研究課題/領域番号 |
23K06036
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47010:薬系化学および創薬科学関連
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研究機関 | 明治薬科大学 |
研究代表者 |
野地 匡裕 明治薬科大学, 薬学部, 准教授 (80312073)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 非安定カチオン / カチオンーパイ相互作用 / 反応制御 / 小員環化合物 |
研究開始時の研究の概要 |
カルボカチオンは炭素上に正電荷をもつ反応活性種であり、求核試薬に対する高い反応性を利用し、炭素原子と炭素、窒素、酸素原子などとの結合を形成する反応に汎用されている。これまで、安定な構造をもつカルボカチオンは有機合成反応に多く利用されて来たが、より不安定な構造をもつカルボカチオンは、その生成と反応制御が困難であることから利用が制限されていた。 本研究では、ひずみエネルギーをもつ小員環化合物の特性を利用し、電気化学的酸化反応を用いる緩和な条件下での不安定なカチオンの生成を検討する。さらに、生成した不安定カチオンを所望の反応に導く手段として、カチオン-π相互作用による反応制御を検討する。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、ひずみエネルギーをもつ小員環アルコールの開環反応によるカルボカチオンの生成と、カチオン-π相互作用を利用する反応制御について検討している。ひずみエネルギーをもつ小員環が置換したアルコール類は、酸化反応によりアルコキシラジカル中間体を経て開環し、炭素ラジカルやカルボカチオンが生成することが知られている。これらの中間体は非常に反応性が高いが不安定であり、例えば、生成する1級カチオンは転位反応や脱離反応を起こし様々な反応生成物を与える。カチオン-π相互作用はカチオン種を安定化させる作用があるため、これを利用して不安定カチオン種の反応制御を検討することとした。 当該年度には、シクロブタノール誘導体の電解酸化を利用した開環反応とピラゾール誘導体との求核反応を検討した。その結果、カルボカチオンを経由したと考えられるピラゾールとの反応以外に、ラジカル中間体を経由したと考えられる反応生成物が数種類得られた。これら生成物の分析から、開環により生じるラジカル種は1級と2級体を経ており、カチオン種は2級へ転位したもののみが得られていることが明らかとなった。そこで、カチオン-π相互作用を利用すべく、大きなπ電子系をもつ金属錯体、すなわち金属-ポルフィリン錯体とシクロブタノールの電気化学的性質について検討を行った。その結果、シクロブタノールに比べて金属ポルフィリン錯体の方がより酸化されやすく、なかでも亜鉛ポルフィリン錯体はシクロブタノールの酸化メディエーターとして有望であることが明らかとなった。 また、ひずみ化合物からのカチオン生成と比較するため、1級、2級ベンジルアルコール類からのカルボカチオンの生成について、電気化学的に発生させる超強酸(電解発生酸)の利用を検討した。その結果、2級カチオンの生成は可能であり、スルホンアミド類との反応が可能となることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、ひずみエネルギーをもつ小員環アルコールの開環反応によるカルボカチオンの生成と、カチオン-π相互作用を利用する反応制御について検討している。ひずみエネルギーをもつ4員環アルコールであるフェニルシクロブタノールをピラゾール誘導体存在下で電解酸化すると、2級炭素にピラゾールが置換した生成物に加え、1級フッ素化体、2級フッ素化体、及び環状ケトン体が得られた。ピラゾール置換体は、1級カルボカチオンが2級カルボカチオンに転位して反応したものと考えられる。また、フッ素化体や環状ケトン体は、ラジカル中間体を経て生成したものと考えられる。本反応はこれら数種の生成物を与える複雑なものであり、反応を制御するため、生成したカチオン種と効果的にカチオン-π相互作用を実現可能なポルフィリン錯体の探索を行った。 ポルフィリン錯体とシクロブタノール酸化電位をサイクリックボルタンメトリーにより解析した。その結果、亜鉛、鉄、マンガンを中心金属にもつテトラフェニルポルフィリンのサイクリックボルタンメトリーより、亜鉛ポルフィリンが最も酸化されやすいことが明らかとなった。これらの酸化電位はフェニルシクロブタノールよりも低いことも分かった。また、亜鉛ポルフィリンにフェニルシクロブタノールを混合して測定したサイクリックボルタンメトリーからは、それぞれ単独で測定したときに比較して電流値の増大が見られた。このことから亜鉛ポルフィリンはシクロブタノールの酸化メディエーターとして働く可能性が明らかとなった。 また、1級、2級ベンジルアルコール類からのカルボカチオンの生成について、電気化学的に発生させる超強酸(電解発生酸)の利用を検討した。その結果、1級アルコールからのカチオン生成は困難であるものの、2級カチオンの生成は可能であり、アルコール類やスルホンアミド類との反応が可能となることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
シクロブタノール類の電解酸化では、共存させた求核試薬との反応生成物に加え、支持電解質として加えたテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレートがフッ素源として働いた1級フッ素化体、及び2級フッ素化体、1級ラジカル体から分子内反応により生成した環状ケトン体が得られている。そこで、これらの反応の条件を反応経路別に最適化し、それぞれの反応における活性種の反応制御を検討する。求核反応においては、ヘテロ芳香族求核試薬に加え、エノール誘導体、アミド誘導体などとの反応を検討する。フッ素化体の生成反応に対しては、様々なフッ素化試薬をフッ素源として用い、フッ素化体の収率向上を行い、金属ポルフィリン錯体などの大きなπ電子系をもつ金属錯体を添加することによる反応制御を検討する。環状ケトンの生成反応についても位置異性体の生成の制御に金属ポルフィリン錯体が利用できないか検討する。 また、電解発生酸を用いる2級カチオンの生成とスルホンアミド類との反応をさらに拡張し、π電子系をもつ物質の添加により1級カチオン生成と反応が可能か検討を行う。
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