研究課題/領域番号 |
23K05941
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
山中 裕樹 龍谷大学, 先端理工学部, 准教授 (60455227)
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研究分担者 |
源 利文 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 教授 (50450656)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 環境DNA / メタバーコーディング / PCRバイアス / アーティファクト |
研究開始時の研究の概要 |
環境DNAメタバーコーディングは生物多様性情報の取得に利用されるようになっているが、種の構成比率の情報をどれほど正確に反映したデータを得られているのかについては情報の蓄積が少ない。本研究ではレアな配列まで高感度に検出できるライブラリー調整手法の開発を行うと同時に、DNA試料中での種間のDNA量比をライブラリー調整中に変化させないPCR手法の開発を行う。これが達成できれば、シーケンシングで得られる種間のリード数の比へのバイアスも抑えられ、既存の手法よりも種間のDNAの量比をより正確に保存したデータを得られるようになる。
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研究実績の概要 |
環境DNAメタバーコーディングで用いるユニバーサルプライマーのDNA配列は分析対象のすべての種に完全にマッチしているわけではない。この配列のミスマッチや環境DNAサンプル中での種間でのDNA存在量の違いがPCRを用いたライブラリー調整中にバイアスを生じる。 初年度である2023年度には魚類を対象するMiFishプライマーを用いて、生じているバイアスの定量を行った。MiFishプライマーを改変したMiFish-modプライマーに対して完全に一致した配列を持つ生物種の組織由来抽出DNAをテンプレートとして種ごとにリアルタイムPCRで定量した場合と、ミスマッチを含んでいるオリジナルのMiFishプライマーを用いて同じく定量した場合を比較した。結果、MiFishプライマーではミスマッチが多いと格段に増幅効率が低下し、元のテンプレート量が過小評価されることを確認した。 一方で、一般的PCRとドロップレットPCRでそれぞれ調整したライブラリーをシーケンシングし、増幅率の異なるテンプレート間でシーケンシング結果へのバイアスの程度を比較した。ドロップレット内では理論的にはテンプレートDNAが1分子だけ含まれている状態でPCRがかかるため、多少PCR増幅効率にテンプレート間で差があっても、最終的にはドロップレット内のプライマー総数までアンプリコンが増加して頭打ちとなることでその効率の差がキャンセルされると考えられる。結果、通常のPCRを用いて調整したライブラリーに比較すると、ドロップレットPCRで調整したライブラリーではプライマーに対してミスマッチをもっているテンプレートの過小評価が低減されることが確認された。 これらの研究結果は当初計画で想定していたライブラリー調整中のバイアスが明瞭に存在していること、そして、ドロップレットPCRを用いることでそのバイアスを低減できる可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、PCR中のバイアスの原因としてプライマーとテンプレートDNA配列とのミスマッチ、そして環境DNA試料中での種間のテンプレート濃度の差を想定しており、それぞれが実際にもたらすバイアスの大きさを確認することを目標としている。これら2つの目標を初年度にある程度達成することができ、かつ、3つ目の最終目標であるバイアスのかかりにくいライブラリー調整手法の開発も進めることができたため、まんべんなく、かつ、予定よりも早く研究が進展している。 当初計画にはなかったが、国際学会に参加した折に新たな共同研究者(University of Washington, Seattle)を見つけることができたため、本研究は国際共同研究として展開している。PCR反応中でのテンプレートの増幅を詳細なモデリングで解析できる知見と経験を持つ研究者であるため、今回観察されたドロップレットPCRを用いたライブラリー調整手法の理論的解釈についても議論を開始しており、この部分では計画以上の進展がある。 初年度は新たな共同研究者の意見とサンプル提供の協力のもと、当初計画では人工合成遺伝子を利用することとしていた基礎的分析を各種生物の組織試料由来の抽出DNAを利用して実施した。一方で、よりピュアなサンプルである人工合成遺伝子を用いた検証も進めたが、データのばらつきが大きく、これはドロップレット作成とその破壊と回収のステップでの実験精度が影響していると考えられた。 このようにドロップレットPCRによるライブラリー調整はドロップレット作成とその破壊と回収の精度がかなり結果に影響することが課題となっている。現在は共同研究者が試用している機材を使うことでこの影響を最小化できているが、当初予定で計画していた龍谷大学所有のドロップレット作成機でも同じ質の実験を可能にするため、ファインチューニングを進める必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は安定したデータを出力できるようになったシアトルの共同研究者のもつ実験環境で主力データの取得を継続する。具体的には初年度に初回のテストを行ったドロップレットPCRをもちいたライブラリー調整手法の追加試験を行う。初回にはミスマッチの程度が異なる生物種の組織由来抽出DNAを異なる量比で添加したモックサンプルを対象としてライブラリーを調整したが、次年度は定量性について検討するために種間で同一量のテンプレートを混合したモックサンプルを対象としてテストを行う。 初年度はシアトルの共同研究者が所有するドロップレット作成機を用いて多くの検討を行ったが、当初計画で利用を想定していた龍谷大学所有の別機種ではより多くのドロップレットを作成することができるため、より感度の高い分析が可能となる。現在困難を抱えているドロップレット作成の不安定要素を取り除くトラブルシューティングを継続する。 ドロップレットPCRによるライブラリー調整が補正可能なバイアスの質や程度を明らかにするべく、人工合成遺伝子を用いたより精緻な補正メカニズムの解明を進める。一方で初年度から継続する組織由来の抽出DNAを用いた実験結果と合わせ、PCR過程でのテンプレートDNAとプライマーとのインタラクションに与えるテンプレート-プライマー間ミスマッチの効果について理論的な解析を進める。 既存のライブラリー調整手法が引き起こしうる様々なバイアスについて問題提起するための研究成果報告と、それらをできる限り取り除いたバイアスのかかっていないライブラリーを調整する方法論についての研究成果報告を進める。
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