研究課題/領域番号 |
23K05557
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
岡田 哲也 大阪公立大学, 大学院農学研究科, 客員研究員 (50374715)
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研究分担者 |
乾 隆 大阪公立大学, 大学院農学研究科, 教授 (80352912)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | トリパノソーマ / 分化 / クオラムセンシング / ピルビン酸 / ATP |
研究開始時の研究の概要 |
アフリカ睡眠病の病原原虫であるTrypansoma bruceiのヒト血流中における分化開始メカニズムに関する独自の研究成果を発展させ,本研究ではメタボロミクスと遺伝学的手法を基軸として,T. bruceiが産生する未同定の分化誘導物質SIFが自身の解糖系,特にピルビン酸キナーゼ(TbPK)を阻害することよりクオラムセンシングから分化開始に至ることを明らかにする。また,TbPKをツールとして,平衡透析法と質量分析を組み合わせた最新の低親和性リガンド解析法を実施することにより,T. brucei培養上清から本酵素に結合する化合物をSIF候補として同定する。
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研究実績の概要 |
原虫Trypanosoma bruceiは致死性のアフリカ睡眠病を引き起こす病原体である。ヒトをはじめとする宿主哺乳動物ではlong-slender細胞として血流中で増殖するが,過密になるとクオラムセンシングにより非増殖型のshort-stumpy細胞へと分化する。分化開始には,原虫自身が産生する未知の分化誘導因子(SIF)の作用が知られているが,その組成や作用機序には不明な点が多い。本研究課題では,SIFの標的候補として解糖系酵素であるピルビン酸キナーゼ(TbPK)に着目し,分化開始における本酵素の役割を明らかにするとともに,TbPKの特性を指標としてSIF活性を有する化合物の同定を試みる。 本年度は,分化誘導時における解糖系代謝物をイオンクロマトグラフィー質量分析計により一斉解析を行ったところ,TbPKの基質であるホスホエノールピルビン酸の蓄積が認められた。また,TbPKをノックダウンすることによってslenderからstumpy細胞への分化が誘導されることが明らかになり,SIF存在下のslender細胞においてTbPK活性が特異的に抑制されることが示された。 また,TbPKの反応産物であるピルビン酸を培養系に添加したところ,slenderからstumpy細胞への分化を誘導可能であることが分かった。ピルビン酸は血流型T. bruceiによって細胞外に放出・蓄積される有機酸であり,これまでに知られているSIFの物性条件にも合致することから,ピルビン酸がSIFの有力候補の一つとなることが期待される。 以上の成果は,解糖系の酵素であるTbPKと,その産物であるピルビン酸がぞれぞれstumpy細胞への分化に関与することを示しており,SIFによる分化誘導における最初期のイベント解明に向けた大きな進歩となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に実施した解糖系代謝物の一斉解析やノックダウン細胞株を用いた分化誘導実験によって,SIF存在下においてTbPKが阻害されることにより分化が誘導されることを示すことができた。これは課題申請時に提起した仮説を裏付けるものであり,本研究課題の進捗は順調と考えられる。 また,現在まで未同定であったSIFの構成要素を明らかにするという点では,新規の候補化合物としてピルビン酸を見出すことができた。ピルビン酸はTbPKが触媒する酵素反応の産物でもあることから,両者の直接的な相互作用が分化誘導のスイッチとして機能することが想起された。 ハウスキーピング遺伝子であるTbPKをノックアウトするため,あらかじめヒト型ピルビン酸キナーゼ(PKM1)をslender細胞に導入することには成功している。しかし,本年度にSIFの構成要素として同定したピルビン酸はTbPKとPKM1のどちらも阻害してしまう可能性があるため,課題申請時のとおりに研究を実施することは難しいことがわかった。これを回避するためにTbPKノックダウン細胞株を用いた評価系を急遽企画し,研究成果概要に記すとおりTbPKの分化誘導への寄与を明らかにすることができた。 これらの成果は,未知物質であるSIFの同定とその作用機序解明を目的とする本研究課題において,大きな進歩をもたらす重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究により,TbPKとその反応産物であるピルビン酸がそれぞれ分化誘導に寄与することが明らかになった。そこで今後は,両者の直接的な相互作用を検証するために,組み換え型TbPKに対するピルビン酸の阻害効果を評価する。酵素反応速度論的な阻害パラメーターを得ることで,細胞内にどれだけのピルビン酸が蓄積することでTbPK活性の阻害が起こるかを推測することが可能となる。組み換え型TbPKの精製や酵素アッセイの手法はすでに確立しており,実施体制は十分に整っている。 新たなSIF候補物質については,限外濾過や固相抽出などを用いてT. brucei培養上清からのSIF分画・粗精製を行い,平衡透析法と質量分析を組み合わせた低親和性リガンド解析法(MIDAS: Science 379, 996-1003)を利用してTbPKと相互作用する成分を探索する。候補化合物についてはTbPK阻害アッセイや,slender細胞に対する分化誘導試験を実施することによってSIF活性の有無を評価する。 以上により,SIF活性を有するT. brucei由来の化合物を同定し,これらの化合物によるTbPK活性調節の観点からslenderからstumpy細胞への分化誘導メカニズムに解明に臨む。
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