研究課題/領域番号 |
23K05808
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
富永 基樹 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50419892)
|
研究分担者 |
郷 達明 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (80511419)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 根冠成熟 / アクチン / ミオシン / 原形質流動 / 細胞内輸送 / ミオシンXI |
研究開始時の研究の概要 |
シロイヌナズナのゲノムにはミオシンXI遺伝子が13個存在するが,広範に発現する遺伝子の多重変異体のサイズが縮小するといった巨視的な表現型の記述が主であり,組織レベルの機能にリンクさせた知見は乏しい。申請者は根冠組織で特異的に発現する3つのミオシンXI遺伝子を見出し,それらの多重変異体が根冠細胞の剥離に異常を示すことを見出した。根冠は,重力感受,代謝産物の分泌,細胞剥離など,細胞内動態が発動する様々な高次機能を有している。申請者が蓄積した知見や研究材料を,根冠の機能発現の解析に応用することで,ミオシンXIの細胞内機能を組織レベルの高次機能へと結びつける研究にブレークスルーが期待される。
|
研究実績の概要 |
1,「水平光軸型動体トラッキング共焦点顕微鏡」によるタイムラプス観察:「水平光軸型動体トラッキング共焦点顕微鏡」により根冠ミオシンXI(XI-2, XI-B, XI-G)3KO株(xi -2, b, g)を解析した。その結果,根冠における細胞のターンオーバーが野生株と比べて早まっていることが明らかとなった。(奈良先端大,郷達明博士) 2,根冠細胞内運動の解析:GFP-XI-G およびGFP -XI-B発現株のイメージング解析を行った。その結果,両者が根冠最外層でそれぞれ少し異なる大きさや形態をもつ構造に局在し,活発に運動している様子が観察された。また,3KO株における最外層細胞内運動を,mito-trackerによるミトコンドリア染色により可視化し,定量的解析を行った。その結果,野生株に比べて3KO株ではミトコンドリアの運動が著しく低下することが明らかとなた。 3,ムシレージの放出:最外層細胞からのムシレージの放出は,根冠剥離に物理的に重要な役割を果たすと考えられている。ムシレージ放出や輸送過程における根冠ミオシンの役割を解析するために,コロイド溶液やPI染色によりムシレージの可視化を試みた。その結果,3KO株では,野生株に比べてムシレージの放出量が多く,さらに放出部位に異常が見られた。 4. 細胞サイズと液胞形態:最外層の細胞サイズを計測したところ,野生株に対して3KO株の細胞は,約1.5倍有意に減少することが明らかとなった。この結果は,根冠ミオシンが少なくとも根冠最外層の細胞サイズを決定する調節因子であることを示唆した。また細胞の成長に重要な役割を果たす液胞の形態を,MDY-64 染色によって観察した。その結果,3KO株では液胞の形態に異常が見られ,野生株と比較して有意に凹凸が多いことが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1,「水平光軸型動体トラッキング共焦点顕微鏡」を利用したタイムラプス観察:根冠における細胞のターンオーバーが野生株と比べて早まっていることが明らかとなった。根冠の成熟過程には正確な細胞のターンオーバーとその制御機構が不可欠であると考えられるが,細胞レベルでの制御因子はほとんど明らかとなっていなかった。根冠ターンオーバーを早める表現型をもつ変異株はこれまで報告されておらず,ミオシンが根冠成熟の制御因子の一つとして極めて重要かつユニークな役割を果たしていることを示す成果と考えられる。 2,根冠細胞内運動の解析:本結果から、根冠ミオシンが根冠細胞で細胞内輸送の駆動力として働くことが示された。根冠の成熟過程では,オルガネラのドラスティックなの配置転換や形態の変化を伴うことが知られている。それらの駆動力としてミオシンの運動性が重要な役割を担っていることが示唆された。また,1の結果を踏まえ,根冠ミオシンの駆動力が細胞内輸送を駆動しつつ,ホルモンなどの輸送を介し細胞間の情報伝達などを制御している可能性も示唆された。 3,4根冠最外層における細胞機能:根冠最外層の細胞に剥離時に,液胞の発達とムシレージの放出が重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。本実験において,3KO株においてムシレージの放出や液胞の形態に異常が見られたことから,ミオシンが細胞内のオルガネラの形態や細胞外への物質輸送の制御を担っていることが示唆された。また,最外層の細胞サイズの減少は,液胞の形態異常のみならず剥離周期が早まったことで細胞の成長が完了する前に根冠剥離が生じてしまう可能性も考えられた。 以上の結果より,根冠成熟過程におけるいくつかの重要な現象に,根冠ミオシンが関与している可能性が示唆されたことから,今後,根冠ミオシンを介した根冠成熟機構の細胞レベルでのメカニズムの解明が期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
1,「水平光軸型動体トラッキング共焦点顕微鏡」を利用したタイムラプス観察:「水平光軸型動体トラッキング共焦点顕微鏡」による観察を引き続き継続することで,データ数の取得を増やし,定量的な解析を行う。また,GFP-XI-B,GFP-XI-G発現株でも長時間イメージングを行い,根冠成熟に連動したミオシンの発現の変動やその周期,あるいは細胞内での動態を捉えて,個々の根冠剥離におけるミオシンの機能の同定を進める。 2. 根冠ミオシンXIのリン酸化を介した根冠細胞動態および分化制御機構の解明:根冠成熟に伴うミオシンの運動にはオーキシンを介したリン酸化制御が働いている可能性が考えられる,そこでオーキシンに依存したミオシンXIリン酸化が根冠成熟過程を制御するメカニズムを検証する。調節の分子メカニズムとしては,ミオシンXIのテイルドメインに存在するセリン残基のリン酸化が,アダプタータンパク質を介したオルガネラとの結合を促し,オルガネラや小胞の輸送を活性化するという流れを想定できる。そこで各根冠ミオシンXIに,テイルドメインのセリンをアラニンに置換したリン酸化阻害変異を導入する。リン酸化阻害型と野生型ミオシンXIを三重変異株に導入し,研究1で特定したそれぞれの細胞内機能に対する影響をライブイメージングで比較解析し,リン酸化制御が関わる細胞内過程を特定する。 3.根冠ミオシンXIの人工的高速化による輸送速度に依存した根冠機能の解析:具体的には,根冠ミオシンXIのモーター領域を,生物界最速であるシャジクモミオシンXIのモーター領域と置換することで,根冠ミオシンXIが持つオルガネラや小胞結合能を保持したまま運動機能のみを高速化し,機能調節に関する情報を強化する。。根冠ミオシンXIの高速化よって促進される細胞内過程や組織レベルの根冠機能を特定し,それぞれの根冠ミオシンXIが果たす役割を明らかにしていく。
|