研究課題/領域番号 |
23K05978
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大槻 元 京都大学, 医学研究科, 特定教授 (60723278)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
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キーワード | 複合炎症ストレス / 精神疾患モデル / 小脳 / シナプス可塑性 / 内因性興奮性可塑性 / 学習障害 / 妊娠期母体免疫活性化 / 発達期社会敗北ストレス / 精神疾患 / 免疫誘導型可塑性 |
研究開始時の研究の概要 |
私たちは妊娠期の母体免疫活性化と発達期の慢性社会敗北ストレスによる2ヒットモデルマウスの行動実験から、精神疾患モデルマウスでの社交性や好奇心など多岐にわたる行動異常を認めた。また、安静時fMRI による全脳活動計測によって、小脳-中脳-大脳機能結合を含む全脳レベルのネットワーク活動が低下していることも見出した。本申請研究では、精神疾患モデル小脳神経細胞の神経生理学的特徴とシナプス伝達可塑性の解析を行う。電気生理学実験(パッチクランプ)と薬剤投与実験によって、小脳の神経活動、シナプス伝達とそれらの可塑性、および免疫誘導型可塑性を調べ、脳免疫と可塑性が鍵となる精神疾患の機序解明を目指す。
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研究実績の概要 |
2023年度実施研究の成果について、内容、意義、重要性を各計画について示す。 A) 精神疾患モデルマウスの神経興奮性特性変化の解析 (申請時 2023年度に実行予定) 5-8週齢雄の精神疾患マウスモデル(2HIT、MIA、RSDS)と対照群の小脳切片で、プルキンエ細胞から全細胞パッチクランプ記録を行い、次の(i)-(iii)の測定を行った。(i) 段階状矩形波を与え、活動電位発火の違いを調べたところ、モデルマウスで発火頻度の低下を示した。(ii)脱分極条件付けによって、内因的興奮性可塑性が誘導されるか調べるところ、可塑性不全を示した。(iii) LPSによる免疫誘導型興奮性可塑性を調べたところ、モデルマウスで可塑性不全を示した。これらの実験結果から、妊娠・発達期の炎症性ストレスによる精神疾患モデルマウスは、小脳プルキンエ細胞の膜興奮性低下や、内因性・LPS誘導型可塑性に顕著な異常が認められる。 B) 精神疾患モデルマウスのシナプス伝達変化の解析 (申請時 2024年度に実行予定) 精神疾患マウスモデル群と対照群の小脳で、次の測定(i)-(vi)を行った。(i)自発性EPSCの振幅と頻度、EPSC波形を調べたところ、2HITでは自発性EPSCの振幅と頻度が低い。(ii) 微小EPSCは頻度が低下した。(iii)平行線維EPSC応答と(iv) mGluR応答は、モデルマウスで両方応答低下した。(v) 平行線維シナプスLTDは、RSDSで誘導不全、2HITで極性逆転をそれぞれ示した。平行線維LTPはMIAでLTPが増大した。(vi) モデルマウスのプルキンエ細胞をCalbindin染色したところ、スパイン密度減少を認めた。これらは、疾患モデルは小脳プルキンエ細胞の学習に関わる可塑性に顕著な異常を示し、発達障害や自閉症状を示唆した。当モデルマウスに関し、他の学習や性差を調べる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の進捗状況について、申請時 2023年度に実行予定していたA)精神疾患モデルマウスの神経興奮性特性変化の解析 を終えることができた。すでに予備データがあった通り、精神疾患マウスモデル(2HIT、MIA、RSDS)と対照群の小脳プルキンエ細胞は、(i)活動電位発火頻度の低下、(ii)内因的興奮性可塑性の誘導不全、(iii) 免疫誘導型興奮性可塑性不全を示した。 申請時 2024年度に実行予定していたB)精神疾患モデルマウスのシナプス伝達変化の解析 についても、想定以上に進展した。精神疾患マウスモデル群は (i)-(iii) 興奮性シナプス伝達が低下し、2HITプルキンエ細胞の(vi)スパイン密度減少を示唆する。(iv) mGluR応答も低下した。小脳学習に関わる(v) LTDとLTPの異常も各ストレス群で明らかとなったことから、2HIT精神疾患モデルは小脳学習が起こらない可能性がある。発達障害には自閉症状と学習障害を含むので、当モデルマウスについて、種々の学習や性差を調べる必要がある。 共同研究として、群馬大学大学院医学系研究科と連携し、樹状突起Ca2+イメージングも終えた。すでに原稿の執筆に入り投稿準備中の段階にある。一方で、実験推進にあたって、機械を酷使した結果、脳スライサー他、パッチクランプ用機械の故障で苦しんでいる。研究遂行と研究の発展のために、新たな資金獲得と設備整備が必要である。 本研究に関連し、他のストレスモデルを共同研究として調べたところ、小脳以外の視床傍室核前部aPVTの神経細胞では、短期の慢性ストレスによるGABA性抑制性シナプス伝達の減少と神経細胞形状の変化も認められ、これらがケタミン誘導体の投与で回復することが分かった(Kawatake-Kuno et al., 2024)。
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今後の研究の推進方策 |
まず、C)精神疾患モデルマウスのミクログリア枯渇回復および分子シグナル調査(申請時2023-2025年度予定)を達成する。(i) 活性化した病態ミクログリアを標的とし、ミクログリア枯渇によって回復を試みる。2HIT条件付けの際、RSDS期間の前にCSF1R阻害剤でミクログリア除去を行い、4週間後、再増殖した後に、神経活動を測定する。プルキンエ細胞の興奮性、活動電位波形、シナプス伝達を調べ、次に内因的および免疫誘導型興奮性可塑性、シナプス可塑性が対照群と同程度であることを示す。すでに予備研究で種々の動物認知行動の回復を認めた。シナプス伝達の回復も見出した。Ca2+シグナルの回復等も見出した。 次に、(ii) 精神疾患モデルのうち、RSDSとMIAの各々に関して、「仮説1. MIAはmTORシグナルを介して神経活動を低興奮にする」「仮説2検討のため、脳脈管の密着結合構成分子Claudin-5の結合を分解するMMP2/9の抑制」の点を検証する。Rapamycin投与、および、MMP2/9の抑制剤SB-3CT投与、低分子IL-6ST阻害剤投与の回復効果を検証する。 追加研究として、抑制性シナプス伝達も調べたい。ロータロッドによる運動学習不全の調査を行いたい。当モデルマウスについて、他の小脳学習や性差を調べる必要がある。 ミクログリアに注目した自然免疫と獲得免疫系の精神疾患への関与や、脳免疫による神経機能制御に関する研究についても、Patchシークエンスを使って並行して調査を進める。これらの試みは精神疾患における小脳での細胞・分子機序の解明を可能とし、脳内での自然免疫および獲得免疫の研究へ波及し、発達障害や学習障害、神経変性疾患に対するミクログリア標的・抗体薬・核酸医薬治療を実現する治療法創出と創薬に繋がるため、関連研究としてこれらの提案を早急に実行したい。継続した研究支援を強く求める。
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