研究課題/領域番号 |
23K05664
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43020:構造生物化学関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永田 崇 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (10415250)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
|
キーワード | HIV-1 / Vif / RNAアプタマー / NMR / 構造 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、Vif複合体に対するRNAアプタマーとVif複合体の相互作用様式を立体構造及び分子運動の観点から明らかにする。また、宿主の抗ウィルス性タンパク質が、Vifによりプロテアソーム分解に導かれる機構を、RNAアプタマーで阻害するための条件を検討し、最適化する。さらに、我々が最近確立しつつある、RNAアプタマーへの構造柔軟性付与法を適用し、RNAアプタマーの機能高度化の指針も得る。
|
研究実績の概要 |
HIV-1の細胞感染には、HIV-1アクセサリータンパク質Vifが必要である。Vifは、細胞内でE3ユビキチンリガーゼをハイジャックし、ヒトの抗HIVタンパク質をプロテアソームにより分解する。Vifの不活化は魅力的な治療戦略である。我々は、Vifが形成するVif複合体に解離定数がnMレベルで強く結合するRNAアプタマーの取得に成功した。本研究では、RNAアプタマーとVif複合体の相互作用様式を立体構造及び分子運動の観点から明らかにする。同時に、Vifによりヒトの抗HIVタンパク質が分解に至る経路を、RNAアプタマーで阻害するための条件を培養細胞とその破砕液の系で検討する。また、我々が最近得た構造柔軟性付与法を適用し、RNAアプタマーの機能高度化の指針も得る。 今年度は、Vifの新しい機能として、Vif複合体が、標的であるヒト抗HIVタンパク質APOBEC3G(A3G)をプロテアソーム分解とは異なる方法で無力化する分子機構について明らかにした[Biophys. J., 2024]。VifはこれまでA3GのN端ドメインに結合することが知られていた。我々は、Vifが脱アミノ化活性をもつA3G C端ドメインとも相互作用し、この相互作用によりA3G C端ドメインの脱アミノ化活性を阻害することを見出した。この発見は、VifによるA3Gの無力化を防ぐためには、A3Gの両ドメインとの相互作用を食い止めることが必要であることを示唆した。 一方、Vif複合体によるA3Gの脱アミノ化活性阻害を、我々が取得したRNAアプタマーが解除できることを確認した。また、我々が取得したRNAアプタマーのうち、性能の良い2つのRNAアプタマーの小型化を行った。その結果、サイズが80残基から30残基程度のものを得ることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HIV-1のVifは、細胞内でE3ユビキチンリガーゼをハイジャックし、ヒトの抗HIVタンパク質APOBEC3G(A3G)をプロテアソームにより分解する。これがVifによるA3Gの不活化の主たる経路である。我々は、新しい経路として、Vif複合体が、A3Gの脱アミノ化活性を阻害することを見出した。この経路は、プロテアソーム分解とは独立している。この経路の分子機構を理解するためにVif複合体、A3G、A3Gの標的配列を持つ一本鎖DNA(ssDNA)の間の相互作用解析を行った。その結果、Vif複合体はA3GにもssDNAにも結合することがわかった。しかし、ssDNA濃度がVif複合体濃度よりも大過剰であっても、A3Gの脱アミノ化反応が阻害されたことから、Vif複合体とA3Gの直接的な結合が、この経路の起動力であることが示された。一方、Vif複合体とA3Gとの結合は、主にA3GのN端ドメインを介して生じると考えられてきたが、今回、我々は、A3GのC端ドメインもVif複合体と弱いながらも相互作用することを見出した。この成果は、Biophys. J. に掲載された。 一方、我々が見出した上記の新しい経路に対して、我々が既に取得しているRNAアプタマーの効果を調べた。その結果、RNAアプタマーを加えると、Vif複合体によって阻害されたA3Gの脱アミノ化活性が、復活することが見出された。我々が取得したRNAアプタマーはサイズが80残基程度で大きいため、小型化を目指して断片化し、それぞれについて親和性を調べた。その結果、オリジナルのサイズと同程度の親和性を有する30残基程度のRNAアプタマーを得ることに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
RNAアプタマーのNMR解析を行う。RNAアプタマーの立体構造決定は常法に従って行い、NMR距離情報を加えたMD計算によりエネルギー最小化まで行う。塩基のフリップアウト等の局所的な運動性や、それにカップルした主鎖の大きな運動性を塩基対の開閉速度とイミノ1H-水1H交換速度で評価する。配列が異なるRNAアプタマーは、結合機構が異なる可能性がある。立体構造と運動性を比較することで、特異的かつ高親和性でVif複合体を捕獲する原動力を明らかにする。得られたRNAアプタマーの立体構造と運動性の情報に基づいてループとバルジに構造柔軟性を付与する。Vif複合体との結合をBIACOREで評価した後、親和性が上がったものについてはITCで熱力学的パラメータを得る。さらに、上記と同様な立体構造と運動性の解析及び考察を行う。最も優れた結合特性をもつRNAアプタマーをさらなる開発対象とする。
|