研究課題/領域番号 |
23K05864
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45010:遺伝学関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
青木 摂之 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (30283469)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 概日時計 / ヒメツリガネゴケ / クラミドモナス / 基部植物 / 光入力系 / リン酸リレー系 / ヒスチジンキナーゼ / 多段階リン酸リレー / PASドメイン / 植物の進化 |
研究開始時の研究の概要 |
概日時計が環境周期に同調するために環境光の情報を受容・伝達する仕組みを光入力系と呼び、植物では、モデル被子植物シロイヌナズナで研究が進んでいる。近年、被子植物以外の多様な植物の系統群が、多様な光入力系を進化させてきた事実が見えつつある。これは植物の光環境の多彩さを反映しており、環境応答機構の多様化の重要な例である。研究代表者は最近、蘚類ヒメツリガネゴケと緑藻クラミドモナスの両方で、His-Aspリン酸リレーのヒスチジンキナーゼ(HK)が光入力系で機能する証拠を得た。これらのHKに始まる「概日リン酸リレー」の機能と仕組みを解明し、その進化について知見を得る。
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研究実績の概要 |
研究代表者は過去に、蘚類ヒメツリガネゴケと緑藻クラミドモナスの両方で、His-Aspリン酸リレーのヒスチジンキナーゼ(HK)が概日時計の光入力系で機能することを示唆する結果を得ていた。本研究計画では、これらのHKに始まる仮定的「概日リン酸リレー」の制御機能/機構の解明と、蘚類と緑藻、さらには被子植物の間での共通点・相違点の調査をこころみた。すなわち、コケのPAS-HK1/2とクラミドモナスのLOV-HK1について、1)光入力系因子としての生理機能、2)リン酸リレー機構、3)時計機構への接続過程について研究し、さらに、4)その成果を相互に比較し、緑色植物の概日リン酸リレーの進化・多様性について考察した。 具体的成果として、PAS-HK1/2はフィトクロム非依存の赤色光シグナルにより発現が制御されることを明らかにし、また、酵母2ハイブリッド・スクリーニングを行い、PAS-HK2と相互作用するタンパク質の探索を進め、候補となる酵母株を複数分離した。LOV-HK1については、光同調機能の異常を示すクラミドモナス変異株lhk1aにおいては明暗サイクルの明期の終わり(夕方)にLOV-HK1の発現が著しく低くなることを明らかにした。また、高等植物の時計タンパク質ホモログであり、LOV-HK1による時計の制御に関わる可能性のあるTOC1タンパク質が、既知の時計タンパク質の一つであるCETLの発現制御を介し、他の既知時計タンパク質をコードするROC40遺伝子の光による発現抑制を緩和することを明らかにした。 これらの成果から、系統上は隔たる複数の緑色植物においてリン酸リレーが概日時計の光入力系として機能することが示唆される一方で、互いに固有の機能を分化させている可能性も示された。本研究により、緑色植物の概日時計の起源と進化について重要な知見が得られたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒメツリガネゴケのPAS-HK1/2の研究については、全フィトクロム遺伝子のノックアウト株を用い、PAS-HK1/2の発現が、フィトクロムに依存しない赤色光シグナルにより抑制されることを確認した。これに関連し、既知の時計遺伝子ホモログであるCCA1a/1b両遺伝子が、やはりフィトクロムに依存しない赤色光シグナルにより抑制され、さらに光合成阻害剤のDCMUを用いた薬理学的実験により、この抑制には光合成活性に依存するシグナルが関与することを明らかにした。予備的にはPAS-HK1/2がCCA1a/1bの発現レベルを制御する可能性を示す結果も得ており、PAS-HK1/2が概日リン酸リレーのセンサータンパク質として、光入力に関与する可能性は高いといえる。さらに酵母2ハイブリッド・スクリーニングにより、PAS-HK2と相互作用する因子の候補クローンを多数得ている。それらのシーケンス解析はこれからであるが、概日リン酸リレーの新規制御因子が明らかになる可能性がある。 また、クラミドモナスのLOV-HK1については、変異株の特徴づけを進めることで、概日時計の光入力系の制御機能を示す結果を得るとともに、関連因子の候補であるTOC1についても、非常に重要な光入力系の制御過程であるROC40の発現制御への関与を突き止めることができ、緑藻の光入力系においてもリン酸リレーが重要な機能を持つことを明らかにしつつある。これらの成果を評価し、上記の区分「概ね順調に進展している」を選んだ。
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今後の研究の推進方策 |
PAS-HK1/2については、これら遺伝子の二重変異株ではCCA1a/b、PRR2などの時計遺伝子の日内発現パターンが変化する、という予備的結果を過去に得ている。今後は、この結果の再現性を慎重に確認したうえで、さらに連続暗条件での長期サンプリングを行い、時計の周期・位相に対するPAS-HK1/2の制御機構を探る。また光合成活性によるPAS-HK1/2の発現制御の有無を検証し、前記の光合成活性によるCCA1a/b発現制御との相関を検証したい。また、酵母2ハイブリッド・スクリーニングで得られたPHK2との相互作用因子の候補クローンは、逐次シーケンス解析に進み、可能性の高いものから二分子蛍光補完法や抗体を用いた試験管内相互作用アッセイにより、PHK2(またはPHK1)との相互作用を検証する。 LOV-HK1については、昨年度の結果を踏まえつつ、lhk1a変異株をさらに活用し、LHK1aの発現低下により、既知ROC遺伝子群の発現パターンにどのような影響が出るかをさまざまな光条件下で調べる。さらにゲノム編集によりLHK1のヌル変異株を作出し、時計の周期・位相や、ROC遺伝子群の発現パターンに対する影響を調べる。また、これらのLHK1の変異株と、光入力系の中間制御因子と考えられるCETLやCSLの変異株、さらにはTOC1、PRR1、HPt1などの概日リン酸リレー系の候補制御因子の変異株との掛け合わせにより、多重変異株を作出し、それらの表現型の解析を進める。これらの解析により、LOV-HK1の時計機能における機能をより深く理解する。
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