研究課題/領域番号 |
23K05866
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45010:遺伝学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
手島 康介 九州大学, 理学研究院, 教授 (20447593)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 適応進化 / シミュレーション / 検出 / ゲノム / 網羅的探索 |
研究開始時の研究の概要 |
昨今のゲノムデータの蓄積にともない適応検出事例の報告は行われている。しかし個別の候補領域のリストアップにとどまっているケースがほとんどであり、適応メカニズム全貌の理解に至っているとまでは言えない。本研究はこのような現状に対し、ゲノム多様性データの解析を通じて、適応の有無ならびに適応過程の詳細に関する情報を抽出することを目指す。個別適応候補領域の検出に留まっている現状に対し、適応過程の詳細まで網羅的に議論する方法を提供し、現在の生命システムを作り上げてきたメカニズムの理解を深めることを目的とする。
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研究実績の概要 |
本研究は自然選択・人為選択等の適応の対象となった候補領域を効率よく検出する方法を提示することを目的としたものである。初年度は新たな研究方法の開発に先立ち、既存の適応進化の検出法によって検出され得る適応領域の性質についての研究を進めた。これは既存の方法では真に発生した適応の一部しか検出されていないこと、さらに特定の性質を持つ適応に限って検出されていることを量的に示すことが目的である。 現在使われている方法は、統計的な検定として実装されており、帰無仮説、すなわち中立状態を棄却すれば適応と判断する。当然ながら偽陰性も存在するため、どのような条件下で検出されているのかを明示的にすることは意味がある。中立状態を棄却する要因は複数存在している。そのためたとえ棄却したとしても、検出領域ごとにその性質は異なるかもしれない。これらの問題意識の下、適応が発生した時間と選択の強さに注目し、パラメータごとに検出効率を算出した。その結果、最近の適応であれば非常に有利でなければ検出できず、逆に古い適応であれば弱い適応でなければ検出できないという性質の違いを明らかにした。さらにこれらシミュレーションから得られて検出効率を用いることで、逆に、真に発生した適応進化を推定することが可能であることも示した。これらの研究結果は論文化して既に掲載されている(Tanaka et al., Power of neutrality tests for detecting natural selection, G3, jkad161, 2023)。また研究成果を日本遺伝学会(熊本)のワークショップで講演し、日本進化学会(沖縄)ではポスター発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では設定している学術的課題が2つある。第一の点は現状で検出されている適応領域の性質を明確にすることである。すべての適応が検出されているわけではないこと、さらに検出されている適応はその性質において偏りが存在することを明確にすることが目的である。この偏りを明示的に意識した解析を行うことによって、真の適応の姿を推定することを最終的な目的とする。第二の課題は、新たな検出方法の開発である。現在の方法には偏りがあることから、検出しにくいパラメータスペースにある適応を発見することは難しい。そのための新たな方法が必要である。また現状では適応の有無しか問うていない。どのような性質を持った適応なのか、さらなる情報を得ることも可能であると思われる。 初年度の研究成果は、第一の課題として行ったものである。第一の課題は、現在までに使われている適応進化の検出法によって見つけることのできる適応進化とは、どのような性質のものなのかを明確にすることである。シミュレーションを行い、検出法の偏りを明確に量的に表すことができた。これらの結果をもとにして、第二の課題に進むことができる。従って現在までの研究の進展状況は概ね想定通りと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究で予定している研究課題のうち二番目の課題に着手する。初年度の研究からも、現在の方法で検出される適応の候補領域は、直近の強い適応から古くて弱い適応まで、その性質は様々である。これらは中立状態から乖離しているからこそ検出されているのであるが、その乖離している要因に依存して、乖離のパターンは異なるはずである。第二の課題はハプロタイプ多様性に注目することで、乖離のパターンを理解することにある。 今後はまずはシミュレーションを実行し、適応進化のもとでの各種統計量のパターンを計算する。解析を行うときに注目する領域長を変化させることで、いわゆる「波長」が異なる特徴を抽出することができると考える。この波長ごとのシグナルの違いは適応の過程に依存すると考えられる。これまでは適応があるかどうか、すなわち中立を棄却するかどうかしか考慮されてこなかったところに、あらたな情報を付与するすることができると期待している。現状の方法は要約統計量の分布に基づくものであるが、分布そのものの違いを直接検出することで、既存の方法にはない解析結果が得られることが期待できる。
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