研究課題/領域番号 |
23K05514
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42010:動物生産科学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
武田 久美子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門乳牛精密管理研究領域, 上級研究員 (60414695)
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研究分担者 |
緒方 和子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 主任研究員 (40761614)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ウシ / 精子 / DNA正常性 / チオール基 / クロマチン / 受精 |
研究開始時の研究の概要 |
我々はチオール基反応性物質(タンパク質ジスルフィド用還元剤)である還元型グルタチオン(GSH)やL-システインのウシ精子への添加により精子頭部の後先体領域(PAR)にDNA損傷が検出される現象を認めているが、チオール基反応性物質の精子クロマチンへの作用は不明である。本研究では、システイン、GSH、DTT等のチオール基反応性物質がウシ精子クロマチンに及ぼす作用を明らかにし、精子の受精能獲得過程におけるクロマチン正常性の動態解明、TUNEL法を用いたウシ用の新たなDNAダメージ評価手法の確立、そしてウシ凍結精液の体外受精成績や人工授精成績との関連性を明らかする。
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研究実績の概要 |
種雄牛候補の一部から採取した精液には、凍結ダメージを受けやすいもの、また精液性状が正常でも人工授精後受胎率の低いものが存在し問題となっている。還元型グルタチオン(GSH)やL-システイン(CYS)はチオール基反応性物質であり、生体内の過剰な活性酸素種から精子を保護し、DNA損傷を防ぐ上で重要な役割を果たすとされる。一方で我々はGSHの精子への添加により精子頭部の後先体領域(PAR)にDNA損傷を受けた精子の検出率が増加する現象をみとめた(Ogata et al.,2022)。そこで本研究課題では、チオール基反応性物質のウシ精子クロマチンに及ぼす影響を明らかにし、新たなウシ精子DNA正常性評価法への利用を目指す。初年度はGSH以外のチオール基反応性物質であるCYS、N-アセチルシステイン(NAC)、ジチオスレイトール(DTT)等の添加がウシ精子クロマチン正常性に及ぼす影響を検討した。凍結融解後BO(-)液で洗浄後、CYS、NAC、DTTの添加濃度0.5~5mMとなるよう添加したBO(-)液に再浮遊し、38℃で15分培養した。その後、TUNEL法(In situ 細胞死検出キット、Roche社)により蛍光顕微鏡下でDNA損傷の局在(全体、部分陽性、陰性)および精子頭部形態正常性を検出した。CYSまたはNACの添加により、全体またはPAR領域のDNA損傷の割合が、コントロールに比べて増加した。一方、DTTの添加では、PAR領域とアクロソーム領域の両方でDNA損傷の割合が増加し、同時に、精子頭部の溶解がアクロソーム領域から精子頭部全体へと進行した。これらの物質の添加によって、より深刻なDNA損傷が引き起こされたのか、あるいはより多くのDNA損傷が露呈したのかについては、さらなる研究が必要である。本研究の成果は第20回アジア・豪州畜産会議(AAAP2024)にて発表を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はGSH以外のチオール基反応性物質であるL-システイン(CYS)、N-アセチルシステイン(NAC)、ジチオスレイトール(DTT)等の添加がウシ精子クロマチン正常性に及ぼす影響を検討し、CYSとNACの添加がGSHの添加と同様にTUNEL検出によるDNA損傷検出においては全体またはPAR領域のDNA損傷の割合が増加することを複数の種雄牛由来の凍結精液から明らかにした。一方、DTTの添加では、PAR領域とアクロソーム領域の両方でDNA損傷の割合が増加し、同時に、精子頭部の溶解がアクロソーム領域から精子頭部全体へと進行した。CYS、NACの添加処理による精子DNA損傷の総パーセンテージは20%以上となる場合もあった。処理濃度や処理時間に伴って検出されるDNA損傷率が変化することが明らかになったため至適化が必要である。本研究で得られた成果は2024年7月開催の第20回アジア・豪州畜産会議(AAAP2024)にて発表を行う予定である。以上のことから概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
TUNEL法によるDNAダメージ検出法は感度の高い有効な手法であることで知られるが、ウシ精子における一般的なDNA損傷検出マニュアルが未確立である。我々の試験ではL-システイン(CYS)、N-アセチルシステイン(NAC)の添加処理による精子DNA損傷の総パーセンテージは20%以上となる場合もあった。処理濃度や処理時間に伴って検出されるDNA損傷率が変化するため至適化が必要である。体外受精の際にGSHやCYSなどのチオール基の添加がより体外受精成績を向上させることが知られている一方で、これらの物質の添加によって、より深刻なDNA損傷が引き起こされたのか、あるいはより多くのDNA損傷が露呈したのかについては、さらなる検討が必要である。DNA損傷の局在を明らかにするには全体のDNA損傷のみ検出するコメット法は適さないため今回実施しなかったが、次年度はTUNEL法以外の手法で精子クロマチン構造への影響検討や、体外受精試験を進める。
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