研究課題/領域番号 |
23K05800
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
竹澤 大輔 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20281834)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 植物 / Rafキナーゼ / 水ストレス / アブシシン酸 / プロテインキナーゼ / プロテインホスファターゼ |
研究開始時の研究の概要 |
植物は土壌の水分変化を感知し、アブシシン酸やエチレンといった植物ホルモンを使って、遺伝子発現を調節し、日々変化する環境に適した成長を可能にしている。このような水環境応答の仕組みは種子植物だけでなく蘚類や苔類などのコケ植物にも存在し、陸上の植物に普遍的な機構が存在すると考えられる。本研究では、蘚類ヒメツリガネゴケの変異株や形質転換体を用いて、植物細胞が、環境の水分状況を感知して情報を核に伝え、遺伝子発現により環境耐性を獲得する過程において重要な役割を果たす「情報伝達因子」の解析を行い、植物に共通の環境適応のメカニズムを明らかにする。
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研究実績の概要 |
植物には水ストレスに応答して、アブシシン酸(ABA)の合成を促進して水損失を抑制したり、LEA関連遺伝子などを発現して細胞の傷害を防ぐ仕組みがある。グループB3-RAFプロテインキナーゼ(ARK)はABAにより活性化し、SnRK2をリン酸化してbZIPなどの転写因子の活性化に関わるがARKの活性化の仕組みについては不明である。本研究では、ヒメツリガネゴケARKのドメイン構造解析と、相互作用因子およびグループFPP2Cの機能解析を通して、水ストレスの基本的な調節機構を解明することを目的とした。 エラープローンPCRによる変異株のスクリーニングを行い、ARKのN末端領域の変異が細胞のABA応答を消失させることを明らかにした。この領域にはヒスチジンキナーゼETRが結合することが明らかにされており、ARKの変異がETRとの相互作用を変化させる可能性が示された。 ARKの相互作用因子としてEIN2様Nrampファミリータンパク質(PpEIN2)を同定した。PpEIN2はARKによりリン酸化されることがリコンビナントタンパク質とgamma32P-ATPを用いたキナーゼアッセイにより明らかとなった。このリン酸化部位をペプチドマッピングにより解析したところ、C末端領域の複数のセリン・スレオニン残基がARKによりリン酸化されることが明らかとなった。遺伝子欠損株ppein2は成長のABA応答が低下し、浸透圧ストレスに対して感受性を示した。また、浸透圧応答性遺伝子の発現が低下していた。加えて、インゲルキナーゼアッセイにより、SnRK2活性が著しく低下していることを示した。 グループFPP2Cについては、3重変異株を作出し、ABAやストレス応答の変化を調べたところ、わずかではあるが野生型株と比べストレス応答の上昇が観察された。これに加え、サブクラス1に属する5遺伝子のうち、4つを破壊した株を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エラープローンPCRによる変異株のスクリーニングでは、ARKのN末端領域に複数の変異を同定し、これらが細胞のABA応答を解析することができた。ETRが植物の水ストレス応答に必須であることはすでに明らかにされており、ARKのETRとの結合がストレス応答の制御に重要であることが改めて示唆された。ARKの相互作用因子の候補は多数同定されているが、EIN2様Nrampファミリータンパク質(PpEIN2)はその遺伝子破壊によりABAや浸透圧応答が著しく低下することから、ARK-ETRと協調的に働く因子であることが示唆された。加えて、大腸菌でタンパク質を安定に発現ささ、リン酸化部位をペプチドマッピングによりセリン・スレオニン残基を同定することができた。また、遺伝子欠損株ppein2の多面的な解析を行うことができた。特に、変異株においてSnRK2の活性が著しく変化していることは、下流の数多くの遺伝子が影響を受けていることを示す。グループFPP2Cについては、3重変異株の解析だけでなく過剰発現株についても解析を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、本研究を推進し、発展させるために、更なる変異株の単離と、シーケンス解析による変異箇所同定を進めていきたい。同定された変異箇所はノックイン実験などによる検証が必要であるが、それらについても順次進めていきたい。これまでARKと相互作用するタンパク質を多数同定してきたが、それら因子の遺伝子についてはゲノム編集による破壊と、変異株の詳細な解析が必須となる。ETRやPP2CFのように複数の遺伝子によりコードされている場合、解析には多重変異体の作成が必要となるが、複数の標的配列を設計するなどして着実に行いたい。リン酸化部位の解析では複数の候補箇所を同定することができたが、in vivoでこれが行われているかどうかはリン酸化プロテオミクスにより調べる必要がある。これについては複数の機関の共同研究者と連絡を取りながら進めているが、今後も引き続き情報交換を行いながら研究を推進していく予定である。
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