研究課題/領域番号 |
23K05965
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
片山 圭一 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (20391914)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 補体活性化因子 / 知的障害 / 難聴 / 3MC症候群 / 神経前駆細胞 / 細胞移動 / 大脳皮質層形成 / 神経回路網形成 |
研究開始時の研究の概要 |
病原体の排除を担う自然免疫の構成因子である補体の活性化因子として発見されたMASP-3の機能障害により、免疫系とは全く関係のない顔貌異常、知的障害、難聴を呈する3MC症候群という疾患が発症する。このことはMASP-3は既知の補体活性化経路とは別に、発生・発達に関係するシグナル経路を制御していることを示しているが、それが何かは分かっていない。本研究では、MASP-3ノックアウトマウスの解析を通して、3MC症候群の発症機序と、MASP-3が関与する新規のシグナル経路を明らかにする。
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研究実績の概要 |
3MC症候群は顔貌異常、知的障害、難聴などを呈する常染色体潜性遺伝性疾患で、MASP1遺伝子の変異によって生じることが知られている。MASP1遺伝子からは選択的スプライシングによりMASP-1とMASP-3という2種類の分泌型のセリンプロテアーゼが産生されるが、3MC症候群を生じる変異のほとんどはMASP-3特異的領域に集中して認められており、疾患の発症に直接関与しているのはMASP-1ではなくMASP-3であると考えられている。MASP-3は生体防御を担う自然免疫の構成因子である補体の活性化因子として発見されたが、その機能障害によって、免疫系とは全く関係のない症状を呈する3MC症候群が発症する。このことは、MASP-3は補体活性化経路とは別に、発生・発達に関するシグナル経路を制御していると考えられるが、それが何かは分かっていない。本研究の目的は、3MC症候群の症状の中でも知的障害と難聴に着目し、神経組織の発生・発達過程におけるMASP-3の役割を解析して3MC症候群の発症機序を解明し、MASP-3が関与する未知のシグナル経路を明らかにすることである。 MASP-3は発生期の神経組織で、大脳皮質の神経前駆細胞に強く発現していることから、MASP-3ノックアウトマウスの神経前駆細胞の増殖・分化と誕生した神経細胞の移動と大脳皮質層形成に関する解析を行った。いずれの解析でもMASP-3ノックアウトマウスとコントロールマウスとの間に大きな違いは認められず、MASP-3は神経前駆細胞の増殖・分化や神経細胞の移動には関与していないものと考えられた。 3MC症候群患者のほとんどは難聴を呈するため、今後はMASP-3ノックアウトマウスの聴覚機能に関する解析に力を入れていきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、3MC症候群のモデル動物として作製したMASP-3のセリンプロテアーゼドメインを欠損するマウス(以下MASP-3ノックアウトマウス)の、神経組織の発生・発達に関する解析を行った。主な研究成果は以下の通りであるが、令和5年度に予定していた実験は概ね完遂できている。 先ず、BrdUラベル法を用いて神経前駆細胞の増殖・分化に関する解析を行った。BrdU投与1時間後と24時間後にサンプリングし、前駆細胞のマーカーであるKi67との二重免疫染色を行った。BrdU投与1時間後のサンプルは、Ki67陽性細胞中のBrdU陽性細胞の割合を算出し、前駆細胞の増殖活性を評価した。また、BrdU投与24時間後のサンプルは、BrdU陽性細胞のうちKi67が陰性になったものの割合を算出し、前駆細胞から神経細胞への分化を評価した。しかしながら、いずれの解析でもMASP-3ノックアウトマウスとコントロールマウスとの間に大きな違いは認められず、MASP-3の欠損は神経前駆細胞の増殖・分化には大きな影響を与えないと考えられた。 次に、大脳皮質神経細胞の移動に関する解析を行った。発生期には大脳皮質の神経細胞は最も脳室側の脳室帯で誕生し、脳表面へと移動してinside-out様式の6層構造を形成する。子宮内胎児脳電気穿孔法を用いて、大脳皮質神経細胞にEGFPの発現ベクターを導入し、その移動の様子から最終的な層配置までを経時的に観察した。しかしながら、この解析でもMASP-3ノックアウトマウスとコントロールマウスとの間に大きな違いは認められなかった。従って、MASP-3の欠損は神経細胞の移動と大脳皮質層形成にも大きな影響は与えないと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度の研究で、MASP-3ノックアウトマウス大脳皮質の発生には特に異常が認められなかった。3MC症候群患者のほとんどは難聴を呈することから、今後は聴覚機能に関する解析を中心に行っていきたいと考えている。 MASP-3ノックアウトマウスの蝸牛の血管条には、コントロールマウスと比べて、多くのメラノサイトが集積している。血管条のメラノサイトは内リンパ液へのカリウムイオンの輸送を担っており、リンパ液のカリウムイオン濃度を維持することで聴覚機能に大変重要な役割を果たしているため、血管条のメラノサイトの異常は聴覚機能の障害に繋がる可能性が高い。そのため、今年度は蝸牛の特にメラノサイトの解析を中心に行っていきたいと考えている。メラノサイトを含む神経堤由来細胞で蛍光色素を発現するマウス(Sox10-ires-Venus)とメラノサイトのマーカー(HMB-45)を用いて、蝸牛内へのメラノサイトの遊走と血管条への侵入の様子を観察する。また、血管条メラノサイトに発現し、カリウムイオンの輸送に重要な役割を果たしているカリウムチャネル(KCNJ10)とギャップ結合(Cx26, Cx30)の発現を免疫組織化学で解析する。 蝸牛の感覚神経であるらせん神経節は音を感知する感覚上皮細胞へと神経突起を伸ばしてシナプスを形成する。このときらせん神経節の神経突起は小さな束を形成するが、MASP-3ノックアウトマウスでは束を形成することはない。MASP-3ノックアウトマウスの蝸牛にみられるこの神経投射の異常は、X連鎖性非症候群性遺伝性難聴(DFNX2)の原因遺伝子であるPou3f4や、EphA4、ephrin-B2のノックアウトマウスにも認められるため、MASP-3ノックアウトマウスの蝸牛でのこれら因子の動態について解析を行う。さらに、聴性脳幹反応検査を行い、MASP-3ノックアウトマウスの聴力の評価を行う。
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