研究課題/領域番号 |
23K05581
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42020:獣医学関連
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
前田 秋彦 京都産業大学, 生命科学部, 教授 (70333359)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | トゴトウイルス / 病原性 / マウス馴化 / 細胞融合アッセイ / Mini-genomeアッセイ / インターフェロン レポーター アッセイ / マダニ媒介性感染症 / 馴化 / メカニズム |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトの感染症の多くは動物に由来する。野生の動物が保有する病原体が、ヒトや他の動物にスピルオーバーするメカニズムは不明な点が多い。本研究では、京都市で捕獲したマダニから分離したトゴトウイルス(THOV)のマウスへの病原性の獲得メカニズムを解明する。THOV野生株(WT-THOV)はマウスに顕著な病原性を示さない。一方、マウスへの馴化株(MA-THOV)は、マウスに重篤な病態を形成し斃死させる。それでは、どのようなメカニズムでMA-THOVはマウスに病原性を示すのか?本研究では、WT-とMA-THOVのアミノ酸配列の相異と当該蛋白質の機能を比較解析し、マウスへの病原性獲得メカニズムを解明する。
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研究実績の概要 |
トゴトウイルス(THOV)はオルソミキソウイルスに属し、動物やヒトへ感染すると熱性疾患を引き起こす。ヤギなどの家畜の妊娠動物が感染した場合、流産を起こすことが報告されている。2013年に京都市で捕集したフタトゲチマダニから分離したTHOV Hl-Kamigamo-25株(WT-THOV)は、実験用マウスへ感染させても病原性を示さなかった。一方、WT-THOVをマウスで20回継代して得たマウス馴化株(MA-THOV)は、マウスに致死性の感染を引き起こした。本研究では、WT-とMA-THOVの遺伝子上の違いが、MA-THOVのマウスへの病原性に如何に関与しているのかについて検討している。クローン化したMA-THOVにおいても、クローン化前の親ウイルスと同様に、①宿主動物細胞への結合(吸着)に関与するウイルス膜タンパク質のGPに2箇所、②ウイルスRNA依存RNA合成酵素複合体を構成するタンパク質の1種であるPB2に1箇所、③インターフェロンのアンタゴニストであるMLに1箇所のアミノ酸の違いが見出された。次に、各タンパク質の機能を評価する方法を開発した。THOVの感染では、細胞の膜上に存在する未知のウイルス受容体に結合し、エンドサイトーシスにより小胞内に取り込まれ、細胞質に侵入する。その後、小胞内pHの減少に伴い、ウイルス膜と細胞膜の融合が起こり、ウイルスのゲノムRNAが細胞内に放出(脱殻)される。この感染初期の過程には、GPが関与している。そこで、①ウイルスの細胞への吸着から脱殻の過程を評価する細胞融合アッセイ法を開発した。また、②PB2のウイルスRNA合成能を評価するTHOVのMini-genomeアッセイを確立した。さらに、③MLのインターフェロン合成阻害効果を評価するため、ルシフェラーゼを発現レポーターとするインターフェロンのレポーターアッセイを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(令和5年度)の研究計画では、WT-とMA-THOVをクローン化し、クローンウイルスの遺伝子やアミノ酸の違いを解析するとともに、THOVのマウスへの馴化のメカニズムを解析する手法を開発することを目指した。その具体的な成果は、以下に示す通りである。まず、各ウイルスに関してクローン化し、それらの遺伝子配列解析の結果、クローンウイルスにおいても親ウイルスの遺伝子の相異が維持されていることを明らかとなった。また、クローン化したウイルスにおいてもマウスへの病原性の違いは維持されていた。そこで、GP、PB2およびMLにおける両ウイルスのアミノ酸相異が、THOVのマウスへの馴化に関与していることが示唆された。次に、これらのタンパク質の機能解析方法(それぞれ、細胞融合アッセイ、Mini-genomeアッセイおよびインターフェロン レポーター アッセイ)についても、本年度中に概ね開発することができ、期待以上の成果が得られた。一方、これらの開発した評価方法を用いて、両ウイルスの当該タンパク質の機能を比較解析したかったが、来年度への継続研究となってしまった。以上のことから、現在までの進捗状況を「区分:(2)おおむね順調に進展している。」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に開発したTHOVの3種類のタンパク質、GP、PB2およびMLの機能評価方法を用いて、WT-とMA-THOVのそれぞれのタンパク質の機能を比較解析する。まず、両ウイルスのGP、PB2およびML遺伝子をそれぞれ発現ベクターpCAG GSに導入し、哺乳動物細胞での高発現系を開発する。次に、GPについては細胞融合アッセイ、PB2についてはMini-genomeアッセイ、そしてMLについてはインターフェロン レポーター アッセイにより各タンパク質の機能を比較して、MA-THOVにおけるマウス馴化の責任遺伝子を同定する。さらに、個別のアッセイにより同定した責任遺伝子が、実際のウイルス感染においてもマウスへの馴化(病原性の獲得)に関与することを示す必要がある。そこで、THOVのリバースジェネティクス法を開発し、当該タンパク質の相異を個別に持つ組換えウイルスを作製して、各ウイルスについて病原学的解析を行う。もし、組換えウイルスの作製が困難であった場合、THOVの遺伝子再集合により、WT-とMA-THOVの分節混合について検討する。また、本年度の成果も含め、次年度以降の研究で得られる成果については、適時、関連学会に報告するとともに、関連ジャーナルに投稿する。
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