研究課題/領域番号 |
23K06018
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46030:神経機能学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
森脇 康博 慶應義塾大学, 薬学部(芝共立), 講師 (00392150)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | ニコチン受容体 / Ly6 スーパーファミリー / Ly6H / 統合失調症 / 認知機能 |
研究開始時の研究の概要 |
統合失調症患者では喫煙率が一般の3倍と高い。喫煙動因として、ニコチンが統合失調症でみられる認知機能障害などの異常を改善させるという、ニコチンによる自己治療の可能性が示唆されている。また、この作用にはα7ニコチン受容体が関与している。申請者はα7ニコチン受容体の内在性機能抑制タンパク質としてLy6Hを新たに発見した。しかしながら、Ly6Hの生理機能は未だ明らかにされておらず、統合失調症の病態への関与は不明である。本研究では、既に作製済みのLy6H欠損マウスを用いてLy6Hの認知機能への関与について、また、Ly6Hの統合失調症における認知機能障害への関連について明らかにすることを目的とする。
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研究実績の概要 |
統合失調症患者では喫煙率が一般の3倍と高い。喫煙動因として、ニコチンが統合失調症でみられる認知機能障害などの異常を改善させるという、ニコチンによる自己治療の可能性が示唆されている。また、この作用にはニコチン受容体のサブタイプのひとつであるα7ニコチン受容体(α7 nAChR)が関与している。申請者はα7 nAChRの内在性機能抑制タンパク質としてLy6Hを新たに発見した。しかしながら、Ly6Hの生理機能は未だ明らかにされておらず、統合失調症の病態への関与は不明である。本研究では、既に作製済みのLy6H欠損マウスを用いてLy6Hの認知機能への関与について、また、Ly6Hの統合失調症における認知機能障害への関連について明らかにすることを目的としている。 本年度はin vivoにおいてもLy6Hがα7 nAChRの機能を抑制していることを明らかにすべく、Ly6H欠損マウスを用いてニコチン誘発振戦の感受性について評価した。マウスにニコチン溶液を投与すると、濃度依存的に振戦症状が増大すること、また、その症状がα7 nAChRに対する選択的阻害剤で抑制されることが報告されている。さらに、ニコチン投与により、内側手綱核や下オリーブ核などでの神経興奮が生じることが報告されていることから、Ly6H欠損マウスにおける神経興奮の度合いをc-fos染色により野生型マウスと比較検討した。解析の結果、Ly6Hがin vivoにおいてもnAChRの機能を抑制していることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生型マウスに0.5, 0.8, 1.0mg/kgでニコチン溶液を腹腔内投与した結果、0.5mg/kgでは投与した全てのマウスで振戦は観察されなかった。0.8mg/kgの投与では、50%のマウスで限られた部位(前肢、頸部、尾部、頭部)での弱い振戦が確認され、1.0 mg/kgでは、66%のマウスで限られた部位での弱い振戦が、33%のマウスで広範囲の部位(頭部を含む上部体幹)での明らかな振戦が確認された。このように用量依存的な振戦誘発が観察された。一方で、Ly6H欠損マウスでは、0.5mg/kgのニコチン溶液の投与により12.5%のマウスで振戦は確認されなかったものの、25%のマウスで限られた部位での弱い振戦が、37.5%のマウスで広範囲の部位での明らかな振戦が、25%のマウスで全身にわたる激しい振戦が確認された。また、0.8mg/kgの投与では、50%のマウスで広範囲の部位での明らかな振戦が、50%のマウスで全身にわたる激しい振戦が確認された。このように、Ly6Hの欠損により、ニコチンに対する感受性の増大が確認された。 ニコチン投与によりnAChRが刺激されることで、梨状葉皮質、内側手綱核、孤束核、下オリーブ核の4ヶ所が興奮すること、また、下オリーブ核の電気破壊により振戦症状が抑制されることが報告されている。そこで、0.5 mg/kgのニコチン溶液投与時のこれら神経核における神経活動マーカー(c-fos)の発現量を解析した。結果、Ly6H欠損群の内側手綱核、孤束核において、c-fos陽性細胞数は野生型群に比べ、それぞれ約1.7倍、2.7倍有意に増加していた。また、Ly6H欠損群の梨状葉皮質では、有意差は無いものの、c-fos陽性細胞数は野生型群に比べ約2.7倍増加していた。以上の結果より、Ly6Hがin vivoにおいてもnAChRの機能を抑制していることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
上記した通り、ニコチン誘発振戦の実験によりLy6Hがin vivoにおいてもnAChRの機能を抑制していることが確認された。しかしながら、抑制しているのがα7 nAChRであるかは定かでは無い。Ly6Hの標的がα7 nAChRであることを確認するため、今後はLy6H欠損マウスとα7 nAChR欠損マウスを交配し、Ly6Hとα7 nAChRの二重欠損マウスを作製し、ニコチン誘発振戦の実験を行う予定である。 Ly6Hの認知機能への関与について評価するため、8週齢のLy6H欠損マウスを用いて前頭前皮質における認知能を評価できる新奇物体認識試験を行った。結果、Ly6H欠損マウスにおいて認知機能の向上は確認されなかった。一方で、海馬の認知能は評価できていなため文脈的恐怖条件付け試験を実施する予定である。また、認知機能が低下する老齢あるいは、認知機能障害を呈する統合失調症モデルにおけるLy6H欠損の認知機能への影響について新奇物体認識試験および文脈的恐怖条件付け試験などを行う。 Ly6Hの詳細な脳内発現部位を知ることは、どのような記憶形成にLy6Hが寄与しているか推測する上で非常に有益である。現在、「Clear, Unobstructed Brain Imaging Cocktails and Computational analysis (CUBIC)」の透明化試薬を用いたLy6Hの全脳イメージングを試みている。
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