研究課題/領域番号 |
23K05591
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42030:動物生命科学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
万谷 洋平 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (30724984)
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研究分担者 |
杉尾 翔太 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (30825344)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 腸管神経系 / 三次元イメージング / 電子顕微鏡 / 組織学 / 発生 / 腸内細菌 / 腸管 / 粘膜下神経節 |
研究開始時の研究の概要 |
これまで代表者は,腸管粘膜内神経が投射する細胞の網羅的同定に成功し,腸管神経系(ENS) には新たな粘膜内機能が多数存在する可能性を見出した。しかしながら粘膜内ENS の新たな機能解明には,粘膜内神経線維の多くが由来する「粘膜下神経節(SMG :submucosal ganglia)」のより詳細な理解が必要になる。そこで本研究では,種々の三次元イメージング技術を駆使することにより,SMG とその神経ネットワークはいつ,どのように形成されるのかを明らかにする。
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研究実績の概要 |
これまで代表者は,腸管粘膜内神経が投射する細胞の同定を進め,腸管神経系(ENS) には新たな粘膜内機能が多数存在する可能性を見出してきた。しかしながら粘膜内ENS の機能解明には,粘膜内神経線維の多くが由来する「粘膜下神経節(SMG)」のより詳細な発生メカニズムの解明が不可欠である。そこで本研究では,SMG とその神経ネットワークはいつ,どのように形成されるのかを明らかにすることを目的としている。 今年度は,とくに腸管の粘膜下神経節(SMG)の形成過程について,以下の成果を得た。 1) ラットの回腸において,各種神経細胞マーカー(HuD,Tuj1など)に対する粘膜下組織における神経細胞およびSMGの密度は出生直後には非常に小さく,2週齢で急増したのち,4週齢で2週齢に比べて低値を取ることが示された。 2) さらに興味深いことに,生後0日齢と2週齢において,粘膜下神経細胞とSMGは腸間膜の付着する側(腸間膜側)において反対側(対腸間膜側)よりも豊富に存在することも示された。一方,4週齢では偏りが解消する,あるいは逆転する個体が認められ,両側に有意な差は認められなかった。これと連動して,粘膜固有層におけるTuj1陽性面積割合は2週齢の腸間膜側で対腸間膜側よりも有意に高いことも示された。一方,グリア細胞と腸管神経系の前駆細胞で発現するSox10陽性細胞数は,腸間膜側と対腸間膜側の間で有意な差を示さないこともわかった。 以上のとおり,出生後において,ラット回腸における粘膜下神経細胞への分化,粘膜下神経節・粘膜内神経ネットワークの形成は全周で均一に起こるのではなく,腸間膜側優位に進行する可能性が示された(第166回日本獣医学会で公表済み)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,ラットの小腸におけるSMGの時空間的形成過程について,一定の成果を上げることができた。この成果は今年度学会公表済みであり,次年度に学術誌に投稿予定である。また,今年度はさらに,SMG形成過程をより詳細に明らかにするために,生後各週齢の小腸粘膜下組織のserial block-face走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)による解析にも着手した。来年度も追加で解析を進める必要があるが,すでに明瞭な神経系の発生過程をとらえることができており,今後の見通しは良好である。 さらに今年度は,小腸に加えて,大腸各部位におけるSMG形成過程についても組織学的に調べることができた。まだ十分な解析例数には達していないものの,大腸SMGでは小腸とは全く異なる非常に興味深い形成過程を経ることも示された。これについては,解析例数を充足したのち,来年度以降に学術集会で公表することを予定している。 加えて,SMG形成メカニズムに関わる各種遺伝子の役割を明らかにするための技術確立のため,マウスへのアデノ随伴ウイルスベクターの感染効率の検証,ニワトリ胚を用いたゲノム編集の実験系の確立にも取り組んだ。これらの実験系ではまだ明確な実績は出ていないが,SMG形成メカニズムの探究に重要な技術であるため,来年度も引き続き技術改良に取り組む予定である。 以上の通り,今年度は順調に成果の公表を進めることができるとともに,来年度に公表する目処の立っている成果をあげることができていることから,順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は,上記の成果を順次学術雑誌や学術集会で公表するとともに,腸管SMGの形成過程および形成メカニズムについて,以下の観点から解析を進める予定である。 1) これまでの解析から,小腸では,腸間膜側で優先的なSMG形成が起こることが示された。このことは,SMG形成メカニズムを解析する上で,非常に重要な知見であるため,二光子励起顕微鏡などを用いた三次元解析により,より詳細に解析予定である。また,RNAseqやin situ hybridization法などによって,腸間膜側の粘膜下組織で高発現する遺伝子の探索にも取り組む。加えて,SBF-SEMなどを駆使しながら,小腸でみられるSMGの時空間的な形成がどのような微小環境によって制御されているのかを詳細に明らかにする。 2) 大腸各部位におけるSMGおよび粘膜内神経ネットワークの形成過程について,解析例数を充足しつつ,時空間的に詳細に明らかにする。 3) SMG形成に関わる各種候補遺伝子の役割解明に資する技術確立を進める。 4) 腸内細菌とSMG形成との関連性を解明するため,細菌の定着時期とSMG形成過程の関連を調べる。また,抗生物質投与の実験系により,細菌定着を抑制したマウスないしラットのSMGと,対照動物のSMGを比較することで,腸内細菌がSMG形成に果たす役割を明らかにする。
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