研究課題/領域番号 |
23K05845
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分44050:動物生理化学、生理学および行動学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
清水 貴史 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (50324760)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 小脳 / ゼブラフィッシュ / 社会性行動 / 光遺伝学 / 恐怖条件づけ |
研究開始時の研究の概要 |
社会性に関わる脳領域は『社会脳』と呼ばれ、哺乳類では終脳の特定の領域に存在する。また、社会性に異常を示す自閉スペクトラム症(ASD)と運動学習に関与する小脳機能の関連が示唆されており、社会性行動における小脳の役割が注目されている。本研究ではゼブラフィッシュを用いて、社会性行動における小脳神経回路機能の解明を目的とする。小脳神経回路を阻害した魚や小脳ニューロン発生関連遺伝子変異体の社会性行動について解析する。社会性行動によって活動が変化する小脳神経細胞集団を同定し、機能的意義を明らかにする。さらに光遺伝学ツールでニューロン活動を操作することによって、社会性行動における小脳神経回路の役割を解明する
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研究実績の概要 |
多くの動物は社会的な文脈で生きているため、他個体を認識、記憶して適切な意思決定を行わなければならない。社会性行動に関わる脳領域の一つに小脳があり、自閉症様行動に小脳機能異常が関与していることが明らかとなっている。しかしながら、小脳神経回路が社会性行動にどのように関わっているかは分かっていない。 本研究では、ゼブラフィッシュを用いて社会性行動における小脳神経回路の役割を明らかにすることを目的とした。ゼブラフィッシュは、様々な社会性行動を示すが、本研究では同調行動を社会性行動の指標とした。同調行動は、透明な仕切りで隔てられた水槽で互いの行動を真似るような動きをする行動である。同調行動は、ソーシャル・キューに対する反応とそれに対する応答から成り立っている。本研究で、ゼブラフィッシュの同調行動はメダカのような同程度の大きさの他種ではなく、同程度の大きさの同種個体に対して行うことが明かになった。また、この行動には生後の他固体との接触経験は必要ないことがわかった。小脳機能をボツリヌス毒素で阻害した個体や、小脳プルキンエ細胞層に形成異常のあるreelin変異体で同調行動に異常がみられたことから、小脳機能が同調行動に関与することが明らかとなった。さらに同調行動後に神経活動マーカーである最初期遺伝子あるc-fosやerg1の発現の上昇が小脳で観察された(論文投稿中)。 ゼブラフィッシュの社会性行動における神経活動をリアルタイムで観察するための実験装置の開発を行った。魚の頭を固定した状態で仮想現実を使って同調行動を行い、神経活動をカルシウムイメージングを行う装置を作製中である。仮想現実を用いた能動的回避学習の解析装置が開発し、回避学習における小脳ニューロンの活動をリアルタイムカルシウムイメージングによって観察することに成功し、小脳プルキンエ細胞と出力ニューロンのイメージングを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ゼブラフィッシュを用いて社会性行動における小脳神経回路の役割を明らかにすることを目的とした。ゼブラフィッシュは、群れで行動することが知られている。ショーリング行動(群れ行動)、社会性、社会的新奇性テスト、同調行動の3種の社会性に関わる行動をゼブラフィッシュ成魚で解析した。その結果、同調行動が最も簡便で安定、ロバストな解析方法であると結論づけた。同調行動について詳細な解析を行ったところ、この行動は同種個体に対して行い、過去の同種個体との接触経験によらないことを明らかとした。さらに小脳機能が同調行動に関与することをボツリヌス毒素による機能阻害と神経活動マーカーである最初期遺伝子の発現解析によって明らかとすることができた。この結果は、現在論文投稿中である。 ゼブラフィッシュを用いた社会性行動における小脳神経回路の詳細な役割を明らかにするため、仮想現実を用いた同調行動解析システムの開発を行っている。当研究室で仮想現実を用いた能動的回避学習の解析装置が開発されており、回避学習における小脳ニューロンの活動をリアルタイムカルシウムイメージングによって観察することに成功している。この実験に用いる小脳ニューロンを調べるためのカルシウムイメージングや電位センサーのトランスジェニックフィッシュも順調に作製できている。現在、仮想現実で同調行動を再現するための実験機器を回避学習の装置を改良することによって作製している。
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今後の研究の推進方策 |
仮想現実を用いた同調行動解析システムの開発を行う。現在、恐怖条件付けの一種である能動的回避学習を頭を固定したゼブラフィッシュに対して仮想現実を用いて行い、小脳プルキンエ細胞と出力ニューロン(広樹状突起細胞)のカルシウムイメージングにより、神経活動をリアルタイムで観察している。今後、さらに多数のデータを蓄積し、能動的回避学習における小脳ニューロンの役割を数理モデルの構築を含めて明らかとしていく。また、仮想現実による同調行動においてゼブラフィッシュに提示するバーチャルフィッシュを宇都宮大学、八杉博士との共同研究で作製する。作製されたバーチャルフィッシュをゼブラフィッシュに提示し、ゼブラフィッシュ尾の動きによって提示されたバーチャルフィッシュを動かして仮想の同調行動を解析できるようにする。活動するニューロンのイメージングに用いる電位センサーやさらに感度の良いカルシウムセンサーを持つトランスジェニックフィッシュを作製しており、その有用性を調べる。仮想現実による同調行動と能動的回避学習とにおけるカルシウムイメージングの結果の比較によって小脳機能の役割の差異を調べる。 これまでの研究で、神経活動マーカーである最初期遺伝子あるc-fosやerg1の発現上昇が小脳で観察されたが、他の脳部位での解析がなされていないので、今後行う予定である。また、神経活動マーカーであるErk1/2のリン酸化を小脳を含めた全脳で観察し、同調行動において活性化する脳部位やどのようなニューロンが活性化するのかを明らかとする。光遺伝学によってニューロンの機能を制御することによって、神経機能の詳細を解析する。
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