが明らかになった。Pyshellはピレノイド形態を維持する構造因子であると考えられた。これらの成果を論文として投稿した。Pyshellホモログは、ピレノイドを有する主要な海洋二次藻類(ハプト藻など)にも保存されており、海洋の一次生産を支える重要因子であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
珪藻のピレノイドは、単離が難しく、ピレノイドに局在するタンパク質として数種類のみが同定されているのみであった。本研究により、Pyshellを含むピレノイド局在タンパク質の候補が複数同定され、それらのタンパク質の局在解析を行うことで、海洋一次生産を支える最重要オルガネラであるピレノイドの構造基盤の一部が解明された。Pyshellについては、共同研究者らが変異体の取得と解析を進め、Pyshellの欠損によりピレノイドの構造が維持できず、光合成活性が著しく低下することを示した。これらの成果は、珪藻葉緑体の構造-機能相関の解明という本研究の目的に沿っており、かつ海洋一次生産を支える新奇分子を同定したという点において、重要な成果であると言える。Pyshellの同定と解析については、学術誌に投稿済みであり、現在レフリーの指摘に基づき原稿の改訂を進めている。技術基盤の確立の一環として、近位依存性標識の利用を進めている。現在は、モジュラークローニング法など、基本的ンあクローニングツールの拡充を進めているが、これらの技術を利用して来年度はさらに研究を加速させることができると期待される。以上の点から、本研究は順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は、in vivo感光架橋技術を用いることでピレノイド構成因子の同定を進めた。今後は、新たな技術として近位依存性標識法により、Pyshellを始めとする既知ピレノイド因子をベイトとし、ベイトと相互作用するタンパク質を網羅的に同定する。植物では、近位依存性標識法により、ラパマイシン標的キナーゼ(TORキナーゼ)の相互作用因子が同定されていたことから、珪藻においてTORキナーゼをポジティブコントロールとして近位依存性標識法の運用を進めていくことにした。その一環として、珪藻のTORキナーゼの解析法の確立にも着手している。また、ピレノイドについては、感光架橋による構造安定化が極めて有効な手法であることが示されたが、珪藻の四重葉緑体包膜については、別のアプローチが必要であると考えており、その一つとして各包膜間空間に発現させたGFPをベイトとして近位依存性標識法による相互作用タンパク質の同定を進め、どの膜にどのようなタンパク質が存在するかを生化学的に明らかにする予定である。さらに、CO2濃度変化に応じたトランスクリプトーム解析を行い、プロテオーム解析とトランスクリプトーム解析のデータを総合的に解析することで、珪藻の光合成を支える新奇因子の同定を進めていく。
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