研究課題/領域番号 |
23K06070
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分47020:薬系分析および物理化学関連
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
東 達也 東京理科大学, 薬学部薬学科, 教授 (90272963)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 診断マーカー / 誘導体化 / 母骨格特異イオン / MS/MS断片化 / LC/ESI-MS/MS / エストラジオール / 臨床検査 |
研究開始時の研究の概要 |
低分子診断マーカーの精密定量の重要度が益々高まっているが,pg/mL濃度の微量マーカーが対象になると,最新のLC/MS/MSを用いたとしても,しばしば感度や特異性が不足する.その克服を試みて多くの誘導体化法が開発されたが,その大多数ではESI効率が改善されるのみで,MS/MSにおいて診断マーカーに真に特異的な断片イオンが得られない.その結果,感度と特異性の不足の完全解消には至らない.本研究では,MS/MSにおいて「マーカーの母骨格」を含む特異断片イオンの生成を誘起し,感度と特異性の劇的向上をもたらす誘導体化法 (DASPI) を開発する.そして,その臨床検査実用性を評価する.
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研究実績の概要 |
血中エストラジオール (E2) は乳癌に対する薬物療法の効果確認などにおいて測定が不可欠な項目である.しかし,その低濃度,ESI-MS/MS応答性の低さ,さらにはdansyl chloride (DNS-Cl) による誘導体化を施したとしても特異断片イオンが得られないこと,などの理由から,臨床検査で要求される低濃度 (10 pg/mL以下) での精密定量が困難である.そこで2023年度は,E2の母骨格断片イオンを生み出し,感度と特異性の劇的向上をもたらすDASPI技術を開発した.すなわち,試薬として1-(2,4-dinitro-5-fluorophenyl)-4,4-dimethylpiperazinium iodide (MPDNP-F) を4-dimethylaminopyridine (DMAP) の存在下で用いると,目的のE2-MPDNPが定量的に生成し,MS/MSにおいてNO2基のニュートラルロスに基づくE2骨格を含む特異的断片イオンが高強度で得られた.次いで本DASPI技術を用いて血清中E2のLC/ESI-MS/MS定量法を開発した.十分な濃度範囲において,精度,正確度,マトリクス効果,安定性など,各種バリデーション試験の結果は良好であり,定量限界 (LOQ) も5 pg/mLと,乳癌患者の検体にも十分に適用可能な感度を有していた.本DASPI技術を用いた血清分析では,共存物質由来のノイズはほとんど観察されないために高いシグナル-ノイズ比が得られ,現在汎用されているDNS-Cl誘導体化を凌駕する結果が得られた.さらに臨床現場で用いられている化学発光酵素イムノアッセイ (CLEIA) との比較においても,特異性の面では偽高値が回避でき,感度面でも定量値を提供できる検体が多い,という利点が明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のようにE2用のDASPI技術を開発し,極めて良好な結果が得られた.当初は,1) NO2基,ESI効率向上原子団,E2のフェノール性水酸基との反応活性基を有する試薬をデザインし,合成する;2) これとE2との誘導体を調製し,MS/MS挙動及びE2骨格特異断片イオンの生成を精査する;3) 臨床実用性を念頭に置き,100 μLの血清をカートリッジ型器材で精製するのみの少試料かつ簡便で,5 pg/mLのLOQを達成できる方法を開発する;4) 既存のDNS-Cl誘導体化との比較を行い,新手法の優位性を証明する;5) さらに,E2検査用のcertified reference materialであるBCR血清による定量精度の検定も行う;ことを目標とした.1)については,MPDNP-Fが全ての条件を満たす試薬であることから,本研究に用いた.2)については目論見通り,生成した誘導体ではNO2基のニュートラルロスが起こり,E2骨格を含む特異的断片イオンを高強度で得ることに成功した.3)については,試料量,前処理の簡便性,LOQなどの基準を全てクリアした定量法を開発できた.4)については,開発した定量法が感度や特異性など複数の点において,DNS-Cl誘導体化による手法のみならず,臨床現場で使われているCLEIAも凌駕する結果が得られた.5)のBCR血清による定量精度の検定でも極めて良好な結果が得られた.総合すると,臨床検査現場での利用が強く期待できる実用的なE2用DASPI技術ならびにそれを用いたLC/ESI-MS/MS定量法の開発に成功し,本成果を学術論文として発表した.このように,2023年度当初の計画に沿って実験を進め,概ね目的の成果が得られた. 以上を総合し,研究は「概ね順調に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に基づき,2024年度はT3のDASPI技術とLC/MS/MS検査法の開発を目指す.まず,T3のアミノ基とフェノール性水酸基の両方に反応して異なる結合とプロトン親和性を付与する (ダブルラベル化) 試薬を検討する.試薬として4-ジメチルアミノベンゾイルアジド (DABA) を用いるとき,本試薬は加熱によりイソシアナートに変換されるため,2つの官能基にプロトン親和性の高いN,N-ジメチルアミノフェニル (DAP) 基が導入されるとともに,前者と反応してウレア結合を,後者と反応してウレタン結合を形成すると期待される.さらに,導入された2つのDAP基のうち,MS/MSで1つを脱離させ,T3に1つのそれだけを残ことができれば,T3骨格を保持した高強度の特異断片イオンの獲得,延いては高感度・高特異性検出が達成されると期待される.各種バリデーション試験を実施してDASPI-LC/MS/MS測定系を確立し,感度や特異性を中心に実用性を評価する. 一方,上記のDABAによる検討において満足し得る結果が得られなかった場合は,T3の有するアミノ基,フェノール性水酸基,カルボキシ基を一気にメチル化 (アミノ基の4級化アンモニウム基への変換を含めたマルチメチル化) する手法を検討する.3官能基にメチル基の導入が可能なジアゾメタン系試薬を中心に検討し,場合によってはヨードメタンなどの併用を試みる.本誘導体化は,常時正電荷の導入によるESI効率の向上,MS/MSにおいてメチル化部位付近での開裂によるT3骨格含有特異断片イオンの生成を期待して検討する.上記と同様にDASPI-LC/MS/MS測定系の構築,各種バリデーション試験による感度や特異性の評価を実施する.
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