研究課題/領域番号 |
23K05980
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46010:神経科学一般関連
|
研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
任海 学 和歌山県立医科大学, 薬学部, 学長特命助教 (10401770)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
|
キーワード | 高次視覚野 / 上丘 / 視床 / ラット / 機能イメージング / 発達 / 齧歯類 / イメージング |
研究開始時の研究の概要 |
大脳皮質の高次視覚野は、異なる視覚特徴に応答する多くの視覚領野から構成される。しかし各視覚領野の視覚機能がどの様な神経機構により生み出されるのか、ほとんど分かっていない。本計画では、機能的イメージングと電気生理学的手法を用いて、「中脳上丘を経由する視覚経路が高次視覚の機能発達・獲得に重要な働きをしている」という上丘ガイダンス仮説の検証を試みる。開眼後の発達過程におけるげっ歯類の視覚関連領域の神経活動を測定し、高次視覚野の視覚応答特性を一次視覚野・上丘と対比することで、上丘視覚経路の関与を推定する。
|
研究実績の概要 |
大脳皮質視覚野は、機能・特性の異なる多くの領野から構成されている。ヒトにおいて特定の領野に障害を受けると、その領域に関わる機能が阻害されることが知られている。しかしこれらの領野の特異的機能・特性がどのように獲得されるかは、ほとんど解明されていない。本研究代用者はこれらの特異的機能・特性が、上丘-視床を介して直接大脳皮質に入力する視覚経路に依存していると仮説を立て、ラットを用いて機能的イメージングにより解明を進めている。 近年遺伝子操作が容易に行えるようになり、またマウスと比較して研究しやすい大きな脳を持っており、高い認知能力を持つと考えられていることから、ラットを高次感覚野の研究に用いる有用性は高い。本研究はこれまで、神経にカルシウム感受性蛍光蛋白を発現した遺伝子組換えラットを用いて広域機能的イメージングにより、ラットの大脳皮質の視覚応答を観察する手法を確立した。大脳皮質視覚野上にガラスウインドウを設置し、感覚刺激応答の観察を行ったところ、マウスにおいて多くの領野に視覚応答を引き起こす格子状パターンなど単純な感覚刺激では、高次視覚野、特に運動視に関わると考えられている領野にほとんど応答を引き起こさなかった。比較のためトランスジェニックラットの聴覚野の応答を観察したところ、同様に単純な音刺激では、大きな応答を引き起こすこと出来なかった。この事はマウスとラットの大脳皮質の応答特性が大きく異なることを示している。聴覚野ではより複雑な音刺激に対して様々な領野が応答したことから、高次視覚野においても、より複雑な刺激により応答が引き起こされることが推測される。これらのことは、ラットの大脳皮質がマウスと比較して、複雑な情報処理を行っていることを示唆しており、ラットが高次感覚機能の観察に有用であることを示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者はこれまで、マウスのいくつかの高次視覚野の特性を明らかにしてきた。しかし多くの試みにも関わらず、期待されていたヒトを含む霊長類で広く知られていた形や複雑な空間認知に関わるような複雑な視覚情報処理は、マウスの高次視覚野で報告されていない。研究代表者はこれまで、あまり研究の進んでいなかったラットの高次視覚野の視覚特性を明らかにすることを試みた。最初にカルシウム蛍光指示蛋白を神経に発現するトランスジェニック動物を用いて、ラットの第一次視覚野および高次視覚野を含む広範囲の大脳皮質視覚野測定法を確立した。ラットの視覚野はマウスの視覚野の解剖学的構造が類似しており、それらの視覚特性も類似していると考えられていた。しかしマウスでは大きな応答を引き起こす格子状パターンなどの単純な刺激では、視覚野の神経に大きな応答を引き起こすことができず、特に運動視に関与する背側視覚経路に属すると考えられているRLやAMなどの高次視覚領野はほとんど応答を示さなかった。比較のために観察した聴覚野においても、同様の応答特性における種間差は観察され、マウスで大きな聴覚野応答を引き起こす純音は、ラットの聴覚野に大きな抑制を引き起こした。そこでより複雑な刺激であるFM音やバンドノイズを用いたところ、聴覚野に大きな応答が観察された。この事は、ラットの大脳皮質感覚野が、マウスと比較してより複雑な感覚入力の情報処理を行っていることを示唆している。ラットの高次視覚野の観察には、より複雑で自然な視覚刺激を用いる必要があると考えられる。また複雑な感覚情報処理の研究には、マウスよりもラットの方が有用である可能性が大きい。
|
今後の研究の推進方策 |
高次視覚野の機能獲得機序を研究するためには先ず、ラットの高次視覚野の視覚特性を明らかにする必要がある。研究代表者は、引き続き高次視覚野を効果的に活性化することができる視覚刺激の探索を行う。同様にラットの高次視覚認知機能を評価する実験系の確立が必要となる。研究代表者は視覚機能の中でも、ヒトの顔認識にみられるような、社会性視覚認知機能の行動実験の確立を行う予定である。また広域機能的イメージングは、その領域の集団神経活動を反映しているが、個々の神経活動がどの様であるか、確認する必要がある。既に多点電極によるユニットレコーディングと広域機能的イメージングの同時測定を確立しており、より詳細な高次視覚野の神経の観察を行う。また皮質下(視床や上丘)と大脳皮質の活動の神経活動の同時測定も可能となった。この手法により皮質下のどの部位がそれぞれの高次視覚領野と機能的に関連があるかを明らかにする。ラットの大脳皮質、特に個々の視覚領野はマウスと比較してかなり大きい。一つの領野内のそれぞれの視野に対応する亜領域 (retinotopic map) に、トレーサーを注入することが可能である。これにより、マウスでは困難であった詳細な解剖学的な皮質下領域との結合を明らかにする。新潟大学脳研究所の開発したマウスの頭蓋骨を透明化する技術を導入し、ラットの頭蓋骨の透明化を試みる。この技術により、イメージングのための手術を簡略化し、脳へのダメージを最小限に留めることが可能となると期待される。ラットの高次視覚野の機能および他の脳部位との機能的・解剖学的な関連を明らかにした後は、それぞれの部位の神経活動の操作を行い、高次視覚野の機能獲得機序の解明を目指す。
|