研究課題/領域番号 |
23K05400
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分40040:水圏生命科学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
古川 亮平 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 助教 (90458951)
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研究分担者 |
田口 瑞姫 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 助教 (20880462)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 棘皮動物イトマキヒトデ / 変態 / 変態誘起バクテリア / 遺伝子共発現ネットワーク / シグナル伝達経路 / 変態誘導 / 棘皮動物 / イトマキヒトデ / トランスクリプトーム解析 / バクテリア刺激 |
研究開始時の研究の概要 |
変態現象にバクテリアが関与する動物種は多く、バクテリア刺激をキューとした変態制御の分子基盤を明らかにすることは、生態系の理解や生態発生学の発展に有用な知見となる。イトマキヒトデは、浮遊生活を送る幼生期から底生生活を送る成体に変態する際、固着基質表面に存在するバイオフィルムを必要とする。最近、この変態の開始にはバクテリア刺激によるレチノイン酸経路の活性化が必要であることが示唆された。そこで本研究では、イトマキヒトデの変態過程を網羅したトランスクリプトームデータを用いて、バクテリア刺激の直下で発現上昇する遺伝子群から、レチノイン酸経路を活性化する変態誘導シグナルを同定する。
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研究実績の概要 |
棘皮動物イトマキヒトデは、浮遊生活を送る幼生期から底生生活を送る成体に変態する際、岩場などの固着基質表面に存在するバイオフィルムを必要とする。本研究では、先行研究で取得済みであるイトマキヒトデの変態過程を網羅したトランスクリプトームデータを用いて、バクテリア刺激の直下で発現上昇する遺伝子群から変態誘導シグナルを同定するものである。 今年度は、ブラキオラリア幼生のRNA-seqデータと、濾過砂利、またはレチノイン酸で変態を誘起した変態初期過程のRNA-seqデータを比較し、変態初期過程特異的に発現上昇する遺伝子群を得た。続いて、これらの遺伝子群における変態の全ステージのトランスクリプトームデータを用いて、マルチスケール埋め込み遺伝子共発現ネットワーク分析(MEGENA)を行い、12個のサブネットワークから構成される共発現ネットワークを得た。個々のサブネットワークの発現パターンから、変態初期過程で発現量の高いサブネットワークを同定し、機能アノテーションのエンリッチメント解析を行った。その結果、TLR経路やNFκB経路を中心とした免疫関連シグナル経路がエンリッチされていることが明らかになった。 そこで、TLR4選択的阻害剤であるTAK-242やIKKβの阻害剤であるIKKβ Inhibitor VIを用いて、変態が阻害できるか検証した。その結果、基質に固着する個体が有意に減少しただけでなく、固着の有無に関わらず、阻害剤で処理した全ての個体が変態しなかった。以上の結果から、変態の進行には、変態を誘起するバクテリアの認識によってNFκB経路が活性化される必要があることが強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トランスクリプトームデータの解析パイプラインが順調に構築でき、ほぼ当初の計画通りに研究を推進できている。このパイプラインを用いて得られたシグナル伝達経路の阻害によって変態が阻害できたことにより、変態の開始に必須のシグナル伝達経路が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
変態の開始にNFκB経路が重要な役割を果たしていることが強く示唆されたことから、当初の計画通り、この経路の阻害によって変態の進行に必要なレチノイン酸経路の活性化が阻害されるかをqPCR法によって検証する。 また、NFκB経路の構成遺伝子を複数クローニングし、変態初期過程において、これらの遺伝子が幼生のどの組織で強く発現しているか、in situ hybridizationによって調べる。In situ hybridizationでは、ホールマウントに加え、切片を用いた発現解析も試みる予定である。それに先立ち、まず変態過程のサンプルから質の高い切片の作製方法を検討する。 一方、阻害剤を用いた変態誘起アッセイの結果、TLR4選択的阻害剤であるTAK-242が変態を阻害することが明らかになったが、脊椎動物においてはTLR4はグラム陰性菌に対するパターン認識分子である。予備実験からLPSの投与のみでは変態を誘起できていないため、TAK-242の標的分子が実際にTLR4のオーソログであるかはよくわかっていない。TAK-242の阻害効果は、哺乳類のTLR4の細胞内領域に存在するTIRドメインであることから、トランスクリプトームデータを用いて、TAK-242の標的になりうる遺伝子の探索も行う予定である。
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