研究課題/領域番号 |
23K05742
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分43060:システムゲノム科学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小田 真由美 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (80567511)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 細胞機能 / エピゲノム / クロマチン / 肝臓 / オルガノイド / 成体由来オルガノイド / 再生 / ヒト試験管内細胞モデル |
研究開始時の研究の概要 |
肝臓の実質細胞である肝細胞はこれまで、その高い再生能力にもかかわらず試験管内環境での増殖・維持が困難であった。申請者らは試験管内で増殖可能、かつ分化誘導によって肝臓遺伝子発現を再現可能な肝細胞培養法を用いて肝細胞の時空間的遺伝子発現の根幹となるエピゲノム状態を明らかにする。単離されたヒト成体肝細胞を始点とした成熟細胞アイデンティティの維持と再現に関わるエピゲノム構造を、クロマチン・アクセシビリティ情報と転写因子結合情報を組み合わせて解析することにより成熟と維持、増殖と代謝の遷移の動作原理を解明し、肝細胞の柔軟な特徴を保持した実用的な試験管内細胞モデルの構築を目指す。
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研究実績の概要 |
肝臓の実質細胞である肝細胞はこれまで、その高い再生能力にもかかわらず試験管内環境での増殖・維持が困難であった。申請者らは試験管内で増殖可能、かつ分化誘導によって肝臓遺伝子発現を再現可能な肝細胞培養法を樹立した。これまでの樹立方法では、培養によって肝細胞の機能が失われ、復旧されない状態になること、系統の近い胆管細胞によく似た遺伝子発現が見られることがわかっていた。我々の樹立した増殖肝細胞オルガノイド(eHHO)は、既存の2D培養法による増殖肝細胞に比較して胆管細胞特異的遺伝子の発現が低く、分化誘導時には成熟肝細胞により近い遺伝子発現状態の回復が可能である。このことから、より成熟肝細胞に近い状態を維持したまま増殖が可能な新しい細胞状態を確立した。
我々が樹立したeHHOを用いて、ATAC-seq法によるクロマチン・アクセシビリティ状態を調べた。成熟肝臓と胆管由来オルガノイド(ICO)との比較によりそれぞれのサンプルでの特異的オープン領域を抽出したところ、eHHOにはeHHO特異的オープン領域として出現していた。肝臓特異的なオープン領域はeHHOでクローズになっていたが、驚くことにICOよりもさらに厳密に閉じられていた。eHHOは分化誘導することによって成熟肝細胞に近い状態を再現できることから、eHHOの増殖状態は復旧可能なクロマチン状態によって肝臓特異的な領域が閉じられている状態であると考えられる。分化誘導を行うことによってeHHOは成熟肝細胞に同等の遺伝子発現および機能を得ることからeHHOでは回復可能なクロマチン状態を備えた増殖肝細胞である可能性があり、今後この可能性について検証を行なっていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々が樹立したeHHOを用いて、ATAC-seq法によるクロマチン・アクセシビリティ状態を調べた。成熟肝臓と胆管由来オルガノイド(ICO)との比較によりそれぞれのサンプルでの特異的オープン領域を抽出したところ、eHHOにはeHHO特異的オープン領域として出現していた。肝臓特異的なオープン領域はeHHOでクローズになっていたが、驚くことにICOよりもさらに厳密に閉じられていた。eHHOは分化誘導することによって成熟肝細胞に近い状態を再現できることから、eHHOの増殖状態は復旧可能なクロマチン状態によって肝臓特異的な領域が閉じられている状態であると考えられる。この領域を肝細胞機能関連領域として注目し、モチーフ解析を行った。その結果HNF4A結合領域を含む肝臓でのオープン領域が閉じていることがわかった。興味深いことに、ICOでオープンになっている領域もeHHOでは閉じられており、eHHOではオープン領域が限定されているということがわかった。これに関連して、eHHOの培養条件を変えることによって肝臓でのオープン領域がオープンになる条件を見出し、これが肝臓の機能回復と関連していることが推測された。eHHOにおける肝臓機能の維持に関連する要件が明らかになり、本研究の目的である柔軟な細胞機能に関する再現性の高い変換可能な細胞状態のモデルが得られたことにより、予想以上の研究の進展が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である柔軟な細胞機能に関する再現性の高い変換可能な細胞状態のモデルが得られたことにより、今後この系を用いてエピゲノム状態を調べる。HNF4Aなど肝臓特異的転写因子の配置が変化している可能性があるためChIP-seq解析によりHNF4A配置を、転写頻度の解析のためにRNAポリメラーゼ配置も併せて調べる。また、multiplexed, indexed T7 ChIP-seq(Mint-ChIP法)(van Galen et al. Mol Cell 2016)などを用いて転写活性およびエンハンサー活性に関連するヒストン修飾状態(H3K4me3, H3K27me3,H3K27me1)を調べる。
興味深いことにATAC-seqによるクロマチン・オープン領域のモチーフ解析によって肝臓でオープンになっている領域ににはHNF4Aが濃縮されており、それらの領域はHHOにおいて一旦閉じられる。分化誘導を行うことによってeHHOは成熟肝細胞に同等の遺伝子発現および機能を得ることからeHHOでは回復可能なクロマチン状態を備えた増殖肝細胞である可能性があり、今後この可能性について検証を行なっていく。発現調節可能なshRNA発現レンチウイルスを用いて競合転写因子を抑制することにより機能回復可能になるかどうかを検討する。候補として考えられる因子のshRNA実験によって仮説を検証し、結果が得られればこれをまとめてまとめて論文を作成し、海外学会での発表を行う。
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