研究課題/領域番号 |
23K05719
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43040:生物物理学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
木下 祥尚 九州大学, 理学研究院, 助教 (40529517)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 脂質ラフト / 生体膜 / 膜タンパク質 / 蛍光相関分光法 / 共焦点顕微鏡 |
研究開始時の研究の概要 |
脂質ラフトはシグナルタンパク質をその内部に取り込むことで効率的なシグナル伝達を可能にする。しかし、タンパク質が流動的な膜領域から固いラフトへ侵入するためには膨大なエネルギーが必要となる。 一方、シグナルが活性化した細胞では飽和と不飽和炭素鎖の両方をもつハイブリッド脂質が増加する。また、ハイブリッド脂質は柔軟な不飽和鎖をタンパク質表面に向けて周囲を取り巻くように配列するので、ラフトに親和性を有する飽和鎖は外側を向く。この結合様式がタンパク質の取り込みを促進すると考えた。本研究では脂質の挙動を再現するプローブを用いて、ハイブリット脂質がタンパク質の取り込みに及ぼす影響を調査する。
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研究実績の概要 |
生体膜に存在する脂質ラフトにはスフィンゴミエリンやコレステロールなど、特定の脂質が集合して形成する固い膜領域である。この特異な膜物性ゆえ脂質ラフトにはシグナル分子やその受容体が取り込まれ、効率的な会合が可能になる。しかし、そのような巨大なタンパク質が流動的な膜領域から固い脂質ラフトへ侵入するためには、膨大なエネルギーが必要となる。いかにして、タンパク質はラフト/非ラフト相境界に形成されるバリアを打ち破るのか?いくつかの先行研究では、不飽和炭素鎖と飽和炭素鎖の両方を有するハイブリッドリン脂質(HPL)が膜タンパク質の取り込みを補助することが示唆されている。具体的には、凹凸の多いタンパク質表面に不飽和鎖を向ける様式で、HPLがタンパク質の周囲を取り巻く。すると、立体障害の小さい飽和炭素鎖は外側を向く。このようなHPLの特異な配向により、固い脂質ラフトに対するタンパク質の取り込みが促進される。これはシャペロン仮説と呼ばれ、ラフトに対するタンパク質の取り込みの機序を示唆する有力な仮説である。本研究ではこれまで計算科学で示唆されてきたシャペロンモデルを実験的手法で検証する。 その基盤として、本年度は仮説の検証に利用するハイブリットリン脂質の蛍光標識化や、脂質ラフトの可視化を指向したスフィンゴ脂質の蛍光標識化を行った。さらに、微小な脂質ラフトへのタンパク質の取り込みを高分解能で可視化するため、脂質膜の構造を維持したまま乾固する手法の開発を行った。今後はこれらの手法を用いて仮定の検証を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではハイブリッドリン脂質(HPL)と膜タンパク質の相互作用を蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)効率を指標に評価し、かつ、そのタンパク質/HPL複合体形成が脂質ラフトに対するタンパク質の取り込みを補助することを明らかにする。そこで、FRET測定に用いる蛍光標識化HPLや脂質ラフトを標識するための蛍光標識スフィンゴミエリン(SM)の合成を行った。ただし、脂質を蛍光標識すると元来の性質が失われることが知られており、実際、既存の蛍光標識SMは脂質ラフトから疎外される。そこで申請者らは独自開発した脂質の分布や挙動を高精度で再現するプローブの分子デザインを参考に、脂質の蛍光標識化を行した。また、ラフト様の秩序相と周囲の流動相が相分離した人工膜に蛍光標識SM(長鎖)を導入したところ、天然型と同様にラフト様の秩序相に分布することも確認した。 また本研究では、極めて微小(数十nm)かつ動的(寿命1s以下)な構造である脂質ラフトに対するタンパク質の取り込みを蛍光顕微鏡で可視化する。しかし、ラフトの動的性質故、超高分解能顕微鏡を用いても脂質ラフトを可視化することは困難である。この問題を解決するため、水中での構造を維持したまま細胞膜を固定する手法を開発した。ここでは予備実験として人工脂質膜を用いた。具体的には半固形の液体窒素を用いて脂質膜を急速凍結し、低温低圧力下で水を昇華させた。この過程を通じて脂質の動きは凍結されているため、水中の構造を維持したまま脂質膜を乾固することができるはずである。実際、放射光X線散乱により脂質膜の構造(脂質炭素鎖の充填構造)を調査したところ、乾固した試料は水中に懸濁した脂質膜試料とほぼ同じ散乱パターンを示すことが分かった。 一部、蛍光標識化が未完了の脂質が残されているが、研究はおおむね予定通りに進行している。
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今後の研究の推進方策 |
まず、顕微鏡を用いたFRET測定によりHPLがタンパク質と特異的に結合することを人工膜を用いた研究で明らかにする。ここでは模範的膜貫通タンパク質であり、人工膜への再構成も容易であるバクテリオロドプシン(bR)を用いる。bRの蛍光標識化はすでに完了している。また、ネガティブコントロールとして飽和炭素鎖のみを持つリン脂質や不飽和鎖だけを有するリン脂質を用いて、bRとの相互作用を評価する。そして、これら飽和リン脂質や不飽和リン脂質はbRと特異的に相互作用しないことを示す。さらに、ラフト様秩序相(Lo相)と周囲の流動的な膜領域が共存するラフトモデル膜にbRを組み込み、HPL存在下で、Lo相に対するbRの取り込みが促進することを観察する。ここで用いる人工膜では~10μmサイズのLo相が形成されるため、超高分解能顕微鏡は必要とせず、通常の共焦点顕微鏡を用いて観察できる。さらに、実際の細胞膜にHPLを導入し、それがGPCRなどの膜タンパク質との相互作用をFRET測定で評価する。そして、GPCRとHPLが複合体を形成することで、脂質ラフトへの取り込みが促進されることを実証する。生体膜系に形成される脂質ラフトは小さいので、GPCRのラフトへの取り込みは高分解能顕微鏡を用いて観察する。
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