研究課題
基盤研究(C)
自然免疫を担う好中球やマクロファージの活性酸素産生能が欠如した遺伝子欠損マウスは、病原体感染に易感染性を示し重篤な炎症を発症して多くが死亡する。ところが、この欠損マウスは、死菌や菌体成分に曝されただけでも生菌感染と類似した重篤な炎症を発症する。このような、白血球からの活性酸素産生異常によって感染非依存的な過剰炎症が生じるメカニズムと、その異常が血球動態へ与える影響を解析する。
自然免疫系を担う好中球やマクロファージは、体内に感染した病原体を認識して活性化すると、食細胞NADPHオキシダーゼ(NOX2)によって酸素からスーパーオキシドを産生し、続いて過酸化水素へと代謝される。さらにその過酸化水素からは、好中球だけが保有しているミエロペルオキシダーゼ(MPO)によって、次亜塩素酸という活性酸素も作られる。このようにして産生された活性酸素によって、好中球やマクロファージは生体内に感染した病原体の殺菌を営んでいる。NOX2が欠損しているマウスに菌体成分を投与して人為的に肺炎を起こすと、その肺炎が野生型マウスよりも重篤化するだけでなく、血中リンパ球数の割合が有意に低下するという、獲得免疫系の異常を示唆する病態も併発することをすでに報告した。この成果を踏まえて、令和5年度は、NOX2マウスが発症する病態のメカニズム解析を実施するとともに、MPOにも着目し、この酵素の欠損という自然免疫異常は感染非依存的な炎症性疾患の一因なのか? というサブテーマと、MPOの欠損は血球動態にも影響を及ぼすのか? というサブテーマの究明にも従事した。その結果、MPO欠損による活性酸素産生異常マウスが菌体成分に曝されると、肺炎が野生型マウスよりも重篤化するだけでなく、血中好中球数が野生型マウスよりも有意に増加し、逆に赤血球数が顕著に減少して貧血に陥るという驚くべき病態を発症することを発見した。これらの成果は、NOX2やMPOの欠損によって骨髄における血球分化異常が生じている可能性を示唆しているから興味深い。
2: おおむね順調に進展している
おおむね当初の計画どおりの順調な進捗状況であり、国内外での学会で成果発表を行い、学術論文としても纏まりつつある。
令和5年度に得られた研究成果をさらに継続発展させて、MPO欠損という自然免疫異常に起因する過剰炎症反応のメカニズムの細胞生物学的な解析と、その異常に起因する好中球増多と赤血球減少の機構解明を、当初立案した令和6年度および7年度の研究計画に沿って進める。
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Kidney Int.
巻: - 号: 6 ページ: 1291-1305
10.1016/j.kint.2024.03.010