研究課題/領域番号 |
23K05458
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分41040:農業環境工学および農業情報工学関連
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
伊藤 大雄 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (00333716)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | リンゴ / 光合成 / 日射量 / 順化 / 低日射量 / 適応 / 気候変動 |
研究開始時の研究の概要 |
変動気候下では、長雨などにより数日~数週間の低日射環境に遭遇する可能性が高まる。その際、個体レベルで光合成システムの弱光への適応現象が起こり、その後日射環境が改善しても再適応できない可能性がある。本研究では、リンゴ樹に個体レベルで様々な期間・強度の遮光処理を行い、処理期間中や処理後の個体・個葉の光合成速度を測定することにより、この仮説を検証する。さらに、遮光処理が花芽分化や果実収量に及ぼす影響を処理翌年まで調査する。
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研究実績の概要 |
樹列間5m、樹間3mのリンゴ園で、類似した樹勢を示す‘こうこう’2樹(以下A樹、B樹と呼ぶ)を選定し、各樹を内包するように2個の大型同化箱を建設した。同化箱の大きさは幅2.4m、長さ3m、高さ4mで、鉄製アングルで外側の骨格を作成し、2側面を透明なアクリル板で、他の2側面と天井面ならびに地上高0.5mを透明なポリ塩ビフィルムで被覆した。但し諸作業を行えるよう、フィルム面はファスナーで開閉できる構造とした。アクリル板には給気ファン2個と箱内空気撹拌用ファン4個をとりつけた。また、2個の同化箱の近傍に物置小屋を設置した。同化箱外部から供給される空気と、4カ所から採取した同化箱内空気の一定量を小屋まで吸引し、赤外線ガス分析計でCO2濃度を計測するとともにデータロガーに計測結果を保存した。光合成速度は同化箱内外のCO2濃度差に給気速度を乗じて計算した。 実験に先立ち、B樹を剪定して葉量を減少させ、両樹の個体光合成速度をほぼ同等にした。その後、10月2日から11月5日にかけて、B樹はまず6日間寒冷紗(遮光率34%)で遮光した後5日間無遮光で経過させ、その後24日間再び遮光した。A樹は一貫して無遮光とし、両樹の光合成量や光―光合成曲線を比較することで、B樹に低日射への適応がいつ頃、どの程度現れるのか検討した。その結果、B樹の最初の遮光期間の光合成量はA樹の71%であり明瞭な低日射適応が見られなかったが、2回目の遮光期間では、処理後半の光合成量がA樹の88%となり、低照度域で光合成速度の改善が認められた。 一方、10月19日と10月26日に両樹から3葉ずつを選定し、携帯型の個葉光合成測定装置を用いて、様々な光強度やCO2濃度の下で光合成速度を計測した。その結果、B樹の葉では10月19日に既に低日射への適応(陰葉化)の兆候が見られ、10月26日にはその傾向が一層顕著にあらわれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予算の制約から、赤外分析計分析計は希望していた製品を購入することが出来なくなり、他社の安価な製品を購入した。同製品は水蒸気濃度が測定できないので、A樹では蒸散速度が測定できなくなった。そのためA樹のチャンバー内外に相対湿度計を設置して水蒸気濃度の計測を試みたが、現在のところ十分な観測精度が得られていない。また、同製品は注文生産のため納品されたのが8月下旬であった。そのため、実験開始が当初の予定より2か月近く遅れ、1か月しか実験できなかった。さらに、個葉光合成測定装置の光源が不調で、予定通り測定できないことがあった。以上の事情はあったものの、残された実験を2024年度の前半に行えば遅れを取り戻せると考えている。また、個葉光合成測定装置は、予算の一部を組み替えて修理することとしたので、2024年度は順調に実験できるものと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
●個体光合成速度の測定 5月15日頃から5日間、A樹、B樹ともに無遮光で個体の日中光合成量を計測する。両者に違いがある場合は、必要最小限の剪定により光合成量を概ね同等にする。5月20日頃から2週間、A樹は弱遮光(遮光率20%)、B樹は強遮光(遮光率34%)処理を実施した後、再び2週間無遮光で経過させる。両樹が2週間でどの程度低日射に適応するか、一旦低日射に適応した樹が無遮光の2週間でどの程度強日射に再適応するかを検討する。6月中旬以降は11月上旬の収穫時期まで、再び弱遮光(A樹)または強遮光(B樹)処理を行い、長期低日射環境へのリンゴ樹光合成システムの適応を明らかにする。なお、密閉性を適度に保持しながら降雨を同化箱内に導くことにより、個体光合成速度の連続測定が可能であることがわかったので、薬剤散布や諸作業の日時を除いて毎日測定を実施する。 ●個葉レベルでの光合成速度等の測定 個葉レベルでも陰葉化の実態を明らかにするため、5月20日、6月3日、10日、17日、7月15日、8月15日、9月15日ならびに10月15日頃の午前中、個体光合成速度の測定を中断して、両樹の葉数枚ずつについて、光-光合成関係とCO2-光合成関係を測定・解析する。また、定期的に両樹の葉を10枚程度採取し、葉面積、比葉重、葉緑素量などの形態的形質を計測する。 ●果実収量と落葉量の測定 11月に果実を収穫するとともに落葉を回収し、低日射環境が光合成産物の分配や果実品質に及ぼす影響を調査する。
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