研究課題/領域番号 |
23K05939
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
小糸 智子 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (10583148)
|
研究分担者 |
福島 英登 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (60466307)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
|
キーワード | 多毛類 / ハナオレウミケムシ / 水中曝露 / 餌曝露 / 深海性多毛類 / マイクロプラスチック / 深海熱水噴出域 |
研究開始時の研究の概要 |
深海熱水噴出域固有の多毛類腸管上皮細胞内での顆粒の形成は、熱水に含まれる過剰なイオウや金属を無毒化な状態で排出する機構であると予想されるが、同所的に生息する移動性の多毛類には顆粒が認められなかった。これに着想を得て、マイクロプラスチックに対する多毛類の応答も生態により異なるという仮説を立てた。本研究では、深海性のみならず浅海性多毛類も用いてプラスチックビーズへの曝露を行ない、体内での挙動を明らかにするとともに、発現遺伝子から取り込みの作用機序を明らかにする。また、それが自然環境下で生じているか、天然環境から採集した多毛類のプラスチック局在と比較して検証する。
|
研究実績の概要 |
環境中からのマイクロプラスチック(MP)の取り込み経路を明らかにする目的で、ハナオレウミケムシの水中曝露実験を実施した。人工海水に蛍光ビーズ(粒径1μm)を添加し、8時間まで曝露した。蛍光ビーズの濃度は1.0x10の4乗および1.0x10の8乗particle/mlとした。0.5、1、4、8時間でサンプリングし、固定した。マイクロプレートリーダー測定用サンプルは腸管とその他組織に解剖し、KOH溶液で溶解して測定に供した。グルタルアルデヒド固定サンプルは樹脂への包埋、薄切を行ない蛍光顕微鏡で蛍光ビーズの局在を観察した。その結果、1.0x10の4乗に曝露しても顕著な付着や取り込みは観察されなかった。一方、1.0x10の8乗曝露では、頭部へ集中し、その後消化管へ取り込まれることがわかった。マイクロプレートリーダーで測定した結果、1.0x10の4乗曝露は腸管、その他組織いずれも3.0x10の7乗particle/g程度で推移した。1.0x10の8乗曝露は4時間後に腸管での取り込み量が最大となったが減少し、8時間後にはその他組織の検出量が腸管を上回った。 摂食によるMPの取り込み経路を明らかにする目的で、ハナオレウミケムシに対して蛍光ビーズを混合した餌を与え、経時的な蛍光ビーズの挙動を調べた。8時間まで断続的に摂食させ、0.5、1、4、6時間でサンプリングし、水中曝露と同様の観察・分析を実施した。組織観察の結果、0.5時間からすり身中の蛍光ビーズが観察され、6時間後まで局在の変化は見られなかった。マイクロプレートリーダーを用いた定量では、4時間で取り込み量が最大となり、その後6時間までに減少した。 ハナオレウミケムシの水中および餌曝露により、いずれの条件でも蛍光ビーズは4時間までに取り込まれることが明らかとなった。また、経口摂取が主な取り込み経路であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
取り込み経路を調べるために必要な予備実験を概ね遂行できた。本研究で設定した曝露濃度および時間に基づき、次年度も曝露実験を継続する予定である。しかしながら、マイクロプレートリーダーを用いた蛍光ビーズの定量方法は改善する必要がある。まず、蛍光ビーズ単体の溶液は問題なく測定できるが、生物の組織片と混合すると蛍光強度が強く検出されてしまう。これは自家蛍光などの要因によるものであると考えられる。そこで組織片を除去するために濾過を行なったが、蛍光ビーズも濾紙にトラップされてしまい、無濾過のサンプルに比べ蛍光強度が著しく減少した。次年度は溶解方法、溶解時間について再検討を行ない、濾過を経ずにマイクロプレートリーダーで蛍光を測定する方法の確立を目指す。曝露実験は、水中曝露については予備実験として概ね良好な結果が得られた。一方、餌曝露についてはいくつかの課題が生じた。まず、餌曝露は絶食状態の複数個体に対してイカすり身を3g与えたが、摂餌する個体としない個体が存在した。すなわち、1個体あたりの摂餌量をコントロールすることが困難ということである。また、6時間までの曝露ではイカすり身の状態で腸管内に蛍光ビーズが留まっており、消化の様子を観察できなかった。さらに、前述のとおりマイクロプレートリーダーによる蛍光強度測定では水中曝露個体よりも蛍光強度の誤差が大きかった。それは、腸管溶解時に腸管内のイカすり身も含まれていることで、ハナオレウミケムシのみを溶解する水中曝露に比べ、溶解液の濁度がより高まったことが原因と考えられる。以上のことから、曝露実験の条件設定は継続可能であるが、分析方法については精度を高めるための改善が必要な状態である。
|
今後の研究の推進方策 |
水中曝露および餌曝露実験を実施する。予備実験により4時間までに相当量が取り込まれることが明らかになった。しかしながら、消化管内へ取り込まれた蛍光ビーズがその後完全に排泄されるのか、いずれかの組織・器官に取り込まれるかを明らかにすることはできなかった。したがって、4時間までに水中および餌を介して取り込ませたのち、人工海水のみでハナオレウミケムシの飼育を継続し、経時的にサンプリングする。これにより、一度消化管に取り込まれた蛍光ビーズの動態を明らかにする。 予備実験では、蛍光ビーズの粒径を1.0μmに統一して曝露した。これは、深海性多毛類の腸管内から検出された顆粒の直径を基準としたためである。予備実験の組織観察では、水中曝露により取り込まれた蛍光ビーズが8時間後には腸上皮付近に存在することが確認されている。一方、粒子サイズによって組織内への取り込みの可否が存在する可能性があるため、粒径0.5μmの蛍光ビーズも用いて曝露実験を行ない、粒子サイズによって取り込みに違いがあるのかを確認する。 ハナオレウミケムシが取り込んだ蛍光マイクロビーズの挙動について、組織観察、マイクロプレートリーダーによる定量を実施した。両手法を総括すると、データの整合性はあるものの定量性には欠ける。したがって、マイクロプレートリーダーによる測定の精度を高めることに加え、異なる評価方法の追加を検討している。具体的には、組織切片もしくはハナオレウミケムシの組織溶解液を濾過した濾紙の画像解析により、蛍光ビーズの面積を求め、相対的な蛍光ビーズの多寡を評価する方法である。
|