研究課題/領域番号 |
23K06001
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46030:神経機能学関連
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
坂本 一寛 東北医科薬科大学, 医学部, 准教授 (80261569)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 背側運動前野 / 外側前頭前野 / サル / 行動計画課題 / 神経細胞活動 / 前頭前野 / 高次運動野 / LFP |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、前頭前野・運動前野の機能差と協働についての“監督-コーチ”仮説を検証することを目的とする。具体的には行動計画課題遂行中のサル外側前頭前野と背側運動前野から多重電極(多数の記録点が1本のうちに等間隔で並んだ電極)を用いて発火活動とLFPを同時記録する。特に、二領野間のLFP同期とその周波数、LFPおよび発火活動が符号化する情報に着目し、最終目標提示時には背側運動前野→外側前頭前野、行動計画策定時には外側前頭前野→背側運動前野という情報の流れが観察されるかどうかを解析する。
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研究実績の概要 |
複雑な行動を計画・準備・実行する遂行機能の解明は、高次脳機能障害を理解する上でも重要であるが、その歩みは鈍っている。前頭前野と運動前野は遂行機能において重要な役割を果たすが、本研究では、それら2領野、特にそれぞれを代表する目標具体化細胞と行動準備細胞がどのような機能差を持ち、かつ協働しているのかを明らかにする。具体的には、運動前野が提示する様々な可能性の情報をもとに前頭前野が意思決定するという仮説のもと、行動計画課題遂行中のニホンザル前頭前野・運動前野から記録した細胞の出力を反映する発火活動と、入力と関係するLFP(local field potential,局所場電位)を同時記録する。従来の単一細胞記録のみによる手法を超えた新実験パラダイムを提示することで、 前頭前野と運動前野の機能分担を解明し、高次脳機能理解のための神経生理学を大きく推し進める。令和5年度は、行動計画課題のうち、経路探索課題遂行中の背側運動前野の神経細胞活動を回帰分析により精査し、外側前頭前野の活動と比較した。経路探索課題では、眼前の格子状経路に最終ゴールが提示され、遅延期ののち、経路が一部遮断される。その後、ゴー信号が提示され、サルは最終ゴールに向けてカーソルを順序立てて動かす。行動の手順を明確に決定できるのは、経路が遮断された後である。外側前頭前野細胞のカーソル運動選択性は経路が遮断された後に上昇するのに対し、背側運動前野の細胞は経路遮断以前から高いカーソル運動選択性を示した。このことは、運動前野細胞が最終ゴールが示唆する様々なカーソル運動の可能性を表現していることを意味する。これらの結果は、日本生理学会(坂本一寛, 斎藤尚宏, 吉田隼, 虫明元「経路探索課題中の背側運動前野と外側前頭前野の神経活動の比較」第101回 日本生理学会大会 1P-024)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
行動計画課題のうち、経路探索課題遂行中の背側運動前野の神経細胞活動の解析を、継続的に進めている。本課題では、運動の認知的な側面(カーソルの運動)と腕の動き(カーソルを動かすための右手、左手による回内、回外運動)を一定試行数毎に切り替える。つまり、運動ルールが切り替わる。第一次運動野に解剖学的に近い背側運動前野においては、外側前頭前野より、神経発火に対する運動ルールの影響が大きいという予備的な結果を得つつある。また、解析は、スパイク波形に基づき、興奮性細胞と抑制性細胞を区別して行っているが、区別することで、以前の論文(Saito et al., 2005)では明らかにできなかった外側前頭前野の抑制性細胞が運動ルールの情報も反映した活動を示す可能性が出てきた。この点についても精査したい。一方、もう一つの行動計画課題である形操作課題では、近年、LFPについての報告はしたものの(Sakamoto et al., 2022)、データの膨大さ故、神経細胞活動の解析が進んでいない。形操作課題とは、先に示されたサンプル図形に合致するよう、後に提示されたテスト図形を、段階的に変形することを要求する課題で、経路探索課題と同様に、運動ルールを持ち、順序動作の計画をサルに要求する。現在、単一細胞の分離作業を鋭意遂行しているところである。また、後述のLFPと発火の位相歳差の機能的意義解明の準備として、巡回セールスマン問題を題材に、位相振動子間の排他的相互作用がどのような順序に収束するか、最短経路を反映した順序になるかなどをシミュレーションと数理を通じて検討しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、解析の軸足を、形操作課題のほうに移していく。まずは、経路探索課題と同様の神経細胞活動が見られるかどうかを検討する。すなわち、外側前頭前野において、テスト刺激が提示される近傍で、具体的な形操作行動を符号化する細胞が存在するか、それが、最終目標から形操作行動へと符号化する内容が変化するか、一方、背側運動前野においては、サンプル刺激が提示された瞬間から行いうる形操作行動を準備している神経細胞が存在するかを検証する。更には、それらの発火が、LFPとどのような位相関係を持つのか、複数の細胞の間にLFPに対する位相歳差が存在するのか、存在したとしてその位相歳差が海馬の場所細胞のようにこれから行う行動の順序を反映するのか、などを検討する。また、LFPの電流源解析を行い、どの層にどのような電流が存在し、それらと神経発火がどのような関係を持つかを検討することにより、錐体細胞を軸とする大脳皮質のカラム構造の入出力特性(シナプス電流と発火の関係)を前頭前野、運動前野で検討し、その異同から、各領野の独自性と大脳皮質皮質構造の普遍的計算構造を明らかにしていく。必要とあれば、理論モデルも構築したい。
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