研究課題/領域番号 |
23K05822
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44030:植物分子および生理科学関連
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
永島 賢治 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (80264589)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
|
キーワード | 紅色細菌 / 光合成電子伝達 / シトクロム / 遺伝子操作 / 紅色光合成細菌 / シトクロムbc複合体 |
研究開始時の研究の概要 |
光合成電子伝達におけるシトクロムbc複合体は、クロロフィル結合タンパク質によって供給される還元型キノンを酸化して、エネルギーを取り出す必要不可欠な酵素複合体である。しかし申請者は近年、一部の紅色光合成細菌においてはこの複合体を欠いても光合成による増殖が可能であることを明らかにしており、同様な機能を持つ別の酵素複合体が存在することを予見している。本研究ではこの新規複合体の正体をつきとめるとともに、遺伝子操作によって光エネルギーを有用物質の生産に活用することを目指す。
|
研究実績の概要 |
紅色光合成細菌の光合成電子伝達鎖を構成するシトクロムbc1複合体は、光化学反応中心複合体から供給される還元型キノンを酸化し水溶性電子伝達タンパク質を還元する、必要不可欠と考えられてきた膜タンパク質複合体である。しかし申請者は近年、紅色光合成細菌Rubrivivax gelatinosusにおいて、この複合体を欠いても光合成による増殖が可能であることを見出し、同様な機能を持つ別の膜タンパク質複合体が存在することを予見している。本年度の研究では、この新規電子伝達タンパク質複合体の一つとして予想されるET1(仮称)複合体の同定を目指し、シトクロムbc1 /ET1複合体遺伝子2重欠損株へET1(4ヘムシトクロムc、FeSタンパク、膜結合タンパクの3つから成る)遺伝子のみを再導入した。この時、ET1遺伝子を、ゲノム上の本来の位置ではなく、シトクロムbc1遺伝子の位置へ置き換える形で導入した。得られた再導入株は野生型の約1/3の速度ではあるが光合成による生育を回復した。この株の全タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離しc型シトクロムのみを可視化する処理を行ったところ、ET1の4ヘムシトクロムcに対応する27 kDaのシグナルが検出された。 また、光化学反応中心複合体からシトクロムbc1 またはその新規アイソザイムへの電子伝達を仲介するユビキノール分子の移動機構、特にその経路と干渉するように配置された光捕集タンパク質複合体をどのように通過するのかを明らかにするため、反応中心-光捕集複合体のクライオ電子顕微鏡による可視化を、茨城大学大友教授らとの共同研究を通じて進めた。本年はそのための材料としてR. gelatinosus菌株の提供と、高度好塩性の紅色硫黄光合成細菌Halorhodospira halophilaの菌株同定と各種光合成タンパク遺伝子の塩基配列決定を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シトクロムbc1 複合体に代わる新規キノール酸化/水溶性シトクロム還元酵素(ET1)について、タンパク質のN末端へのヒスチジンタグ付加や抗体の利用などによって検出・精製を試みてきたが、おそらく合成量が極めて少ないため、期待されるような成果は得られてこなかった。本研究では、bc1 複合体/ ET1複合体の遺伝子2重欠損株を親株とし、bc1 複合体の遺伝子座にET1複合体の遺伝子を代わりに導入することでET1複合体を構成するタンパク遺伝子の十分な発現を目指した。この遺伝子導入株は光合成生育能をある程度回復し、ET1複合体の構成要素の一つであるc型シトクロムの蓄積を示したところから、初年度の目標は最低限達成できたと判断した。ただしET1複合体の大量精製や、構成要素と予想される各タンパク質の同定など、まだ多くの課題が残されている。また、ET1の本来の役割は硝酸還元過程にあると予想されるので、このことを生理学的に確認する実験も考慮していく必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
基本的に当初計画に従って研究を推進する。新規キノール酸化/水溶性シトクロム還元酵素(ET1)の大量精製を目指し、この複合体の酸化還元滴定や時間分解分光測定を行うことを予定している。また、bc1 複合体とも ET1複合体とも異なる第3のキノール酸化/水溶性シトクロム還元酵素の存在が示唆されているので、この未知電子伝達タンパク質複合体についても機能の確認と精製・同定を試みる。さらに、これら膜結合型電子伝達タンパク質複合体への電子供与体となるユビキノール分子の移動機構について、茨城大学大友教授らとの共同研究をさらに推進し、R. gelatinosusをはじめとする各種紅色光合成細菌の膜タンパク質をクライオ電子顕微鏡によって可視化していく予定である。さらに、光エネルギーを有用物質の生産や環境浄化に活用するための基盤技術を確立するという目標に照らし、一連の光合成電子伝達経路を、窒素固定反応を触媒する酵素であるニトロゲナーゼによる水素生産へ導くための研究も行う。具体的にはR. gelatinosusのゲノム中に見つかった2セットのニトロゲナーゼ(Nif)遺伝子の欠損株作成と、変異を加えた遺伝子再導入により水素ガス発生効率の向上を目指す。
|