研究課題/領域番号 |
23K05922
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
畑 啓生 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (00510512)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | サンゴ礁 / 生物多様性 / 大規模攪乱 / 地球温暖化 |
研究開始時の研究の概要 |
地球温暖化が進行する世界のサンゴ礁で、繰り返し生じるサンゴの大規模白化に対し、なわばりをもつ藻食性スズメダイが、サンゴの生残や成長、新規加入を促し、サンゴ群集のレジリエンスを高めるという仮説を検証する。スズメダイのなわばり内という小スケールから景観スケールまで多層的に、藻類とサンゴを属のレベルまで分類し高解像度で、サンゴ群集と藻類群集の変遷を追う。本研究により、なわばり性スズメダイ群集を考慮することで、地球温暖化が不可逆的に進行するなかで、各地のサンゴ礁のレジリエンスをより正確に評価できるようになり、温暖化のサンゴ礁への影響を予測、緩和し、サンゴ礁を次世代に引き継ぐことに貢献する。
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研究実績の概要 |
サンゴ礁では、地球温暖化によりサンゴの大規模白化乱が頻発している。この攪乱に対するサンゴ群集の復元力には、サンゴと競合する藻類を食べる藻食者が貢献するが、藻食性スズメダイ類は、なわばりを防衛して、芝状藻類の繁茂した藻園を摂餌の場として維持し、サンゴ群集の回復に影響を及ぼす。また、なわばり性スズメダイは時になわばり周縁のサンゴをつついて直接効果としてサンゴ群体に負の影響を与えうる。本研究では、沖縄のサンゴ礁域で、白化前の2015年から観察しているスズメダイ6種のなわばり内外を追跡し、大規模白化からのサンゴ群集の初期再生の過程にスズメダイのなわばりが果たす役割を明らかにする。 本年度、特にクロソラスズメダイに注目し、操作実験を行い、またこれまで観察した結果を解析した。その結果、なわばり外では、塊状のハマサンゴとコモンサンゴが優占するが、なわばり内では、それらのサンゴの被度は低く、ハナガタサンゴとミドリイシが多いことが明らかになった。サンゴの被度は、なわばり外では、2016年のサンゴ大規模白化からの回復がみられ、15%から2023年には30%に増加した。一方、なわばり内では常に10%前後に維持されていた。実験的にクロソラスズメダイをなわばりから離し、管理できなくさせ、なわばり内であったサンゴと藻類の変遷を観察すると、スズメダイ除去の翌日には、藻類食魚とサンゴ食魚がなわばりであった場所に侵入して摂餌し、藻類は、藻類丈が15 mm程度であったものが1 mm以下に食べ尽くされ、サンゴは特にミドリイシとハナヤサイサンゴが食べられて被度を減少させた。このように、クロソラスズメダイの藻園管理により、直接、間接的に影響を受け、なわばり内には特異な藻類群落とサンゴ群集が形成されていることが明らかにできた。現在これらを論文にまとめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、2023年9月、10月に、沖縄本島周辺の瀬底島周辺海域において5種のなわばり性スズメダイについて野外調査を行うことができた。それにより、サンゴの大規模白化の影響のなわばり内外での違いについて、継続的にデータを得ることができた。それにより、サンゴの被度は、大規模白化後は、なわばり外では減少するが、一方クロソラスズメダイのなわばり内では逆に増加する傾向がわかってきた。なわばり内には、なわばり外に比べ高い頻度で出現する特徴的なサンゴ種が生育していることも分かってきたが、大規模白化後に、これらのサンゴはなわばり外では消失したが、なわばり内では被度に変化が見られず維持されることが分かった。これらのことから、なわばり内はサンゴにとって安定した環境であり、大規模白化の影響をあまり受けなかったことが示唆された。白化の影響を受けやすいとされるサンゴ種では、その被度は、大規模白化前ではなわばり外で高く、なわばり内ではほとんど見られなかったが、白化後はなわばり外で減少し、なわばり内で増加した。このことは、スズメダイのなわばり内が白化の影響を受けやすいサンゴ種の回復のための場所として機能している可能性が示唆され、今後、さらに追跡調査を行い検証を進める必要性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画としては、2015年より調査地としている沖縄本島周辺の3地点(瀬底島、恩納村、大度浜)において、高密度でみられるなわばり性スズメダイ6種(集約的な種から粗放的な種の順にクロソラスズメダイ、キオビスズメダイ、ルリホシスズメダイ、ハナナガスズメダイ、フチドリスズメダイ、アイスズメダイ)を対象とし、スズメダイのなわばり内外におけるサンゴ群集の回復過程を続けて追い、またサンゴ群集の遷移に影響を及ぼすスズメダイの干渉、競合する藻類の遷移、スズメダイによる藻食者、サンゴ食者の排除の観察を続ける。同時に、夏季にサンゴの大規模な白化がこれらの調査地で生じればその撹乱の影響を調べられるよう、なわばり内外のサンゴ群集について白化直後と、冬季に調査を行う。万一、新型コロナウイルス感染拡大のために野外調査が実施できなければ、これまで蓄積しているデータの解析に集中する。 得られた結果についてまとめ、学会発表を行う。
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