研究課題/領域番号 |
23K05691
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43030:機能生物化学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊藤 寿 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (50596608)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | クロロフィル分解 / Mg脱離酵素 / 酵素反応機構 / クロロフィル / 酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
植物の光合成に使われるクロロフィルは地球上でもっとも量の多い色素で、毎年約1億トン合成され分解されると考えられています。しかし、クロロフィルを分解するマグネシウム脱離酵素(クロロフィルの中心金属のマグネシウムを外す酵素)がどのようにしてマグネシウムを外しているかわかっていません。本研究では、この酵素の触媒機構の解明を目指します。有機物から金属を外すという新規性の高い触媒機構が明らかになると期待されます。
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研究実績の概要 |
植物の光合成に使われるクロロフィルは地球上でもっとも量の多い色素であり、1年に約1億トン合成され分解されている。これだけ顕著な反応にもかかわらずクロロフィルの分解を律速するマグネシウム(Mg)脱離酵素(クロロフィルの中心金属のMgを外す)の触媒機構は分かっていない。類似した反応がないためである。つまり、有機物から金属を外すという酵素反応はまれなものであり、その触媒機構の解明は重要な意義を持つ。そうした中、我々は最近Mg脱離酵素の構造決定に成功した。これにより、触媒機構の解明を現実的な課題として設定できる段階になった。本研究の目的は(1)側鎖を修飾した様々なクロロフィルに対する活性、(2)活性部位のアミノ酸置換体の解析、(3)酵素と基質の共結晶化、を検討することによりMg脱離酵素の触媒機構を解明することである。酵素の触媒機構の解明は生物学において常に基本的で重要な課題である。本研究は、有機物から金属を外すという新規性の高い酵素の触媒機構を明らかにすることを目標としている。 今年度は、側鎖を修飾した様々なクロロフィルの類縁体を作製し、それらに対する活性の測定を中心に研究を進めた。その結果、金属に配位している窒素をまずプロトンが攻撃し、窒素と中心金属の配位結合が切れ、その結果中心金属が外れることが示唆された。合わせて酵素と基質の結晶化も進めた。この共結晶化の検討においても、クロロフィルの側鎖や中心金属を改変したものを作製し利用した。活性部位のアミノ酸置換体の解析については、変異体の作成を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的な課題はクロロフィルからMgを外す酵素反応の触媒機構の解明である。これまでに中心金属を置換した基質を利用して、天然型のMgは外れるが、その金属を有機化学的にZnに置換した場合、そのZnを外すことができないことが明らかになっていた。これは例えばEDTAに対するキレート安定度定数と一致し、Mgに対してZnのほうが配位結合が強いため脱金属されなかったと思われる。本研究では、それに対して、側鎖に電気陰性度の大きい酸素を導入したり、側鎖に大きな残基を導入して基質特異性を検討した。 クロロフィルaはテトラピロール環のA環とB環に炭化水素鎖が側鎖として結合している。A環のエチル基の部分をフォルミル基に置換したところ、Mgの脱離が抑制された。また、ヒドロキシメチル基に置換したところMgの脱離が抑制されたが、その抑制はフォルミル基を導入した場合と比較すると顕著なものではなかった。この結果から、電子吸引性の側鎖を導入した場合、Mgに配位している窒素の電子密度が低下し、その結果プロトンが窒素を攻撃しづらくなるためMgの脱離が抑制されたことが示唆された。つまり、窒素がMg脱離反応の初期段階にかかわっていることが示唆された。 A環とB環に大きなスチリル基を導入したクロロフィル類似体を作成し、基質特異性を調べた。その結果、どちらの場合もMgの脱離が抑制されたが、B環にスチリル基を導入したほうが抑制効果が顕著であった。この結果は酵素の触媒部位の奥のほうにB環が入ることによってMg脱離反応が進んでいることを示唆している。スチリル基が電子供与性か、電子吸引性か、どちらの性質を持っているかについては本化合物については十分な検証ができず、窒素の電子密度の変化については検討課題である。
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今後の研究の推進方策 |
Mg脱離酵素の触媒機構の解明を目指して様々な基質を作製し、それに対する基質特異性を検証した。その結果、電子吸引性の大きな酸素を側鎖に導入し、窒素の電子密度を下げるとMgの脱離が起こりにくくなることが示された。このことはMgに配位している窒素をプロトンが攻撃することによりMgが外れることを示唆している。Mg脱離酵素のアミノ酸置換体の活性を測定した結果から、保存されている二つのアスパラギン酸をアスパラギンに置換すると活性が失われることがすでに明らかになっている。この結果を考え合わせると、アスパラギン酸の側鎖が酸として働き、プロトンを窒素に供与することにより反応が行われていると推測される。もう一つの触媒機構として、アスパラギン酸の側鎖がMgに配位して、Mgを外れやすくし、溶媒のプロトンが窒素を攻撃するという方法も想定される。保存されているアスパラギン酸のうち一つはタンパク質の表面近くにあり、生体内の条件では脱プロトン化されていると思われ、このことも二つ目の触媒機構を支持している。 R5年度の結果からは、MgではなくMgに配位している窒素のほうが反応の起点になることが示唆された。ただしプロトンの供給源がアミノ酸側鎖か溶媒かは不明である。酵素の反応機構の解明には酵素と基質の共結晶化が重要な情報を提供する。そこでMg脱離酵素の基質にならないZnの置換体を作成して共結晶化を進めている。クロロフィルは不安定なので、フィチル基をメチル基に置換し、メトキシカルボニル基を外したZn-methyl-pyropheophorbide-aを作成し、共結晶化を進める。これまでに結晶様のものが観察され、放射光を当てたが、回折像は得られていない。結晶が小さいか結晶性が悪いと予想される。構造解析のできる質の良い結晶の作製を目指す。合わせてアミノ酸置換体の様々な基質に対する酵素活性を検証し、反応機構の解明を目指す。
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