研究課題/領域番号 |
23K05576
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小熊 圭祐 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (50436804)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 猫伝染性腹膜炎 / ウイルス分離 / 治療薬開発 / S遺伝子 / 3c遺伝子 |
研究開始時の研究の概要 |
猫コロナウイルスの猫への感染は、多くの場合は軽度の下痢にとどまるが、数%の猫、特に若齢猫では致死的な猫伝染腹膜炎(FIP)を発症し、そのほぼ全例が死亡する。FIPの発症機序の多くは不明であり、診断および治療は困難である。そこで、本研究ではウイルスゲノムの変異とウイルスの病原性の関連を立証することにより、FIPの診断法および治療法、さらにワクチン開発につなげるためのウイルスの組織培養法を確立する。
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研究実績の概要 |
猫伝染性腹膜炎は猫コロナウイルスによって生じる猫の致死的感染症である。治療には一部の核酸アナログが有効と報告されているが、高価であること、ウイルス株ごとの有効性の高低や、薬剤に耐性を持つウイルスの出現の有無についてはほとんど報告されていない。また、核酸アナログ以外の抗猫コロナウイルス薬は報告されていない。そこで、本研究において抗ウイルス薬の探索を進めており、成果が出始めている。 まず、細胞を融合させる活性を持つ血清型Ⅱ型の猫コロナウイルスのスパイクタンパク質を培養細胞株に発現させ、細胞の融合をルシフェラーゼ活性に変換して定量的に評価可能なプラスミドベクターおよび実験手法を確立することができた。スパイクおよびルシフェラーゼ発現ベクターを導入済みの細胞株を作製・凍結し、共同研究先の理化学研究所(理研)に送付している。理研においては真菌由来の天然化合物ライブラリーを使用し、スパイクによる細胞融合を抑制する化合物の探索を行っている。ルシフェラーゼ活性の上昇を阻害する化合物は、スパイクタンパク質の細胞融合活性を含む機能を何らかの機序で阻害している。この研究によりすでに第一段階のスクリーニングを終了しており、近日中に第二段階のスクリーニングを実施する予定である。今後のスクリーニングによってさらに化合物を絞り込んだのちに、候補化合物の存在下で実際に猫コロナウイルスを細胞株へ感染させ、ウイルス感染を阻害することを確認する。これまでの実験から、スパイクタンパク質の細胞融合活性を大きく変化させる改変方法も見出しており、今後の実験に活用できる。 以上の研究から想定している業績は、1)血清型Ⅱ型の猫コロナウイルスの感染を阻害する化合物の開発、2)細胞融合をルシフェラーゼ活性に変換して定量化する手法の開発、3)スパイクの細胞融合活性の強弱を規定するスパイクアミノ酸配列およびタンパク質構造の解明である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究で挙げている目標は、1)逆遺伝学的手法を活用した猫コロナウイルスの性状解析、2)血清型Ⅰ型の猫コロナウイルスの受容体分子の同定、3)猫コロナウイルスの感染阻害薬開発に大別される。このうち、3)の感染阻害薬開発は理研との共同研究により、すでに血清型Ⅱ型のスパイクタンパク質の機能を阻害する化合物を数百個に絞り込めている。次年度中にその1/10程度の種類まで絞り込み、ウイルスの培養細胞への感染実験も行って候補化合物を選定する予定である。 1)の逆遺伝学による猫コロナウイルスの解析は、PCRを応用したCPERと呼ばれる簡易的な方法により実施している。現在はまだ細胞への感染性を持つウイルス粒子の作製には至っていないが、少なくとも細胞内で一部のウイルスタンパク質が発現していることは確認できている。ウイルスタンパク質およびゲノム構造を調整することにより、近日中にウイルス粒子の作製が成功すると考えている。また、緑色蛍光タンパク質や、ルシフェラーゼタンパク質の遺伝子をゲノムに組込んだ猫コロナウイルスを作製するための、文部科学大臣による大臣確認は既に承認されているため、遺伝子組換え型の猫コロナウイルスの感染性や増殖性を、ルシフェラーゼなどのタンパク質により解析できる見込みである。 2)の血清型Ⅰ型の猫コロナウイルスが細胞に感染するための受容体遺伝子の同定は、猫のcDNAライブラリーの構築が必要であるが、現在はcDNAライブラリー作製キットを使用して作製中である。本実験のために、猫の遺伝子を細胞に発現させるための組換えレトロウイルス作製用のプラスミドベクターを構築した。本ベクターにcDNAを挿入する段階が容易でないため、現在は挿入条件の検討中であるが、近日中に終了予定である。
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今後の研究の推進方策 |
猫コロナウイルスの感染阻害薬の開発は血清型Ⅱ型のウイルスから実施しているが、臨床現場で最も問題となっている血清型Ⅰ型のウイルスの受容体が同定できれば、Ⅰ型についても阻害薬を探索する。Ⅰ型ウイルスの阻害薬を開発できれば非常に大きなインパクトを持たせることができる。 逆遺伝学による猫コロナウイルスの作製は、本研究の最も重要な研究項目である猫腸コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎ウイルスのウイルス性状の差異の解析に必須である。CPER法に加えて、プラスミドにウイルスの全ゲノムを挿入し、細胞に導入してウイルスを産生させる手法も実施する。ウイルス全ゲノムを発現するプラスミドを構築できれば、塩基配列の差異と産生されるウイルス量の関係を比較することが容易となる。 Ⅰ型の猫コロナウイルスは安定的にウイルスを感染および増殖させることができる培養細胞が無く、in vitroの実験がほとんどできない。本研究により受容体の同定に成功すれば、培養細胞で受容体を発現させることにより、ウイルスを感染・増殖させる実験を実施できる。主に腸管で増殖するとされているⅠ型の猫腸コロナウイルスは、スパイク遺伝子などに変異が生じると病原性が増し、猫伝染性腹膜炎ウイルスに変化すると考えられている。しかし、変異と病原性の関係はウイルスを培養細胞で実験して解析することができないため、ほとんど明らかになっていない。本研究で受容体を同定し、それにより細胞を使用した実験を進められるようになれば、猫伝染性腹膜炎の遺伝学的確定診断にも有用である。Ⅰ型猫コロナウイルスのスパイクタンパク質は、ヒトを含む他の動物のコロナウイルスとアミノ酸配列が大きく異なるため、受容体分子も他のコロナウイルスと異なると推定している。受容体の同定はコロナウイルスの進化の過程を解明することにもつながり、コロナウイルスのパンデミックの可能性を調べるうえで有用な情報である。
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