研究課題/領域番号 |
23K05622
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分42040:実験動物学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
持田 慶司 国立研究開発法人理化学研究所, バイオリソース研究センター, 特別嘱託技師 (60312287)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 卵巣移植 / 野生由来マウス / 高齢マウス / 系統保存 / 凍結保存 |
研究開始時の研究の概要 |
加齢マウスの卵巣を若いマウスに移植すると産子数が増加すると報告されている。この卵巣置換がドナー個体の欠点を補う点に注目し、過排卵が効かない、受精しない、胚が発生しない、着床から産子発生が困難な場合等に、ホストの身体を利用した繁殖成績の改善が期待できる。 本課題では、(1)亜種・異種・加齢マウスの卵巣移植を行い、実験用マウス体内で過排卵を実現させる、(2)異種の体内で人工授精による受精卵作出および産子発生を実現させる、そして最終的には(3)凍結保存した卵巣および精子を用いて産子獲得を行う。
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研究実績の概要 |
本研究は卵巣組織の未熟な卵胞を最大限に利用してマウス生体を作出することを目的として、(1)卵巣移植による基本的成績の検討、(2)亜種系統、(3)加齢マウス、(4)異種マウスとの卵巣移植成績の検討、(5)凍結卵巣移植と人工授精による産子作出を進める。まず(1)卵巣移植成績の検討として、C57BL/6(以下B6)-GFP系統の卵巣を摘出し、卵巣をおおよそ除去したB6系統の卵巣嚢の中に移植を行った。その後、B6雄と交配させたところ(N=6)、1産目の平均産子数5.5匹のうち移植卵巣由来(GFP+)の子は3.3匹(全体の産子数の61%)、2産目は3.8匹のうち2.8匹(74%)、3産目は4.6匹のうち2.8匹(61%)であり、安定して卵巣移植由来の子供が生まれてくることが確認できた。次に(2)亜種系統との卵巣移植として、亜種であるJF1系統(M. m. molosinus、有色)の卵巣を予備試験的にNOD/scid系統の雌(M. m. domesticus、アルビノ)へ移植してICR系統(同、アルビノ)の雄と交配させたところ、移植卵巣由来の産子(有色の仔)の作出に成功した。更に(4)異種系統との卵巣移植として、異種であるSPR2系統(M. spretus、有色)の卵巣を同様にNOD/scid雌へ移植してICR雄と交配させたところ、異種卵巣由来の産子(有色の仔)の作出にも成功した。亜種および異種マウスの卵巣移植の実施例は報告されておらず、亜種や異種の卵巣から排卵された卵子が受精してF1を出産できた初めての例となる。(5)凍結卵巣移植の検討の前に、まず未受精卵子でガラス化保存を行ったところ、比較的低濃度のエチレングリコールとDMSOを加えたフィコール(高分子)とショ糖溶液を用いた保存液で安定して生存卵子の回収が可能であった。現在、卵巣にも応用可能かどうか調査を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず卵巣移植のホストとして免疫不全マウスであるNOD/scid系統にレンチウイルスを用いてneon-GFP遺伝子を導入し、NOD/scid-GFPマウスの作出を試みた。しかしGFPの蛍光発色が弱かったことから、NOD/scid雌マウスを用いてC57BL/6(以下B6)-GFP雄マウスとの交配によるGFP発色を指標としたコンジェニック化を進めた。現在はN4世代が得られ、2024年5月中にホモの雄と雌を用いて体外受精・胚移植を行ってホモ個体を増やす計画である。このNOD/scid-GFPマウスの作出に予定外に1年半が掛かってしまったが、その間に前述のようにB6系統へのB6-GFP系統の卵巣移植を行い、(1)基本的成績の検討を進めることができた。 (2)と(4)の亜種および異種系統との卵巣移植についても前述のように予備実験で成功することが出来て順調に進んでいると考えている。 (3)の加齢マウスとの卵巣移植はNOD/scid-GFPマウスの作出に時間が掛かったことから未着手である。その代わりに2024~2025年に実験を予定していた(5)の卵巣凍結および人工授精は前倒しで予備実験を進めた。まず未受精卵子に最適な凍結条件を検討したところ、耐凍剤の体積が小さく冷却速度の速いクライオトップと、体積が大きく冷却速度の遅いクライオチューブ、その中間の体積と速度であるストローを用いて、安定してガラス化保存が可能なそれぞれの保存方法を見つけることが出来た。また、人工授精の検討も複数の系統および凍結精子を用いて予備実験を進めてきた。凍結-融解後も精子の活性の高い系統では、排卵した雌の卵管内へ凍結-融解した精子を注入することで受精卵および産子を獲得できた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)基本的成績の検討については、前述のB6系統へのB6-GFP卵巣の移植成績と、5月以降に使用が可能となるNOD/scid-GFP系統へB6系統の卵巣を移植して成績の比較を行い、ドナーとホストの系統の影響について検討を行う。更に卵巣移植した雌に、産子数増加に効果のある抗インヒビンモノクローナル抗体を投与して雄と交配させることで、移植した卵巣由来の産子数が増加するか否かを検証する。 (2)と(4)の亜種および異種系統との卵巣移植についてもNOD/scid系統では成功したので、NOD/scid-GFPマウスへ卵巣移植を行い、亜種または異種雄との交配もしくは人工授精によって亜種および異種系統自体の産子の作出を目指す。また、JF1およびSPR2系統のように一般的な過排卵法では多く排卵されないケースでも、過排卵の効果的なホスト(B6やNOD/scid-GFP)マウスに卵巣を移植して過排卵試験を行い、卵巣の効果的利用が可能かどうかを検証する。 (3)の加齢マウスとの卵巣移植は初年度に着手できなかったことから、NOD/scid-GFPマウスが準備でき次第、10ヶ月齢の加齢マウスを購入して卵巣移植実験を開始する。(1)の成績がコントロールデータとなるので加齢の影響について比較して検証を行う。 (5)凍結卵巣移植と人工授精による産子作出についてもそれぞれ検討を進める。具体的には、未受精卵子を用いた予備試験で成績の良かったエチレングリコールとDMSOの2つの耐糖剤の入った保存液を用いて、実際に卵巣を凍結-融解して移植を行い、雄と交配させて産子への発生を検証する。その後、人工授精により新鮮または凍結精子を用いて産子作出を目指し、究極的な凍結保存技術の開発を進める。
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