研究課題/領域番号 |
23K05821
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
坂田 洋一 東京農業大学, 生命科学部, 教授 (50277240)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | ABAシグナル伝達 / ヒスチジンキナーゼ / ヒメツリガネゴケ / 浸透圧ストレス / B3-RAF / SnRK2 / エチレンシグナル伝達 / ABA / osmostress / RAF kinase / histidine kinase / moss |
研究開始時の研究の概要 |
植物は日々変動する利用可能な水環境への適応機構の確立が必須である。これまで、水の利用が限定される「乾燥」と、植物体を覆うほどの多量の水環境「冠水」は、それぞれ独立して制御されていると考えられてきた。一方、申請者の研究グループではヒメツリガネゴケにおいて、エチレン受容体としても機能するヒスチジンキナーゼ (HK)とRAFキナーゼから構成される複合体が、乾燥と冠水という相反する水環境情報への応答スイッチとして機能する仕組みを初めて明らかにした。本研究ではHKによるRAFの活性化機構を明らかにし、水環境情報の統合的制御の分子基盤の理解、そして陸上植物におけるその保存性を明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
ETR-HKによるRAFの活性化機構を明らかにするため、HK遺伝子を標的とした突然変異株の作出と解析を行った。ヒメツリガネゴケにコードされる4つのPpHK遺伝子の内、PpHK13/20/24 を破壊した3重欠損株(TKO)は野生型株と同様のABA感受性を示すが、さらにPpHK5を破壊した4重欠損株(QKO)はABA非感受性となるため、TKO株に対して突然変異処理を行い、ABA培地上での活発な成長を指標にABA非感受性株を単離し解析した結果、ヒスチジンキナーゼドメイン(P450L)およびレシーバードメインのγループ内(P686L)における非同義置換が生じていた。P450L変異を有するPpHK5はB3-RAF(ARK)との相互作用能を消失していた。一方、P686L変異を有するPpHK5はARKとの相互作用能を維持しているにも関わらず、ARKの活性化を引き起こすことができないことが明らかとなった。このことから、PpHK5によるARKの活性化には相互作用のみでは不十分であり、レシーバードメインによる未知の活性化機構が存在していることが強く示唆された。 一方で、得られた変異株にはETR-HKおよびARK遺伝子に変異を持たないものも存在した。これら変異株は浸透圧耐性も消失していることから、ゲノムシーケンスを行ったところ、比較的多くの非同義置換変異が検出されたが、既存のABA/浸透圧ストレスシグナル伝達因子に変異は見出されなかった。現在、これら変異株の原因遺伝子について遺伝子マッピングを行っている。 ETR-HKによるABAシグナル伝達制御の進化的保存性を検証するため、藻類、ゼニゴケ、イヌカタヒバ、シロイヌナズナのETR-HKをクローニングし、ヒメツリガネゴケを用いて機能相補試験を行った所、シロイヌナズナETR-HKのみがABAシグナル伝達の活性化機能を有していないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
順遺伝学を用いた解析では、今まで植物では明らかにされてこなかった、ヒスチジンキナーゼのレシーバードメイン内のγループの重要性を見出すことに成功した。さらに、アルファフォールド2を用いた構造予測から、このγループの空間的位置が陸上植物の進化に伴い、変化していることが示唆された。この発見は、植物の陸上進化初期に、ABAとエチレンシグナル伝達系がETR-HKを介してカップリングしていたシステムが、被子植物で独立したシグナル伝達系として存在している仕組みに新たな洞察を与える結果であった。現在、本研究結果をまとめた投稿論文が準備中である。以上より、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において、2023年度はETR-HKによるB3-RAFの活性化機構の解明に取り組み、変異株を用いたアプローチ、および異種間機能相補試験を用いたアプローチにより、新たな知見を含む一定の成果を得ることができた。2024年度は、RAFの活性化におけるETR-HKのヒスチジンキナーゼ活性の関与について検証を進める。これまでに、ETR-HKを大腸菌内で合成・精製したタンパク質を用いてin vitroリン酸化試験を行ったが、ヒスチジンキナーゼ活性を検出することができなかった。文献を調査したところ、酵母を用いてシロイヌナズナエチレン受容体のヒスチジンキナーゼ活性を検出していることが明らかとなったため、原愛、酵母を用いてETR-HKを調製している。このタンパク質を用いてヒスチジンキナーゼ活性が検出できた場合、ARKが基質となり得るかについて検証を行う。また、ETR-HKとARKは小胞体において相互作用することが示されている。ETR-HK/ARKとともに複合体を構成しRAFの活性制御に関わるタンパク質を明らかにするため、樹立しているPpHK5-GFPを発現するPphk QKO株を用いたインタラクトーム解析を実施していく。これまでに、GFP抗体を用いたウェスタンブロット解析により、インタラクトーム解析に供試可能なレベルでのPpHK5-GFPの検出を確認している。以上に実験を確実に進行させ、ETR-HKによるARK活性化機構のさらなる解明を試みる。
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